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2021.11.22
テクノロジー
デジタル化・DX
暗号資産(仮想通貨)
暗号資産「ステーブルコイン」の衝撃
~なぜ法定通貨に価値が連動する暗号資産が登場したのか~
柏村 祐
1.話題となったリブラ
仮想通貨や暗号資産という言葉を見聞きすることが多くなっている。 2009年に誕生したビットコインに対しては仮想通貨という呼称が使われていたが、金融庁は、2018年12月に仮想通貨の呼称を暗号資産に変更すると発表し、2020年5月に施行されている。
暗号資産とは、インターネット上でやりとりできる通貨を意味し、ドルやユーロなどの法定通貨と交換できる価値を有する。暗号資産は、「ビットコイン」や「イーサリアム」を筆頭に数千種類存在する。これらの暗号資産は商品の支払い等に使用することができるため、インターネットにおける通貨として高い注目を集めている。
最近では、中米のエルサルバドルのブケレ政権が法定通貨として「ビットコイン」を採用し注目された。これらの伝統的な暗号資産である「ビットコイン」や「イーサリアム」は価格の変動が大きく、1日に数十万も価格が上下することがある。そのような中、暗号資産の価値が安定しない問題を解消するために「ステーブルコイン」が注目を集めている。
「ステーブルコイン」の「ステーブル」とは「固定されている」「安定している」という意味で、安定した暗号資産という意味となる。「ステーブルコイン」登場以前から流通していた「ビットコイン」や「イーサリアム」といった暗号資産は、その価値がドルやユーロなどの法定通貨と価値が連動しないことがあるため、「価値が安定しない暗号資産」と言われる一方、「ステーブルコイン」は、法定通貨との交換比率を固定したり、供給量を調整することによって、法定通貨と価値が連動するような仕組みをもつ「価値が安定している暗号資産」である。したがって「ステーブルコイン」は、「ビットコイン」や「イーサリアム」のように1日で数十万も変動するようなことはなく、「法定通貨の代替」として機能することが可能である。
また、個人がもつ暗号資産のウォレットを介し、従来の国際送金の仕組みと較べて迅速かつ低コストで、いつでもどこでも自由に送金、入金できる「ボーダーレス」な特長をもつ。
さらに、世界には銀行口座を持っていない人が17億人存在(注1)するが、スマートフォンに自分自身が作った暗号資産のウォレットを用意すれば、「銀行口座不要」で法定通貨のように利用できる。また、「ステーブルコイン」を保有したい場合は、暗号資産の取引所で購入することが可能となっている。
筆者は以前、暗号資産のレポートとして、Facebookの「ステーブルコイン」Libra(以下リブラ)を解説している(注2)。リブラは、国境を越える送金コストの問題、送金時間の問題、銀行口座を持たない途上国の人々の金融サービスへのアクセスの問題を解消するために、2019年6月にフェイスブックが構想・発表している。このリブラ構想を契機として、国際的に「ステーブルコイン」に関する規制対応について議論が行われている。そして、様々な議論を踏まえ金融安定理事会(FSB)は、2020年10月に「『グローバル・ステーブルコイン』の規制・監督・監視-最終報告とハイレベルな勧告」を公表した。本報告書の中で、「ステーブルコイン」は、その価値をソブリン通貨等の一種類以上の資産に紐づけることによって、伝統的な暗号資産に見られた高いボラティリティに対応することを目指したものであり、これらは決済の効率性をもたらし、貧困や金融知識が乏しいことによって銀行口座を持てないといった差別を解消し、誰もが金融サービスの恩恵を受けられることを促進する可能性を持つ、と指摘している(注3)。以下では、ステーブルコインに関する現状及び可能性について解説する。
2.ステーブルコインの拡大
ステーブルコインの市場規模はどのようになっているのだろうか。
筆者が11月中旬に確認したところ、70種類におよぶ「ステーブルコイン」が存在していた。時価総額ランキング100位以内に条件を絞ると、6種類(「Tether(以下テザートークン)」、「USD Coin」、「Binance USD」、「Dai」、「TerraUSD」、「TrueUSD」)存在した(図表1)。つまり、フェイスブックが構想したリブラはいまだ実現されていない中で、既に多くのステーブルコインが市場に流通しているのだ。
例えば、「ステーブルコイン」の中で最も市場規模が大きい「テザートークン」は、「ビットコイン」「イーサリアム」「バイナンスコイン」といった暗号資産に次ぐ4番目の市場規模を有する。2018年度に2億ドルだった市場規模は、2021年11月には800億ドルに達している(図表2)。
「テザートークン」はブロックチェーンの技術を活用することで、世界中に迅速に低コストで送金、入金することを可能とする。未だ日本では利用が認められていないが、米国をはじめとする諸外国の取引所では、「テザートークン」を法定通貨に交換することが可能である。また、多くの取引所で「テザートークン」を取り扱っており、暗号資産の取引における基軸通貨として、その取扱量は増加している。「テザートークン」の価値は、テザー社が自前で積み立てている法定通貨などの準備金によってその価値の信用を担保しているとされる。その準備金の状況は少なくとも1日に1回の頻度で更新される。実際、資産状況をホームページ上で確認してみたところ、現金、CP、担保付ローン、社債などが裏付け資産の内訳として報告されている(注4)。
ただ一方で、米商品先物取引委員会(CFTC)は、テザー社が「テザートークン」に関する重要事項の虚偽表示を行ったとして告発を行い、テザー社は4,100万ドルの罰金を支払い和解しており(注5)、今後「テザートークン」の在り方を注意深く見守っていく必要があるだろう。
3.ステーブルコインの可能性
現在は暗号資産の取引における利益確定先として活用される「ステーブルコイン」であるが、今後どのような可能性が考えられるだろうか。
筆者は、それを「インターネット時代の新しい価値」と考える。現在、NFTと呼ばれるデジタル絵画、写真、動画、音楽、ツイッターのツイートなどのデジタルコンテンツの市場は拡大している。主にNFTの取引に利用される「ビットコイン」や「イーサリアム」などの暗号資産では価値の変動が大きいため、これらのコンテンツを取引した後に暗号資産の価値が暴騰したり、暴落するなど不安定な値動きが存在している。また、筆者の知人は、不動産取引においてビットコインで物件を賃貸するサービスを始めたが、ビットコインの価値は大きく変動することが問題であると指摘していた。
以上みてきたように、「ステーブルコイン」は、発行する運営会社が価値総額と同額の現金やCPを準備金として積み立てることで法定通貨と連動するように設計されており、伝統的な暗号資産である「ビットコイン」や「イーサリアム」がもつ価格変動問題を回避する仕組みとなっている。「価値が安定している暗号資産」である「ステーブルコイン」は、「法定通貨の代替」として国境を越えた様々な商取引や日常生活における経済活動への活用が見込める。「ステーブルコイン」は「インターネット時代の新しい価値」として創造された最先端のテクノロジーであり、この創造物をどのように活用していくかの構想力が求められているといえよう。
ただし、「ステーブルコイン」は運営会社の信用によって成り立っているため、その経営が悪化すれば、「価値が安定している暗号資産」として機能することが難しくなることも想定される。「ステーブルコイン」の信用力確保のためにも、運営会社に対する定期的な監査、点検が必要といえるだろう。
【注釈】
1)The World Bank GroupHPより
https://www.worldbank.org/en/news/press-release/2018/04/19/financial-inclusion-on-the-rise-but-gaps-remain-global-findex-database-shows
2)柏村祐「Libraの衝撃 ~IoM(インターネットオブマネー)と呼ばれるイノベーション~」
3)日本銀行HPより
https://www.boj.or.jp/announcements/release_2020/data/rel201016e.pdf
4)TetherHPより
https://tether.to/wp-content/uploads/2021/08/tether_assuranceconsolidated_reserves_report_2021-06-30.pdf
5)CFTCHPより
https://www.cftc.gov/PressRoom/PressReleases/8450-21
柏村 祐
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。