世界も注目を始めた東アジアの幸福観

~「世界幸福度報告」2022年版より~

村上 隆晃

要旨
  • 近年、GDPなどお金の面だけでは表せない、人々が感じる幸せや人生の良い状態、満ち足りた状態を示す「Well-being(ウェルビーイング)」という考え方に対する国や企業の関心が高まっている。
  • 「World Happiness Report」(「世界幸福度報告」)の幸福度ランキングは新聞報道等で取り上げられることも多く、Well-beingに関連する指標としては認知度が高い。ただし、この幸福度については日本を含む東アジア圏では中間的な回答が好まれ、結果として低い数値の出る傾向が指摘されている。
  • 今年3月に発表された2022年版では、ランキングの公表が始まった2012年以来、初めて東アジア圏の幸福観に着目した「バランス」と「調和」という概念が調査・分析の対象となった。
  • 分析の結果、「バランス・調和は、東アジアだけではなく、世界的にもWell-being、幸せにとって重要な概念であること」「人とのつながりや健康、お金など人々の幸福度に影響の強い要因と同等の重要性を持つこと」「世界的に見ても人生にバランスを感じる人は幅広く分布していること」「貧困にあえぐ人々を経済的に引き上げていくことも当然に重要であること」などが明らかにされている。
  • バランス・調和に関する世界幸福度報告の調査は始まったばかりであり、例えば、バランス・調和に関する他の質問の可能性など、様々な課題があると考えられる。日本人的には周囲との協調に幸せを感じる感覚なども候補にあげられるところであり、今後の更なる研究が注目される。
目次

1.はじめに

近年、GDPなどお金の面だけでは表せない、人々が感じる幸せや人生の良い状態、満ち足りた状態を示す「Well-being(ウェルビーイング)」という考え方に対する国や企業の関心が高まっている。昨年6月に公表された骨太の方針でも経済・財政運営の指針として、Well-beingの実現が謳われており、幸福度の向上は我が国の政策運営という視点でも重要視されるようになっている(注1)。資料1は日本において「ウェルビーイング」というキーワードのGoogle検索のトレンド(2004年以降)を示した図表であり、2021年以降急速に注目度が高まっていることがわかる。

資料 1 「ウェルビーイング」というキーワードの 2004 年以降の検索トレンド
資料 1 「ウェルビーイング」というキーワードの 2004 年以降の検索トレンド

Well-beingについては、GDPのように国際的なコンセンサスのある測定法はまだないが、国際連合の関係機関(注2)が発表している「World Happiness Report」(以下「世界幸福度報告」という)の幸福度ランキングは新聞報道等で取り上げられることも多く、Well-beingに関連する指標としては認知度が高い。

この幸福度については、自分の生活について、0から10までの11段階の「はしご」として捉え、考えうる最悪の生活をはしごの最下段である0段目、最善の生活を最上段である10段目として、現在自分がはしごの何段目にいるかを問う指標である(世界幸福度報告では考案者の名を取って「カントリルのはしご」と記載されることが多い)。

今年3月に発表されたランキングをみると、フィンランドが5年連続1位となるなど北欧を始めとするヨーロッパ諸国が上位を占めている(資料2)。それに、ニュージーランド、オーストラリアといったオセアニアの国々が続く。一方、日本は調査対象の146国中54位と、主要7カ国(G7)の中では最下位となっている。毎年の世界幸福度報告で日本の順位が低いことは、報道などでよく取り上げられるので、目にされた方も多いのではないだろうか。

資料 2 2022 年版世界幸福度ランキング上位国(2019~2021 年の 3 年平均)
資料 2 2022 年版世界幸福度ランキング上位国(2019~2021 年の 3 年平均)

この計測法は幸福度を測る指標として世界で広く認知されているものの、日本を含む東アジア圏では中間的な回答が好まれ、結果として低い数値の出る傾向が指摘されている(注3)。内田(2020)によると、その背景には、欧米では人は神に選ばれた存在であるという宗教的な考え方のもと、その証として、自分の幸福を最大化しようとする傾向があるのに対して、東アジアでは「物事には良い面と悪い面が同時に存在するという『陰陽思想』の影響」があり、「10点満点の幸せが必ずしも理想的なものとして目指されていない」「内閣府の調査で理想の幸福度を尋ねたところ、日本では7.5点を下回っていた」ことが指摘されている(注4)。また、欧米の人々が共有する幸福の概念が「個人的な成功」を要因とした側面が強いのに対し、東アジアでは「対人関係の調和」を要因とした側面が強いことがあることも指摘されている。

こうした文化的な差異を踏まえ、今回の世界幸福度報告では初めて日本を含む東アジア圏の幸福観に着目した「Balance(以下「バランス」)」と「Harmony(以下「調和」)」という新たな幸福度指標について、第6章で検討、分析がなされている。

これは、日本の公益財団法人 Well-being for Planet Earthの働きかけに応え、世界幸福度報告に幸福度調査結果を提供するGallup社が同財団と共同して調査を行った結果を受けたものである(注5)。日本発でWell-beingの概念に東アジアの価値観が反映される試みであり、注目される動きであるので、このレポートで説明する。

2.バランス・調和とは

東アジア圏の幸福観を反映するものとして今回指標化されたバランス・調和であるが、そもそも幸福にとってどのような意味をもつ概念だろうか。世界幸福度報告 第6章の執筆者の一人、ティム・ローマス ハーバード大学研究員は「幸福の原則だと考えている。食事、運動、健康、仕事、人間関係など、『バランス』は幸福のほぼすべての側面に関わる。バランスとは安定や落ち着き、調和はそこにポジティブな構造があることを意味する」と述べている(注6)。

次にバランス・調和がどのように計測されているのか確認する。

資料3はバランス・調和に関する具体的な質問文である。「バランス」と「(心の)安らぎ(Peace)」、「平穏(Calmness)」という3つの概念で聴取している。各質問に対して、回答者は「はい」「いいえ」「わかりません」の選択肢から一つ選んで回答する形式である。

資料 3 バランス・調和に関する質問文
資料 3 バランス・調和に関する質問文

これらのバランス・調和に関する質問と幸福度(カントリルのはしご)の関係について全世界のサンプルを対象に分析したものが資料4である。世界幸福度報告では、バランス・調和以外にも幸福度に関連する多くの質問を行っており、重回帰分析の手法を用いて、幸福度とバランス・調和に関する項目やその他の幸福度と関係の強い項目の関係性を分析している(注7)。

グラフの数字は、各項目が幸福度に与える影響を示しており、数値が正であればプラスの影響、負であればマイナスの影響があることを示している。例えば、安らぎの数値は+0.46となっているが、これは安らぎを感じていると回答した人は、そうでない人に比べて、幸福度が0.46ポイント高いことを示している。逆に失業は-0.38となっており、失業している人はそうでない人に比べて、幸福度が0.38ポイント低いということになっている。

注目されるのは、安らぎとバランスが幸福度に対する影響度が高い他の要因と比較して、信頼できる友人の存在という項目(0.57)を除けば、最も高いか、少なくとも匹敵する水準にある点である。つまり、安らぎとバランスは人々が幸福を感じるメカニズムの中で、中心的な役割を果たす要因に数えられる、ということである。

ここでもう一点重要なことは、バランスと安らぎは東アジアだけではなく、全世界的に見ても幸福度と一定の統計的な関係性が認められた、ということである。

資料 4 幸福度とバランス・調和や幸福度に影響する項目の関係
資料 4 幸福度とバランス・調和や幸福度に影響する項目の関係

3.バランスは東アジアだけではなく、世界的に見ても感じる人は多い

今回の世界幸福度報告ではバランス・調和のうち、バランスに焦点を当てて、集計結果を示している。資料5は調査対象の各国について、バランスに関する質問に「はい」と答えた人の割合(以下、「バランス割合」)の国際的な分布を示している。

東アジア圏では中国や台湾でバランス割合が高くなっているが、欧州の高さも目立つ。

資料 5 自分の人生はバランスが取れていると感じる人の割合(0.0~1.0)の分布
資料 5 自分の人生はバランスが取れていると感じる人の割合(0.0~1.0)の分布

そこで、バランス割合を東アジア圏(日本、韓国、中国、香港、台湾、モンゴル)、欧米諸国(西ヨーロッパ諸国、米国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド)とその他の国々にまとめて集計したのが資料6である。

これを見ると、3者のうち最もバランス割合が高かったのは、東アジア圏(71.2%)ではなく、欧米諸国の81.0%であった。東アジア圏は、むしろその他の国々(69.0%)と近い水準であった。

これらの結果から言えることとして、バランスという幸福概念が決して東アジア圏特有のものではなく、むしろ欧米諸国においても高い傾向が見られるなど、世界的に幸福度に関係する概念として受け止められうる、ということである。

資 6 バランス割合:東アジア圏と欧米諸国、その他の国々の比較(単位:%)
資 6 バランス割合:東アジア圏と欧米諸国、その他の国々の比較(単位:%)

4.バランス・調和は経済的な状態とも強く関係

バランス割合の国際的な分布パターンについて、世界幸福度報告がもう一点指摘するのはバランス割合の高低と一人当たりGDPの間に相関が認められることである。

バランス割合を高い国から順にランキングしていくと、上位10か国には富裕なヨーロッパ諸国が並ぶ一方、下位10か国には貧しいアフリカ諸国が並ぶ(資料7)。

実際、世界幸福度報告では、各国の一人当たりGDPとバランス割合の相関係数を取って統計的に確認したところ、相関係数0.69となり、やや強い正の相関関係が認められることが指摘されている。

つまりバランス割合は客観的にみた経済的な状況(一人当たりGDP)からも強い影響を受けているということであり、国や国際連合のような国際機関にとって、貧困にあえぐ人々を経済的に引き上げていくことはバランス割合をあげ、Well-beingを実現していく上で重要であることが改めて認識できる。

資料 7 バランス割合(上位、下位 10 か国)(単位:%)
資料 7 バランス割合(上位、下位 10 か国)(単位:%)

5.おわりに

世界幸福度報告は、今年で発行10年目の節目に当たる。日本でも2021年がWell-being元年と呼べるほど人々の幸せとそのメカニズムに注目が高まっている時期でもあり、このタイミングでWell-beingに関して認知度の高い世界幸福度報告が東アジア的幸福観について一つの章を当てて取り上げたことは誠に意義深い。

報告では東アジア圏の文化を反映する幸福の概念としてバランス・調和が取り上げられ、分析の対象となった。その結果、「バランス・調和は、東アジアだけではなく、世界的にもWell-being、幸せにとって重要な概念であること」「人とのつながりや健康、お金など人々の幸福度に影響の強い要因と同等の重要性を持つこと」「世界的に見ても人生にバランスを感じる人は幅広く分布していること」「貧困にあえぐ人々を経済的に引き上げていくことも当然に重要であること」などが明らかにされている。

世界幸福度報告 第6章の結論でも触れられているが、バランス・調和に関する世界幸福度報告の調査は始まったばかりであり、例えば、バランス・調和に関する他の質問の可能性など、様々な課題があると考えられる。日本人的には周囲との協調に幸せを感じる感覚なども候補にあげられるところであり、今後の更なる研究が注目される。

以 上

【注釈】

1)国の取組みについては、村上(2022)「ここが知りたい『国民全体の幸せの指標、GDW(Gross Domestic Well-being)に注目』」も参照。
企業主導の取組みでは、例えば、2021年3月に日本経済新聞社や公益財団法人Well-being for Planet Earthなどが「日本版Well-being Initiative」を創設し、「Well-being(実感としての豊かさ)を測定する新指標開発やウェルビーイング経営の推進、政府・国際機関への提言、Well-beingをSDGsに続く世界的な政策目標に掲げること」を目指していることなどが挙げられる。
2)国際連合は2012年に「持続可能な開発ソリューションネットワーク」(Sustainable Development Solutions Network)を設立し、以来、ほぼ毎年「世界幸福度報告」という形で、世界各国の幸福度のランキングや関連する分析を発表している。
3)経済協力開発機構(OECD)編著「主観的幸福を測る OECDガイドライン」(2015年8月)P189、村上(2021)「国民の幸せ(well-being)な人生を政策目標に」P10を参照。
4)内田由紀子「これからの幸福について 文化的幸福感のすすめ」(2020年5月)P62~71を参照。
5)Lambertら(2020)P1~2を参照。公益財団法人Well-being for Planet Earthについては、前掲注1も参照。
6)日本経済新聞(2022)「第3回日経Well-beingシンポジウム」。
7)重回帰分析とは、分析の対象となるデータ(被説明変数などという)について、複数のデータ(説明変数などという)で予測しようとする統計的な分析手法を指す。被説明変数について、使用する説明変数で被説明変数をどの程度予測できるか、どの説明変数がどの程度重要か、といったことを理解するのに役立つ。

【参考文献】

資料2~7は以下に示す「World Happiness Report 2022」より第一生命経済研究所が抜粋、もしくは翻訳、加工して作成。「World Happiness Report 2022」に収載の各国の幸福度などのデータについては、Gallup社の“Gallup World Poll”調査に基づく。

  • John F. Helliwell, Richard Layard, Jeffrey D. Sachs, Jan-Emmanuel De Neve, Lara B. Aknin, and Shun Wang(2022)”World Happiness Report 2022”Sustainable Development Solutions Network. このうち、第6章“Insights from the First Global Survey of Balance and Harmony”の執筆はTim Lomas, Alden Yuanhong Lai, Koichiro Shiba, Pablo Diego-Rosell, Yukiko Uchida, and Tyler J VanderWeele による。
  • Lambert, L., Lomas, T., van de Weijer, M. P., Passmore, H. A., Joshanloo, M., Harter, J., Ishikawa, Y.,Lai, A., Kitagawa, T., Chen, D., Kawakami, T., Miyata, H., & Diener, E. (2020). “Towards a greater global understanding of wellbeing: A proposal for a more inclusive measure”. International Journal of Wellbeing, 10(2), 1-18. doi:10.5502/ijw.v10i2.1037.
  • 内田由紀子「これからの幸福について 文化的幸福感のすすめ」(2020年5月)
  • 河谷善夫「人生への向き合い方とwell-being②」(2022年1月)
  • 経済協力開発機構(OECD)「主観的幸福を測る OECDガイドライン」(2015年8月)
  • 第一生命経済研究所「人生100年時代の『幸せ戦略』」『ライフデザイン白書2020』(2019年11月)
  • 第一生命経済研究所「『幸せ』視点のライフデザイン」『ライフデザイン白書2022』(2021年10月)
  • 丹下博史 時評『2021年を「Well-being変革元年」に!』(2021年11月)
  • 日本経済新聞社「第3回日経Well-beingシンポジウム」(2022年4月25日)
  • 宮木由貴子「ライフデザインの視点『「幸せ」視点のライフデザイン~なぜ今well-beingなのか』」『第一生命経済研究所HP』(2021年11月) (https://www.dlri.co.jp/report/dlri/174360.html)
  • 村上隆晃「Well-beingとライフデザインの幸せな関係」(2021年7月)
  • 村上隆晃「国民の幸せな人生(well-being)を政策目標に~生涯幸福量(WELLBY)という新たな考え方~」(2021年12月)
  • 村上隆晃「人生への向き合い方とwell-being①」(2022年1月)
  • 村上隆晃「ここが知りたい『国民全体の幸せの指標、GDW(Gross Domestic Well-being)に注目』」(2022年2月)
  • 村上隆晃「Well-being経営に役立つ心理的資本」(2022年3月)

村上 隆晃

村上 隆晃

むらかみ たかあき

総合調査部 マクロ環境調査G 主席研究員
専⾨分野: CX・マーケティング、well-being

執筆者の最新レポート

関連レポート

関連テーマ

Recommend

おすすめレポート