デジタル国家ウクライナ デジタル国家ウクライナ

プレゼン資料採点AIの衝撃

~AIはあなたのプレゼン資料を何点と評価するのか?~

柏村 祐

目次

1.プレゼン資料の評価は難しい

いかに効果的なプレゼン資料を作成するかは、多くのビジネスパーソンにとって悩ましい問題である。プレゼンテーションは、自分の企画や提案を相手に伝え、説得力を高め、承認・賛同を得る重要な機会である。そのため、資料の内容や構成、デザインなどの検討・作業に多大な時間と労力を費やすことが多い。しかし、自分が作成した資料は本当に良いものなのか、伝えたいメッセージが明確に伝わるのかを客観的に評価することは難しい。自分の思い入れが強すぎると、欠点や改善点に気づきにくくなってしまうからである。そのため、上司や同僚にプレゼン資料をチェックしてもらい、フィードバックを受けてブラッシュアップするのが一般的だ。しかし、上司や同僚に資料を確認する時間が十分になく、的確なアドバイスを得られないケースも少なくない。また、上司や同僚の主観的な意見に左右され、本来必要な改善点を見落としてしまう可能性もある。

そこで、近年注目されているのがAIを活用したプレゼン資料の評価である。このAIは膨大なデータを解析し、そのパターンを認識することで、資料の構成や内容、デザインなどを客観的に評価することができる。たとえば、文章の読みやすさ、情報の過不足、図表の効果的な使用法など、様々な観点から資料の出来栄えを数値化し、改善点を提示してくれる。本稿では、このプレゼン資料採点AIの実態を解説するとともに、その可能性について述べる。

2.プレゼン資料採点AIの実態

プレゼン資料AIによる評価は、従来の人間によるものに比べ、より客観的で効率的である。以下では、実際にプレゼン資料採点AIがどのようなものかを確認する。

現在開発されているシステムの多くは、大量のプレゼン資料のデータを機械学習し、優れた資料の特徴を抽出することで、評価基準を自動的に構築している。具体的には、文章の構成や表現の明確さ、図表の使い方、デザインの視認性など、様々な要素を数値化し、総合的なスコアを算出する。また、改善すべき点を具体的に指摘し、アドバイスを提示する機能も備えている。

ここでは、実際にプレゼン資料採点AIの実態を確認するために、筆者自身が作成した2つの講演資料を実験対象として、AIがどのようなキャプションを作成するかをみてみよう。まず、「チャットGPTがもたらす生産性革命」という演題の93ページからなる資料をプレゼン資料採点AIに読み込ませ、「内容をチェックし、評価及び点数をつけてください」と指示をした。その結果、プレゼン資料採点AIは「どのような点数評価をお望みですか?」という文章とともに、プレゼン資料の評価軸として想定される内容正確性、論理展開、語彙力、結論を選択できる4つのチェックボックスを表示した。これらのチェックボックスすべてにチェックを入れ送信ボタンを押したところ、4つの基準に対して、具体的な評価結果と点数(10点満点)を提示し、最後に総合評価のコメントと40点満点中34点という点数を表示した(図表1)。

次に、「デジタル先進国事例から考える日本の行政DX化について」という演題の70ページからなる資料をプレゼン資料採点AIに読み込ませ、「添付の講演資料内容をチェックし、評価及び点数をつけてください」と指示をした。その結果、プレゼン資料採点AIは、内容の正確性、情報の新規性、プレゼンテーションのわかりやすさ、資料の体裁という4つの評価軸のチェックボックスを表示した。それらすべてにチェックを入れ送信ボタンを押したところ、4つの基準に対して、具体的な評価結果と点数(10点満点)を提示し、最後に総合評価のコメントと40点満点中28点という点数を表示した(図表2)。

これらの実験の結果により、プレゼン資料採点AIは、資料の構成や内容、デザインなどの客観的な評価を行ううえで、一定の有効性をもつツールであることが確認された。特に、1つめの講演資料では、AIが資料の内容の正確性や語彙力を高く評価したうえで、具体的な改善点を提示し、プレゼン資料の質をさらに向上させるための有益なフィードバックを提供した。2つめの講演資料でも、プレゼンテーションのわかりやすさや情報の新規性、内容の正確性に改善の余地があることが指摘された。

3.プレゼン資料採点AIの可能性

以上みてきたように、プレゼン資料採点AIは、資料の質を向上させる有効なツールとなる可能性がある。このAIは資料の構成や内容、デザインなどの様々な要素を客観的・多角的に分析することができ、作成者が自身の資料の強みと弱みを明確に把握する助けとなる。また、AIを活用することで、時間と労力を節約しつつ、資料作成スキルの向上を図ることができる。さらに、組織内でAIによる評価基準を共有すれば、プレゼンテーションの質的目標に対する共通理解を醸成でき、組織全体のプレゼンテーションの品質向上にも貢献するだろう。

一方で、プレゼン資料採点AIの活用には、いくつかの留意点がある。AIによる評価は、あくまでも参考意見の1つであり、最終的な判断は人間が下す必要がある。また、AIの評価を過度に重視すると、作成者自身の創造性や独自性が損なわれるおそれがある。したがって、AIの評価を参考にしつつも、作成者自身の判断力や表現力を磨くことが重要である。さらに、AIの評価基準が組織の価値観や目的と合致しているかを確認し、必要に応じて調整することも求められる。AIの評価は、組織の文化や目標に沿ったものでなければ、かえって混乱を招くことになる(図表3)。

プレゼン資料採点AIを適切に活用することで、作成者は自身のプレゼン資料作成スキルを向上させ、より説得力のある発表を行うことができるようになる。また、組織全体としても、プレゼンテーションの質の向上を期待できる。このように、プレゼン資料採点AIは、作成者の能力を補完しプレゼンテーションの質を向上させる強力なツールになるではないか。ただし、AIの評価を絶対視せず、人間の判断力との調和を図ることが重要である。AIを適切に活用しながら作成者自身の成長を図ることが、プレゼンテーション資料のさらなる品質向上につながるであろう。

柏村 祐


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

柏村 祐

かしわむら たすく

ライフデザイン研究部 主席研究員 テクノロジーリサーチャー
専⾨分野: AI、テクノロジー、DX、イノベーション

執筆者の最新レポート

関連レポート

関連テーマ