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ここが知りたい『国民全体の幸せの指標、GDW(Gross Domestic Well-being)に注目』

村上 隆晃

目次

2021年2月の国会の予算委員会で下村博文・自由民主党政務調査会長(当時)から、「これまでのGDPから、国民一人一人のウェルビーイング(筆注:引用と固有名詞以外、本文中では「well-being」と記載)、幸福、充実度、これを測る物差しとして、GDPからGDW、国民総充実度、新たな物差しとして考えたらどうか」と、国民の幸せを測る新しい指標として、GDW(Gross Domestic Well-being国内総充実度)を採用することが提唱された。

政府においても2021年6月に公表された骨太の方針で、経済・財政運営の指針として「政府の各種の基本計画等について、ウェルビーイング に関するKPIを設定する」ことが謳われている。また、9月にはwell-beingに関する取組の推進に向けて情報共有・連携強化・優良事例の横展開をはかる「Well-beingに関する関係省庁連絡会議」が設置されており、well-beingに関する政策的な動きが始まっている。

こうした流れの中、客観的で物質的な豊かさを測定するGDPでは捉えきれない、国民一人ひとりが心理的に体感できる幸せを意味するwell-beingの総量を測る指標としてのGDWは注目に値するので、本稿で紹介する。

GDWとは何か

一国の物質的な豊かさを測るGDPは国際連合が算出方法(「国民経済計算体系」という)を加盟各国に提示しており、共通の考え方が導入されている。

一方、GDWについては、まだ国際的にコンセンサスを得た算出方法がある訳ではなく、公的な指標も存在しない。ただ、民間の機関が政策活用に役立ててもらうため、GDWの試案とも呼ぶべき指標を策定している事例が見られる。

例えば、イギリスのカーネギー財団はGDWeという指標を作成して公表している(「Gross Domestic Wellbeing (GDWe) TM」はカーネギー財団の商標である)。GDWeは資料1に掲げる10の分野について、それぞれ2~6種類の客観的な統計や主観的なアンケート調査を用いて各分野につき一つの指標を作成している。

その際、それぞれの統計や調査は元の大きさや基準の違いを均して評価するため、正規化(最大値を10、最小値を0とする方式を取っている)した指標を算出する。正規化した各指標については重みを付けず、単純平均したものを分野スコアとする。

最終的に10個の分野スコアの平均値をGDWeとしている。この際も、10個の分野に異なったウエイトを付けず、単純平均を使用する。

GDWeを構成する10の分野
GDWeを構成する10の分野

幸福度と物質的な豊かさとの間に乖離が発生

こうして作成されたイギリスのGDWeと実質GDPの推移を比較したものが資料2である。

これを見ると、イギリスのGDWeは2013年の6.55から2015年6.99まで上昇した後、頭打ちとなっている。2018年からは低下傾向に入っており、足元6.79にまで低下している。一方、GDPについては2013年の1.9兆ポンドから2019年の2.2兆ポンドに至るまで堅調に伸び続けている。2016年以降、国民の幸福度と物質的な豊かさとの間に乖離が生じていたことがわかる。

こうした幸福度と物質的な豊かさの乖離はGDWeのような指標がない日本においてもみられる。

イギリスのGDWeと実質GDPの推移
イギリスのGDWeと実質GDPの推移

日本においても物質的な豊かさは上昇したが、心の豊かさは上昇せず

現在日本にはGDWeのような複数の指標を統合した国民のwell-beingを表す指標はない。ただし、個々人が感じる主観的な幸福度の一つの指標として、内閣府が「国民生活に関する世論調査」を通じて、生活に関する全般的な満足度を長期的に収集しており、参考にできる。

これは個人が感じる主観的な満足度であるので、比較対象として、個人の客観的な経済的豊かさを表す一人当たり実質GDPの推移をみてみる(資料3)。

1人当たり実質GDPは1964年の約100万円から、2020年の約400万円まで4倍に増加してきた。

オイルショックやバブル崩壊、リーマン・ショックなど紆余曲折を経てきたものの、超長期で見れば物質的な豊かさを手にしてきた日本であるが、その成長ほどには生活に満足する人の割合、つまり国民全体の幸福度が上昇していないことが見て取れる。

これは一般に「幸福のパラドックス」(イースタリン・パラドックス)と呼ばれ、日本だけではなく、経済成長を達成した多くの国で見られる傾向である。

日本の生活満足割合と一人当たり実質GDPの推移
日本の生活満足割合と一人当たり実質GDPの推移

国民の幸福度を捉えるGDWが重要に

GDPで測る物質的な豊かさは大切な指標であるが、ここまで見たように国民が心理的に体感できる幸せを捉えきれていない部分がある。また、SDGsとして示されているように持続的な成長が求められる中、無制限に豊かさを追求できる世界ではない。

日本ではまだGDWが具体的に算出されている訳ではない。ただ、イギリスのGDWeが基にしている客観的な統計やアンケート調査に当たるものを、内閣府が「満足度・生活の質を表す指標群(ダッシュボード)」として2019年7月から公表しており、必要な材料は揃いつつある。

民間においても2021年3月に日本版Well-being Initiativeという団体が創設され、「Well-being(実感としての豊さ)を測定する新指標開発や政府・国際機関への提言」を目指す動きが始まっている。

日本において国民が感じる幸福度をどのような指標で測定するのが有効であるかは、官民で今まさに議論が進んでいるところである。GDWのような指標をGDPとともに政策の立案に役立てることは、これからの時代に必要なことと考えられる。

村上 隆晃


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

村上 隆晃

むらかみ たかあき

総合調査部 マクロ環境調査G 研究理事
専⾨分野: CX・マーケティング、well-being

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