暮らしの視点(23):コロナ禍におけるシニア世代の生活の変化

~より多くの高齢者に届く形での情報発信を~

北村 安樹子

目次

1.感染再拡大下で迎えた8月

人流が活発化するといわれる夏休みシーズンを迎え、新型コロナウイルス感染が再び広がっている。

ただ、感染者数の増加に対し、重症者数はこれまでのピーク時に比べ少ない状況にある。また、コロナ情報を気にかける暮らしが始まってから迎える3度目の夏ということもあって、国民の間でも感染の収束を願う気持ちの一方で、感染が再び拡がるこのような事態をどこかで予感していたところもあるだろう。

日中の気温が高い夏場を迎え、自宅や自宅以外の屋内外で過ごす場合に、熱中症への警戒も必要になっている。シニア世代には、感染情報とともに、日中の気温に関する情報を気にしながら、自宅で過ごす時間が再び増えている人もいるかもしれない。

2.昨年末時点では「外出」「付き合い・会合面」への影響が高割合で継続

感染拡大が第6波を迎える直前の昨年12月に行われた調査によると、60歳以上の男女が経験したコロナ禍による生活の変化のうち最も多くの人があげたのは「旅行や買い物などで外出することが減った」(65.7%)という点で、これに「友人・知人や近所づきあいが減った」(49.2%)、「別居している家族と会う機会が減った」(39.0%)など他者との付き合い・会合に関することが続いた(図表1)。これらの回答は、ふだんどの程度外出や付き合い、会合の機会があったかや、付き合いのある別居の家族や友人・知人の数等によっても異なってくる。このため増減だけで影響の大きさをとらえるのは難しい面もあるが、後者2項目のいずれかに該当すると答えた「他者との付き合い・会合の機会が減った」とする人の合計割合は65.0%と、「旅行・買い物などで外出することが減った」とした人とほぼ同じ水準であった。

このような影響はシニア世代に限らないが、外出や他者との付き合い・会合に関する先の3項目は、同年代を対象に行われた1年前の調査でも上位にあげられている。仕事やボランティア活動、医療・介護サービスに関することなど他の面への影響をあげた人も一定の割合を占めるなか、影響の規模という点では、外出や会合・付き合いにかかわる側面で生活の変化を実感してきた人が多いと考えられる。コロナ下での生活が長期化・常態化するなかで、外出のスタイルとともに、様々な会合や付き合いの形も、感染対策のために以前とは異なるものに変化してきたのだろう。

図表1
図表1

3.より多くの高齢者に届く形での情報発信の重要性

また、コロナ下の生活が長期化・常態化するなかで、外出や他者との対面機会を控える傾向が続いたり、付き合い・会合などで人と対面で会う機会が減ったりして、自宅で過ごす時間が増えた人もいるだろう。そのような生活を通じて、自分や家族が外出する機会や身体を動かす機会をもつこと、他者とのコミュニケーションをよい形で保つことの重要性が、心身の健康の面から再認識されたところもあると考えられる。高齢者に関しては特に、外出機会の減少や活動量の低下に伴う心身の虚弱化を防ぐことの重要性を呼び掛けるメッセージが様々な形で伝えられてきた。

ただ、先に見たコロナ禍による生活の変化についてのシニア世代の回答には、回答者の経済的な暮らし向きや自身の健康状態への評価による違いもみられる。「家計が苦しく、非常に心配である」と答えた人や健康状態について「良くない」と答えた人でも、「旅行・買い物などで外出することが減った」「付き合い・会合に影響あり」という人が半数を超える一方、「電話、メール、オンラインでの連絡が増えた」という人が2割を下回って他のグループに比べ少ない傾向にある(図表2)。このような人では、家計や健康面に不安のない人に比べ変化の幅は小さいものの、お金や健康面の不安を相談できる人や、気軽に情報交換をおこなう機会が少ない人もいると考えられる。外出の頻度や情報機器の利用状況、家族や友人・知人との付き合い等にもよるが、感染者数が再び増加したことで体調の変化等への不安を感じやすくなっている人もいるのではないか。

感染拡大が続いている現状をふまえれば、基本的な感染対策の継続をあらためて呼びかけることに加え、外出自体を控えて自宅で過ごす時間が増える可能性のある人に、健康面でどのようなことに留意して過ごせばよいかについての適切な情報を届けることも重要になる。日中の気温が高い日は、自宅や屋内で過ごす際にも、換気と並行してエアコンなどによる室温環境の調整やこまめな水分補給といった熱中症への警戒も必要なこと、電話やメール等を通じてコミュニケーションをもつことも不安を和らげ、認知機能や判断力の低下を防ぐことといった点に関し、高齢者の利用の多いテレビやラジオ等の媒体を通じたわかりやすく届きやすい形での幅広い情報発信も引き続き求められるのではないだろうか。

図表2
図表2

北村 安樹子


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北村 安樹子

きたむら あきこ

ライフデザイン研究部 副主任研究員
専⾨分野: 家族、ライフコース

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