暗号資産「メタバース仮想通貨」の衝撃

~あなたの知らない仮想空間で流通する仮想通貨~

柏村 祐

目次

1.注目されるメタバース

最近「メタバース」という言葉を聞く機会が増えている。

「メタバース」とは、meta(超越した)とuniverse(世界)を組み合わせた造語であり、インターネット上に創られた仮想空間を意味する。利用者は自分自身のアバターを操作し、仮想空間内を移動したり、他の参加者と交流できる。

メタバースはなぜ注目されているのだろうか。その理由の1つとして、Facebook(フェイスブック)が社名をMeta(メタ)に変更したことが挙げられる。Meta(メタ)の創設者であるマーク・ザッカーバーグは、2021年10月28日に発表した「Founder’s Letter, 2021」(「創設者の手紙、2021年」)と題するメッセージにおいて、以下の通りメタバースの可能性に言及している。「将来的には、ホログラムとして瞬時にテレポートして、通勤せずにオフィスに、友人とのコンサートに、または両親の家の居間に集まることができるようになります。これにより、どこに住んでいても、より多く行動できる機会がもたらされます。あなたはあなたにとって重要なことにもっと時間を費やし、移動の時間を削減し、そしてあなたの二酸化炭素排出量を減らすことができるでしょう」(注1)。また、Meta(メタ)のみならず、既に大手のゲーム企業、IT企業などの複数の事業体がメタバース事業に参入したことも注目を集める要因となっている。

メタバースにおける経済的な取引では、「メタバース仮想通貨」を中心とした暗号資産が利用される。筆者はこれまで、ステーブルコイン、取引所仮想通貨、ミーム仮想通貨など様々な暗号資産をレポートしてきたが(注2)(注3)(注4)、本稿では、既存のメタバースで活用が進む「メタバース仮想通貨」について解説する。

2.メタバース仮想通貨の価値

メタバースにおいて利用が進む「メタバース仮想通貨」は、現在どのぐらい存在しているのだろうか。2022年1月下旬に暗号資産取引所に上場されている暗号資産約9,000種類のうち、「メタバース仮想通貨」は約200種類であった。時価総額100位以内で絞り込んでみたところ、5種類の「メタバース仮想通貨」が存在することが確認された(図表1)。

図表 1 時価総額ランキング 100 位以内に位置する「メタバース仮想通貨
図表 1 時価総額ランキング 100 位以内に位置する「メタバース仮想通貨

3.「メタバース仮想通貨」の事例

ここで、時価総額ランキング100位以内に位置する「メタバース仮想通貨」のうちDecentraland(通称MANA)とThe Sandbox(通称SAND)について確認する。

「メタバース仮想通貨」の中で最も時価総額が高いMANAは、ビットコインやイーサリアムといった暗号資産と同様、暗号資産取引所で他の暗号資産や法定通貨と交換可能な価値を有する。MANAは、上場当初の2017年9月時点で1MANA2.7円だったが、メタバースが注目されるにつれてその価値は大きく増加し、2022年1月下旬時点では200円台で推移している(図表2)。

図表 2 MANA の価格チャート
図表 2 MANA の価格チャート

MANAが展開されるメタバースでは、MANAを使って仮想空間上で作られた土地、洋服、靴などの「デジタルなモノ」の取引が可能となっている。これらの「デジタルなモノ」はNFT(Non-Fungible Token)と呼ばれる仕組みが使われている(注5)。NFTには、対象となる「デジタルなモノ」がこの世に1つしか存在しないことを証明する「本物のしるし」が使われている。

例えば、自分が保有する土地や洋服をメタバース市場に出品し、売買することが可能である。筆者は実際にメタバースの世界に参加し、出品されている土地や洋服などの「デジタルなモノ」を2022年1月下旬に確認してみた。発売中のランドと呼ばれる土地は全部で980か所売り出し中であり、その内訳として販売区画の単位となるパーセルと呼ばれる1区画が700か所、パーセルを統合して売り出されるエステートが280か所存在していた。メタバース上で販売されているエステートは、建物の外装、内装、商業施設に近い、道路に面しているなどの立地により販売価格が異なっている。例えば、図表3赤枠のエステートは、85,000MANA(図表1の1MANA282.89円換算で約2,400万円)、図表3青枠のエステートは、59,500MANA(同約1,680万円)、図表3黄枠のエステートは、13,999MANA(同約400万)と、それぞれの販売価格が表示される。

図表 3 売り出し中のエステート一覧の一部
図表 3 売り出し中のエステート一覧の一部

また、洋服、靴といった自分のアバターが身に着ける「デジタルなモノ」は「ウェアラブル」と呼ばれ、実際に売り出されている数は945個存在していた。「ウェアラブル」の種類は頭、上半身、下半身、足、付属品などきめ細かく提供されており、好みに合わせて「デジタルなモノ」を選択し、自分自身のアバターに装着できる(図表4)。

図表 4 ウェアラブルの内容と販売数
図表 4 ウェアラブルの内容と販売数

次に確認した「メタバース仮想通貨」SANDは、その価値が2020年8月の上場時には1SAND5.4円であったが、メタバースが注目されるにつれて、2022年1月には400円台の水準で推移している(図表5)。

図表 5 SAND の価格チャー
図表 5 SAND の価格チャー

筆者は実際にSANDが展開されているメタバースに参加してみた。MANAと同様に、NFT化された土地、アバター、洋服などが「デジタルなモノ」として販売されている。SANDにおける「デジタルなモノ」の分類は、ランド(土地や建物)、エンティティ(人間や動物などのキャラクター)、装備(刀や武器)、ウェアラブル(シャツやジーンズなどの洋服)、アート(美術品などの装飾品)の5種類から構成される。自分の好みにあわせてこれらの「デジタルなモノ」を購入し、SANDが展開されているメタバースの中で楽しむことができる。

2022年1月下旬時点で販売されている「デジタルなモノ」の状況は、ランド4,999か所、エンティティ24,132個、装備2,961個、ウェアラブル10個、アート605個となっている。SANDにおいては、土地や建物を購入・売却、賃貸借できたり、キャラクターや装備なども売買が可能となっている。「メタバース仮想通貨」SANDを使えば、これらの「デジタルなモノ」を暗号資産ウォレット間で売買できるため、この世界に魅了された人々が次々と参加している。

4.メタバースが新たなマーケットに

以上、みてきたように「メタバース仮想通貨」は、今後拡大する可能性を秘めたメタバースの取引活動を支える価値を提供している。筆者は冒頭で、Facebook(フェイスブック)が社名をMeta(メタ)に変更し、創設者のマーク・ザッカーバーグが今後のメタバースの可能性を指摘したことについて紹介したが、世界を見渡せば、既にメタバースが新たなマーケットになることを予測した先進的な企業の参入が続いている。

ある大手のゲーム企業では、3Dの立方体ブロックで構成されたメタバースを展開している。そこでは、自分自身のアバターが自由に世界を創造できる。たとえば、他のアバターと一緒に行動したり、土、石、木などを配置し、建物や道具を制作でき、ものづくりや冒険が楽しめる。

また、オンライン対戦ゲームを発祥とするメタバースでは、最大100名のアバターが参加し、設定された島に空から飛び降りて、その中で武器を探しながら生き残りをかける。最近では、有名歌手がメタバース上でライブを行うなどのイベントを開催している。利用者は、自分のアバターを通じて、歌手と一体感のあるライブを体験できるメタバースが展開される。

メタバース上に出現したこれらの新たなマーケットは、時間や空間の制約を超えた存在だ。現実とは異なり、世界中の人がインターネットを通じて簡単に参加できる「場」を創り出しているといえる。

これらメタバースに出現した新たなマーケットで用いられる「メタバース仮想通貨」には、他の通貨に比べどのような優位性があるのだろうか。それは、「取扱のしやすさ」にあると筆者は考える。他の暗号資産であれば、自分自身の暗号資産ウォレットにログインしたうえで、送金先の銀行口座の確認や、慎重な送金処理操作が求められる。加えて、少額だが手数料もかかる。

一方「メタバース仮想通貨」であれば、その都度暗号資産ウォレットに遷移する必要はなく、自分自身のアカウントに事前に預けてある「メタバース仮想通貨」を上限として、仮想空間上で作られたお気に入りの洋服、靴をクリックし、同意すれば購入できるという簡単な操作を実現している。

5.メタバースにおけるつながりを加速する「メタバース仮想通貨」

最初の暗号資産ビットコインが2009年に誕生して約13年が経過し、経済・社会・文化などあらゆる分野でデジタル化がさらに加速している。暗号資産「メタバース仮想通貨」は、時間・空間の制約を超えて世界中の人が参加可能なメタバースにおいて、経済・社会・文化を支える仕組みの1つとして、そしてそれらのつながりを加速する成長エンジンとして、普及し始めている。今後「メタバース仮想通貨」は、メタバースの発展に伴い、その利用価値を大きく高めていくことであろう。


柏村 祐

柏村 祐

かしわむら たすく

ライフデザイン研究部 主席研究員
専⾨分野: テクノロジー、DX、イノベーション

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