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2025.11.11
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障害福祉計画見直しによる共生社会の深化
~制度から文化への転換~
後藤 博
- 目次
1.制度と現実の乖離
わが国では「障害者基本法」「障害者総合支援法」「障害者差別解消法」など、障害者施策を支える法制度が整備されてきた。「障害者基本法」は「社会モデル」の考え方を反映し2011年に大幅改正、「障害者総合支援法」は2012年に成立、「障害者差別解消法」は2013年に成立(2021年改正)した。特に2010年代以降、国連「障害者の権利に関する条約」(日本は2014年批准)の理念を国内法に反映させる動きが加速した。
これらは権利保障や地域生活支援の基盤として重要な役割を果たしてきたが、現実の社会では依然として課題が多い。たとえば、当事者の声が政策決定に届きにくいこと、支援の地域格差が大きいことなどが挙げられる。このような「制度の整備」と「現実の社会」の間にあるズレが、共生社会の実現を阻む最大の要因である。制度改革が進んでも、社会意識や人間関係の変化が伴わなければ、制度は形式にとどまり、理念が空洞化する。
この空洞化は、たとえば障害者計画と障害福祉計画との関係をみても明らかである。障害者計画と障害福祉計画の関係をまとめると図表1のようになる。前者は「大きな総合計画」であり、後者はその「一部を具体化する実行計画」というイメージになる。
障害者計画(総合計画)は、市町村などの障害者施策の全体をカバーする「理想」や「基本方針」であり、「生活支援」「教育」「雇用」「まちづくり(生活環境)」「啓発」など、幅広い分野を含む。
一方、障害福祉計画(実行計画)は、障害者計画の分野とぴったり重なるように(一体的に)策定される。例えば、障害者計画の分野のうち、「生活支援」であれば、「生活支援」(障害福祉サービスや相談支援など)に関する部分を抜き出して具体化する計画であり、ホームヘルプやグループホームの必要量など「具体的な数値目標」を定める。「障害者計画(理想)で掲げた『生活支援』の目標を達成するために、障害福祉計画(実行計画)では具体的なサービス量を決める」という関係である。
このように制度上は「障害者計画」が「障害福祉計画」という実務を導く関係だが、現実は異なっている。計画策定時の意見聴取は、行政案を確認するだけの形式的な場になりがちで当事者の本当の声が反映されにくいためだ。本来あるべき計画初期からの協働がなければ、理念と現実の間にギャップが生じることになる。
障害者計画(理想)とは、当事者の切実な「声」や「願い」を集めて作られた、未来への「約束」である。もし障害福祉計画(実行計画)が、この「約束」と切り離されて策定されるならば、それは「声」を無視し、行政や事業者の「都合」だけでサービスが決められる体制に他ならない。それは、客(当事者)の注文(理想)を無視し、厨房(行政)の都合だけで料理(サービス)を出すレストランのようなものである。結果として、当事者が真に必要とする支援は届かず、当事者の声が反映されない、管理のための福祉へと向かう重大な危険性がある。
内閣府の「障害者に関する世論調査」等をみても、障害者への「理解」は進んでも、「心のバリア」の解消や具体的な交流については課題が残ることを示しており、制度の理念と国民の日常的な意識との間の温度差を示唆している。
「理念(考え方)」に基づく障害者計画が、障害福祉計画という「実行(現実)」に反映されなければ「理想と現実のギャップ」を埋めることができない。

現在、2027年度に向けて障害福祉計画及び障害児福祉計画に係る基本指針の見直しが進められている。これは障害者総合支援法および児童福祉法に基づき、市町村・都道府県が3年を1期として策定・見直しを行う行政計画である。
この制度の見直しは単なる法的再構築ではなく、制度を社会文化へと昇華させる過程でなければならない。今後の焦点は、制度そのものの更新を、形式的な改定作業に終わらせるのではなく、制度を社会文化として根づかせる「文化的成熟」の重要なプロセスとして位置づけるべきである。
2.現状と課題:共生社会の未成熟
2013年から10年間の施設入所支援の利用者数の推移を障害支援区分別にみると、2013年を1とした場合、支援区分6の利用者は1.38倍に増加しているものの、他の区分の利用者は減少している(図表2)。こうしたことからも、全ての障害者にとってサービスが充実したとは言い切れないといえる。
区分5以下の利用者が減少している背景には、国の障害福祉政策における最大の柱である「施設入所から地域生活への移行」がある。これは「障害のある者も、施設ではなく、住み慣れた地域で暮らせるようにする」という方針によるものである。支援区分が比較的軽い人々(特に区分1~4)が大幅に減少しているのは、施設を退所して、親元やグループホーム、一人暮らし(居宅介護などを利用)へと生活の場を移した結果と解釈する見方もある。
また、サービスが多様化したこと、すなわちこの10年間で、施設入所「以外」の選択肢であるグループホーム(共同生活援助)や居宅介護(ホームヘルプ)といった「地域で暮らすためのサービス」が大幅に拡充されたことも影響しているといえる。

しかしながら、現行制度には、以下に述べる通り、行政主導の形式的な運用、評価の形骸化、情報発信の閉鎖性などの問題点があり、共生社会の成熟を妨げている。
障害福祉計画は国の基本計画に基づき、各自治体が策定している。障害福祉計画は理念上は当事者参画や地域生活支援を掲げているが、実際には行政主導の形式的な運用に留まりがちである。制度運用は形式的な側面が残り、計画策定においては上位からの方針が中心となる傾向が見られる。支援構造は役割分担が明確である一方で、「支援する側/受ける側」という関係性が固定化されやすく、当事者の状況に応じた柔軟な支援の展開を難しくしている。こうした中で、支援のあり方については、当事者が主体的に関与できる協働的な関係性の構築が望まれる。
また、評価指標は量的成果に偏り、支援による生活の質的変化が評価されにくい。例えば「サービスの利用者数」や「事業所の整備数」といった量的指標(アウトプット)は測定しやすい。しかし、「支援の結果、本人の自己肯定感がどう変わったか」「地域との交流がどれだけ増えたか」といった質的成果(アウトカム)を測る指標の導入が遅れている。
さらに、利用可能なサービスや制度に関する情報が、それを真に必要とする当事者や家族の手元に十分に届いていないという情報提供の問題もある。たとえばグループホームなどのサービスが制度上拡充されたとしても、その情報自体が、支援を必要としている当事者や家族に「届かなければ」、そのサービスは存在しないのと同じである。加えて、仮に情報が発信されていても、それが専門用語ばかりであったり、申請手続きが過度に複雑であったりするなど、一般の人には「分かりにくい」という障壁が存在する。行政側が「知らせたいこと」だけを一方的に発信し、当事者が「本当に知りたいこと」(例えば利用者の口コミのような実態)が手に入らないという、情報の「一方通行性」も、この閉鎖性を構成する深刻な問題である。
これらは制度の不備というよりは、それを実行するための「制度の使い方」と「社会意識」の問題である。すなわち、制度が人々の関係性を変える仕組みとして機能していないことが、共生社会の成熟を妨げている。
3.改善策の方向性:制度を「文化の器」として再設計する
障害福祉計画の見直しは、制度更新にとどまらず、社会の関係性を再構築する営みである。以下に述べる通り、行政改革、人材・資源改革、文化・意識改革の三位一体によって、「支援する社会」から「共生社会」への転換を目指す必要がある。制度を単なる支援の枠組みではなく、文化を育む「器」として機能させるとき、共生社会の深化は初めて現実のものとなる。
(1)行政改革:制度を横につなぐ
行政の縦割りを超え、福祉・教育・医療・雇用を統合的に扱う体制を整えるべきである。そこで、分野横断的な課題共有を進めるために、自治体に「共生社会推進本部」を設置することが考えられる。いわゆる「縦割り行政」の弊害として、たとえば、学齢期は教育(文科省)、卒業後は福祉・雇用(厚労省)と所管が分かれ、支援の連続性が途切れやすい。共生社会推進本部は、こうしたライフステージを通じた一貫した支援の「司令塔」として機能することが期待される。
また、評価指標を量的KPI(Key Performance Indicator重要業績評価指標)から、「生活の質」「地域参加」「本人満足度」などの成果指標へ転換することで、施策の実効性を高める。たとえば、「就労移行支援事業所の利用者数(量的KPI)」ではなく、「就労後の定着率と本人の職業満足度(成果指標)」を重視する。これにより、施策の焦点が「サービスを提供すること」から「生活の質を高めること」へと移行する。
(2)人材・資源改革:現場を支える
福祉職の待遇改善や業務環境整備を進め、地域連携による多職種協働を推進する。
障害福祉サービス事業所の職員だけでなく、地域の民生委員、医療機関(医師・看護師)、教育機関(教師)、ハローワークの担当者などが連携し、一人の当事者を多角的に支えるチームアプローチを指す。たとえば、共生の担い手を育成するために、福祉職と地域住民が学び合う「共生人材アカデミー」を設置することが考えられる。また、公共施設や学校などを「地域共生拠点」として再活用し、障害のある人が自然に地域生活に参加できる場を増やすことが求められる。
(3)文化・意識改革:社会を耕す
制度改革だけでは十分でなく、社会全体における文化としての変容が必要である。当事者参画を「意見聴取」から「政策共創」へ発展させ、政策形成の初期段階から当事者が対等に関与できる仕組みを整える。教育現場には障害理解教育を体系的に導入し、企業や地域にも「共生リテラシー研修」を広げる。また、共生活動の優良事例を評価・発信する「共生アワード」などを設け、社会的共感と連帯を醸成することが効果的であると考えられる。
4.制度から文化への架け橋としての見直し
障害福祉計画の見直しとは、制度整備を目的とするものではなく、制度を通じて社会の文化を再生させる行為である。すでに制度そのものは整っているが、共生の文化は未成熟である。課題は制度の不足ではなく、その使い方と社会意識の未熟さにある。
ゆえに今後の方向性としては、制度を「支援の仕組み」から「関係づくりの器」へと再構築し、行政・当事者・地域が協働して制度を文化に昇華させることが求められる。真の共生社会は制度によって築かれるのではなく、人と人の関係によって育まれるものである。制度はあくまで「きっかけ」や「道具」に過ぎない。制度というツールを使いこなし、地域の日常の中で当事者と周囲の人々が具体的な交流を積み重ねること(文化的実践)こそが、共生社会の土壌を耕すことにつながる。
障害福祉計画の見直しは、制度と文化の架け橋として位置づけられるべきであり、理念としての共生を日常の文化へと転換することこそ、今後の福祉社会における最大の課題である。
【参考文献】
-
内閣府『障害者基本法(2011年改正)』(2011年8月)
-
厚生労働省『第6期障害福祉計画・第2期障害児福祉計画の概要』(2022年5月)
後藤 博
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。

