「今後関係性を深めていきたい人」は?

~ライフコースの多様化と人づき合いのライフデザイン~

北村 安樹子

目次

別稿(「互いにありのままでいられる人」は?」)では、当研究所が行った調査から、他者との関係性について、「困ったときに助け合う人」「精神的なきずながある人」「互いにありのままでいられる人」が、家族・親族や友人・知人間でどう異なるのかを考察した。その結果、いずれに関しても家族・親族を該当者としてあげた人が多く、家族・親族以外の友人・知人にも該当者がいるとした人を上回った。

本稿では同じ調査から「何かあったときに相談できる人」と「今後関係性を深めていきたい人」の回答結果について、ライフステージとの関連性やそれらが家族・親族と友人・知人間でどう異なるのかを考察する。

なお、調査時の設問文は「あなたにとって、次のような人はどのような人ですか(いくつでも)」とした上で、「何かあったときに相談できる人」と「今後関係性を深めていきたい人」の解釈は、基本的に回答者の主観的な捉え方に委ねた。前者は実際に相談や支援が必要かどうかにかかわらず、必要な場合に相談できると感じている人、後者は既存の関係かどうか、個人的な関係かどうかにかかわらず、様々な形・目的で既存の関係をよりよい関係にしていきたい人、新たな関係を得たい人、などが想定される。

1.何かあったときに相談できる人―「家族・親族」が中心だが、若者で多い「友人・知人」

「何かあったときに相談できる人」については、「家族・親族」をあげた人が全体の76.3%に及んだ(図表1)。家族・親族のうち、最も多くあげられたのは男女とも「配偶者」であり、「母親」「兄弟姉妹」がこれに続いた(図表省略)。「学校・学生時代の友人・知人」や「職場や仕事関係の友人・知人」など「家族・親族以外」をあげた人は36.3%、このような人が「誰もいない」と答えた人は13.1%であった。「家族・親族」をあげる人は「家族・親族以外」を大きく上回っており、何かあったときの相談先として、家族・親族の存在は大きいことがうかがえる。

ただ、ライフステージ別にみると、独身(39歳以下)の人では「家族・親族」をあげた人が61.8%と他のライフステージに比べ低く、「家族・親族以外」(52.3%)と「誰もいない」(18.6%)の割合も高い。独身(39歳以下)や「夫婦のみ(39歳以下)」の時期は「学校・学生時代の友人・知人」をあげる人の割合が高く、家族を形成する前のライフステージにおける「学校・学生時代の友人・知人」の存在の大きさがうかがえる。また、子どもがいる人では「家族・親族」をあげる人の割合が一貫して高いが、「学校・学生時代の友人・知人」や「職場や仕事関係の友人・知人」など、「家族・親族以外」の友人・知人をあげる人も一定の割合を占める。子どもがいない(40歳以上)の人も含めて、学校・学生時代や、職場・仕事を通じて、何かあったときに相談できる人とのつながりを得る人は多いと考えられる。

図表 1 何かあったときに相談できる人(全体、性別、ライフステージ別)<複数回答>
図表 1 何かあったときに相談できる人(全体、性別、ライフステージ別)<複数回答>

2.今後関係性を深めていきたい人―独身、子どもがいないミドルで高い「友人・知人」

では、「今後関係性を深めていきたい人」については、どのような傾向がみられるのだろうか。

回答結果をみると、「家族・親族」をあげた人が60.7%であったのに対し、「家族・親族以外」をあげた人は39.1%であった(図表2)。「誰もいない」と答えた人は20.2%と、先にみた「何かあったときに相談できる人」(13.1%)を上回った。「何かあったときに相談できる人」に比べ「家族・親族以外」をあげた人が多いが、「今後関係性を深めていきたい人」がいない人も一定の割合を占める。また、家族・親族のなかでは「配偶者」をあげた人が最も多く、男性では「母親」、女性では「子ども」がこれに続いた(図表省略)。

なお、独身(39歳以下)の人では、「家族・親族」をあげた人が39.9%と他のライフステージに比べ低い一方、「学校・学生時代の友人・知人」(30.8%)や「恋人」(25.8%)など「家族・親族以外」をあげる割合が高い。「家族・親族」をあげる人は子どもがいない(40歳以上)の人でも低く、人生後半期の生き方を考えるなかで、「学校・学生時代の友人・知人」や「職場や仕事関係の友人・知人」、「趣味・余暇等を通じた友人・知人」との関係を重視していきたいと感じている人もいるのかもしれない。

また、子どもがいる人では、子の成長とともに「家族・親族」をあげる人がおおむね減少するが、末子が就学を終えた人では再び上昇する。末子の学校卒業は教育費の終了という経済面のライフデザインにおける大きな節目であり、子の就職や結婚等の出来事にともなって夫婦・親子関係の再構築が行われることも、こうした意向に関連している可能性があるだろう。なお、末子が就学を終えた人では、「趣味・余暇等を通じた友人・知人」「地域や近所の友人・知人」をあげた人の割合も高まる。これらの機会を通じた新たな他者との関係や、既存の関係を様々な形でよりよいものにしていきたいという意向をもつ人もいると考えられる。

図表 2 今後関係性を深めていきたい人(全体、性別、ライフステージ別)<複数回答>
図表 2 今後関係性を深めていきたい人(全体、性別、ライフステージ別)<複数回答>

3.ライフコースの多様化と人づき合いのライフデザイン

今回の調査では「今後、関係性を深めていきたい人」として家族・親族をあげた人が多く、家族・親族との関係をよりよいものにしたいと感じている人が多いことが明らかになった。子育て中の男女には、仕事を効率的に行って、家族と過ごす時間や、家族をサポートする時間を増やしたいと感じている人もいるだろう。また、「今後関係性を深めていきたい人」として家族・親族をあげる傾向は末子が学校を卒業した人でもみられ、子の成長や自立を機に、配偶者と過ごす時間や、親やきょうだいとのコミュニケーションを重視したいと考える人もいることが示唆された。

一方、独身(39歳以下)や夫婦のみ(39歳以下)など、家族を形成する前のライフステージの人では、「今後関係性を深めていきたい人」として家族・親族以外の友人・知人をあげた人が多く、「学校・学生時代の友人・知人」や「恋人」との関係性を重視したいとする意向がみられる。「家族・親族」をあげる人は、子どもがいない(40歳以上)の人でも低く、親の加齢や介護、死を経験し、自身の人生後半期の生き方や働き方を考えていくなかで、親以外の家族・親族や友人・知人との関係を大切にした生活を志向する人もいることが浮かび上がった。ライフコースが多様化し、自身のライフデザインについて主体的・自律的に考える人が増えていると思われるなか、他者との関係を深めたり、増やすことを通じて、自分や他者の仕事の可能性を拡げたり、健康的な生活につなげたいと考える人もいるのかもしれない。相手の立場や状況を慮ることや、自分にできることを考えることが、既存の関係をよりよいものにする場合や、新たな関係を導いて、他者との関係を深める場合もあるだろう。

なお、「何かあったときに相談できる人」がいると感じることは、実際に相談や支援が必要かどうかにかかわらず、日々の暮らしを営む上で安心感につながることが知られている。学校・学生時代や、職場や仕事をはじめ、多様な機会を通じた他者との出会いを大切にすることや、健康面や経済面の備えに関する知識を身につける機会をもつことも、このような人が何かあった場合に必要となる情報や、信頼して相談できる人を得ることにつながるのではないだろうか。

北村 安樹子


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

北村 安樹子

きたむら あきこ

ライフデザイン研究部 副主任研究員
専⾨分野: 家族、ライフコース

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