NFTの衝撃

~75億円で落札されたデジタル絵画の謎~

柏村 祐

目次

1. 75億円で落札

デジタル絵画の落札額に注目が集まっている。
 2021年3月には、美術品オークションハウスのクリスティーズでデジタル絵画「The First 5000 Days」が約6,935万ドル(約75億円)という高額で落札された。その作者Beeple氏の作品は、他にも高額で落札されている。たとえばアメリカ前大統領のトランプ氏を表現した「CROSSROAD #1/1」は、約660万ドル(約7億2,000万円)で落札されている。
 このようなデジタル絵画はJPEGファイルであり、簡単に複製が可能である。それにもかかわらず、なぜここまで落札金額は高騰しているのだろうか。その理由は、これらのデジタル絵画には、データが本物であることを証明する仕組みが埋め込まれているからだ。そこで本稿では、デジタル絵画が本物であるという証明を可能にしたNon-Fungible Token(以下NFT)(注1)、日本語で「代替が不可能なブロックチェーン上で発行されたしるし」を意味するテクノロジーの活用について概観する。

2. NFTの登場

あなたはキャンバスに描かれた絵画を購入したことがあるだろうか。
 絵画の世界では、有名な芸術家が描いた絵画には鑑定機関による鑑定書が発行され、その絵が本物であることは鑑定書によって証明される。
 一方、デジタル絵画は、簡単に複製が可能であり、インターネットを経由して世界中に拡散されてしまう。従来のデジタル絵画は、どれが本物なのかの「しるし」が無いため、真贋を見極めることは困難であった。ところが、テクノロジーの進化に伴い創り出されたNFTによって、そのデータがオリジナルであることを証明できるようになったため、デジタル絵画の本物がどれであるのかを判別できるようになった。つまりNFTは、対象となるデータがこの世に1つしか存在しないことを証明する「本物のしるし」といえる。「The First 5000 Days」を75億円で落札した人は、21,069×21,069ピクセル(319,168,313バイト)のJPEGファイルと、このデジタル絵画がオリジナルであることを証明するNFTを受け取ることになる(図表1)。

図表1
図表1

NFTは、ブロックチェーン「Ethereum」上で構成される分散化されたデータベースに安全に管理される。デジタルのデータは改竄やコピーが容易で、違法にコピーされたコンテンツが流通しやすい。ブロックチェーンにあるデジタルデータは、ノードと呼ばれるブロックチェーン上の参加者による相互検証により改竄やコピーが困難なため、デジタルデータに「本物のしるし」を与えることに成功している。
 この「本物のしるし」となるNFTの特徴は「扱い易さ」と「付加価値の追加」である。「扱い易さ」は、NFTの仕様が共通規格になっているため、規格に則って発行されている限り、複数のマーケットプレイスやブロックチェーンのウォレット上でも簡単に取り扱える。例えば、ブロックチェーン「Ethereum」のウォレットを持っていれば、eコマース上に販売されている「Ethereum」の規格に則ったNFTを購入できる。実際筆者は、「Ethereum」のウォレットでとあるeコマース上で販売されているNFTを暗号資産で購入してみたが、簡単に購入できた。
 また、購入したNFTは自分自身のウォレット上に保管されるため、所有者は暗号資産と同様に自分自身のNFTを自由に移転することができる。仮に遠く離れた家族や友人にNFTの所有権を移転したいと思えば、移転したい相手のウォレットにNFTを送付すればよい。
 「付加価値の追加」については、NFT流通時に手数料を付加できることが注目される。たとえば、芸術家A氏がデジタル絵画をB氏に販売し、B氏がC氏にその絵を転売し利益を得ても、本来芸術家A氏に利益はない。しかし、絵の購買代金の一部を芸術家に還元するプログラムをNFTに追加すると、転売される都度芸術家A氏に購買代金の一部を還元することができる。NFTにこのようなインセンティブ設計を埋め込めば、新しいお金の流れを作ることができる。

3. NFTの可能性

NFTの活用はデジタル絵画だけに留まらず、写真、動画、音楽、アニメ、ツイッターのツイートなどのデジタルコンテンツに対象範囲を拡大している。
 アメリカで絶大な人気を誇るプロバスケットリーグNBAは、トレーディングカードを独自ブロックチェーン「Flow」を利用して販売している。エキサイティングかつ迫力のあるプレー動画は高額で取引されており、人気のあるトッププレイヤーのコンテンツは特に注目度が高い。例えば、トッププレイヤーとして活躍しているLEBRON JAMESのダンクシュートの動画は12.5万ドル(約1,360万円)で購入されている(図表2)。

図表2
図表2

テクノロジーの進展により、誰もが魅力的なデジタルコンテンツを創り、インターネットを通じて世界中に発信することができる。デジタルコンテンツの「本物のしるし」を可視化できるNFTは、従来考えられなかったデジタルコンテンツの新しいマーケットを創造している。有名な画家の絵に高値がついて取引されているのと同じように、NFTの登場で、オリジナルのデジタルコンテンツがその価値を正当に評価され、活発に取引される世界が実現するかもしれない。
 デジタルコンテンツが氾濫し、簡単にコピーされることが横行する現代において、NFTは、デジタルコンテンツの価値を正当に評価するきっかけとなっている。また、動画プラットフォームやSNSを通じて発信されるデジタルコンテンツにNFTが付加されることにより、個人の活躍を後押しするテクノロジーとして社会を大きく変革する可能性を秘めているといえるだろう。

【注釈】
1) ERC721規格により発行した非代替性トークンのこと。ERCは、Ethereum Request for Commentsの略であり、イーサリアムの技術のことを指す。

柏村 祐

柏村 祐

かしわむら たすく

ライフデザイン研究部 主席研究員
専⾨分野: テクノロジー、DX、イノベーション

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