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DXの視点『クレームメール対応におけるAI活用』

柏村 祐

目次

クレームメール対応におけるAIの活用

現代の企業にとって、顧客からのクレームに迅速かつ適切に対応することは非常に重要である。クレーム対応の主な手段である電話とメールは、顧客満足度やブランドイメージに直結するため、慎重に扱う必要がある。特にメールでの対応は、内容の明確さと記録性に優れている一方で、表情や声のトーンが伝わらないため、誤解を招くリスクがある。したがって、クレームメールへの対応では、顧客の気持ちや要望を理解し、適切な文章で応えることが求められる。

近年、クレームメール対応におけるAIの活用が注目されている。AIは迅速かつ効率的な応答を可能にし、顧客のニーズに合わせてカスタマイズされた対応を提供できる。本稿では、クレームメールにおけるAIの活用について概観し、顧客対応においてAIがどのように貢献できるかを考察する。

AIによるクレームメール対応のプロセス

AIを活用することで、クレームメールへの対応を迅速かつ効率的に行うことができる。AIは自然言語処理技術を用いて、顧客のメールから不満の内容や感情、具体的な問題点を分析し、適切な応答を生成する。

クレームメール対応におけるAIの活用は、事前準備工程と返信メール生成工程の2つの段階に分けられる。事前準備工程では、AIの役割や振る舞いを設定し、有効化することが重要である。例えば、「顧客からのクレームメールの返信案を作成すること」をAIの役割とし、「フォーマルな応答」「相手に不快な思いをさせない」「クレーム内容を詳細に洞察する」ことを事前に設定する(資料1)。

資料1 AIにクレーム対応の設定をする様子
資料1 AIにクレーム対応の設定をする様子

次に、企業の落ち度がある場合とない場合の2つのクレームメール事例を用いて、返信メール生成工程を検証する。

まず、企業に落ち度があるクレームメールに対し、AIに返信案の作成を指示する。AIは事前の設定に従い、クレーム内容(破損、作動不良、早期故障)や顧客の要望事項(全額返金、品質管理の強化、迅速な解決策の提示)を把握し、フォーマルかつ適切な返信案を瞬時に作成した(資料2上部)。

次に、企業に落ち度がないクレームメールに対し、「顧客がインターネットの情報を誤解している可能性がある」という指示文を添えてAIに返信案の作成を依頼する。AIはクレーム内容(安全性への懸念、健康リスク)や要望事項(正確な情報開示、対処法)を理解し、フォーマルで適切な返信案を即座に生成した。(資料2下部)

資料2 資料2 AIによる返信案
資料2 資料2 AIによる返信案

これらの事例から、AIを活用することで、クレームメールへの迅速かつ適切な対応が実現され、顧客との信頼関係の構築に貢献できることがわかる。ただし、AIは完璧ではないため、人によるモニタリングと対処プロセスを用意することも重要である。AIが作成した返信案の内容確認や、顧客からの追加のフィードバックに基づいて適切に人が関与し、必要に応じた直接顧客とのやりとりによって問題を解決することが求められる。人とAIの協働により、より高度な顧客サービスを実現できるだろう。

クレームメール対応の構造とAIの役割

クレームメール対応には、名乗り、お詫び、事実確認、質問・共感、解決策・代替案、結びという一定の共通フレームワークが存在する。各ステップは顧客の不満を解消し、信頼を築くために重要な役割を果たす。AIの活用は、これらのフレームを適切に実行するうえで有効である。自然言語処理技術を用いたAIは、クレームの内容を正確に理解し、顧客の感情を把握することができる。また、AIの迅速なデータ処理能力により適切な解決策を提案し、効率的な対応を実現する。適切なクレーム対応には、商品やサービスに関する知識、コミュニケーション能力、怒りへの対処法などが必要とされる。これらのスキルは、クレームを効果的に処理し、顧客との良好な関係を維持するために不可欠である。クレーム対応が不適切であると、二次クレーム(最初の対応者に対するクレーム)につながるリスクがあり、企業の信用低下を招く可能性がある。したがって、初期段階で問題を解決し、二次クレームの発生を防ぐことが重要である。

人とAIの比較では、AIは一定のレベルで迅速かつ一貫した対応が可能であるのに対し、人の能力にはばらつきがある。そのため、クレーム対応の手順通りにAIが素早く対応した後、人がフォローする流れが顧客満足度の向上につながると考えられる。

AIを活用したクレームメール対応は、顧客満足度の向上、ブランドイメージの保持、オペレーションの効率化に大きく寄与する可能性がある。AIによる迅速かつ適切な対応は、顧客との信頼関係を強化し、長期的な顧客ロイヤルティの構築につながるだろう。また、AIの進化に伴い、今後はさらに複雑なクレームに対しても柔軟かつ高度な対応が可能になることが期待される。このようなAIの活用は、個別サービス間の質のばらつきを解消し、サービス全体の質を向上させることになるだろう。

柏村 祐


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

柏村 祐

かしわむら たすく

ライフデザイン研究部 主席研究員 テクノロジーリサーチャー
専⾨分野: AI、テクノロジー、DX、イノベーション

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