健康寿命の延伸へ 循環器病対策の推進も

~総合的相談支援体制の構築に注目~

後藤 博

目次

1. 要介護の主な原因は循環器疾患

健康寿命は「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」とされ、その延伸に向けた取り組みは世界共通の課題となっている。

健康寿命の延伸に大きく影響する要介護の主な原因を年代別にみると、現役世代の40~64歳については、脳血管疾患や心疾患といった循環器疾患が47.8%と約半数を占めている(図表1)。また、65歳以上の高齢世代でも、循環器疾患が要介護の原因の第1位である。

高齢世代では認知症、関節疾患、骨折・転倒なども大きな原因になってはいるが、70歳代までは、循環器疾患である脳血管疾患が要介護の最大の原因となっていることがわかる。

図表 1 介護が必要となった主な原因(年齢階層別)
図表 1 介護が必要となった主な原因(年齢階層別)

2. 着実な進展が望まれる循環器病対策の推進

こうしたことも背景に、「健康寿命の延伸等を図るための脳卒中、心臓病その他の循環器病に係る対策に関する基本法」が2019年12月に施行されている。この法律では、国、地方公共団体、医療保険者の責務に続いて、国民に適切な対応を促している。具体的には、「国民は…(中略)…正しい知識を持ち、日常生活において循環器病の予防に積極的に取り組むよう努めるとともに、自己又はその家族等が循環器病を発症した疑いがある場合においては、できる限り迅速かつ適切に対応するよう努めなければならない」とされている。

これは、要介護の最大の原因である循環器病を抑制するために、生活者一人ひとりが循環器病への理解を深め予防に努める必要性が高まっていることから、患者や家族に限らず国民全体の予防の努力義務を明文化しているものと考えられる。

ところで、循環器病の特性として、救命・後遺症軽減のために迅速な診療・治療が求められるケースが圧倒的に多い。治療後は、症状の変化に応じた医療・介護・福祉の各分野での多岐にわたる支援が必要となる。そのため、治療と生活の両面における包括的相談支援体制の必要性が従来から指摘されてきた。

図表2のとおり、循環器病による身体機能は、発症してから急激に低下するのが特徴で、回復には個人差があり発症前と同じ程度まで戻らないケースが多い。また、脳卒中については、再発や合併症によって身体機能が再び低下する可能性が高い。一方、心不全については、身体機能の回復と低下を繰り返しながら徐々に機能低下していくのが一般的だ。

図表 2 疾患別身体機能の低下イメージ
図表 2 疾患別身体機能の低下イメージ

こうした身体機能の変化に応じて、患者には適切な医療が、患者・家族には生活支援としての介護・福祉サービスが必要となる。しかし、実際には相談すべき先が細かく分かれていて、支援を選択・決定するうえで困惑することも多い。

医療面では、専門性の高い医療を受けられる機関は限られていて、適時適切な治療を本当に受けられるのかという問題がある。さらに、医療提供体制が急性期、回復期、維持期に分化していることで、限られる時間の中での転院など、希望に沿った支援の吟味が難しいという問題がある。生活支援の面でも介護施設サービスには利用期限が設定されているものもあり、入退所を余儀なくされるケースが多々ある。こうした中、医療・治療情報の連携だけでは、患者・家族等の生活課題は十分に解決されない。そのため、医療・介護・福祉の包括的な支援が求められる。

現行制度における相談先は、基本的に医療は医療機関・かかりつけ医、介護はケアマネジャーを通じた介護サービス提供施設、障害福祉は障害支援サービス提供機関というように異なっており、その中で担当・相談先も細かく分かれている。そのため、支援を受ける側は、必要な支援の選択に困惑することがある。また、専門分化により相談先や確認先が多くなり、手続きも煩雑で、制度改正により支援サービスを受ける要件、サービス内容が変わることもある。

このように、現行制度では、支援を主体的に選択するための相談、コーディネートといった、支援につながる伴走の機能が不十分な状況にある。

そのような中、患者が包括的・総合的な支援が得られやすい体制構築に向けた動きがようやく見えてきた。その中核となるのが循環器病総合支援センター(仮称)だ。

3. 循環器病総合支援センター(仮称)のモデル事業が開始

循環器病総合支援センター(仮称)のモデル事業は、2022年度から実施される方向で検討が進められている。包括的・総合的な相談窓口が設置・運営される当センターの役割は、図表3のとおり、総合的な支援体制の中核を担うことである。具体的には、電話やメールなどで循環器病に関する相談支援を受けられることに加え、専門家による支援検討会の開催や啓発のための資料作成、地域の病院・かかりつけ医などとの連携を推進する。

まず数か所でモデル事業を実施し、その効果検証で良い結果が得られれば、将来的には各都道府県での設置を目指す方向だ。同センターは各都道府県からの推薦を受け、総合的な支援を担うことのできる病院に設置されるという。

同センターの相談機能が確立され、多岐にわたる相談へのアクセスが容易となり、国民が正しい知識・情報を得る機会が増えることが期待されている。

図表 3 循環器病総合支援センター(仮称)のイメージ
図表 3 循環器病総合支援センター(仮称)のイメージ

4. 身近なサービス支援の活用を取り込む意識を

患者・家族としては、居住地域でこのモデル事業が展開されるようになった場合には、積極的に相談支援サービスを活用したい。提供される情報に注目し、正しい知識を得て生活に役立てることが望ましい。

また、モデル事業地域に該当しなくても、要介護の原因として循環器病が最も多いことを再認識するべきだ。自身は大丈夫だと思っていても、災害対策と同じように身近な地域で活用できる支援、相談先を確認・確保しておくことが大切である。

総合支援センターを巡る連携支援の構想は、専門分化と連携強化の推進による医療の高度専門化といった利点を踏まえつつ、支援を受ける側の利便性を高めるトライアルとも言える。地域全体の理解と合意形成、関係者の協働とコミュニケーションが大切となろう。

生活者自身も、健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できるよう、危険に備えるという意味でも、こうした地域における制度、支援整備により関心をもつことが求められるだろう。


【参考文献】

  • 2019年国民生活基礎調査(2020.7)
  • 厚生科学審議会「第16回健康日本21(第二次)推進専門委員会」(2021.12)
  • 厚生労働省「第6回循環器病対策推進協議会」(2021.12)
  • 厚生労働省「循環器疾患の患者に対する緩和ケア提供体制のあり方に関するワーキンググループ」(2018.4)
  • 厚生労働省第4回脳卒中に係るワーキンググループ(2017.5)
  • 日本循環器学会 日本脳卒中学会「脳卒中と循環器病克服第二次5ヵ年計画」(2021.3)

後藤 博

後藤 博

ごとう ひろし

ライフデザイン研究部 主任研究員
専⾨分野: 社会福祉、保健・介護福祉

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