四半期見通し『アジア・新興国~中国景気は勢いに乏しく、世界経済の減速懸念も足かせとなる展開が続く~』(2024年1月号)

西濵 徹

目次

中国経済は需要回復が遅れる展開が続くか

足下の中国経済を巡っては、内・外需双方に不透明要因が山積する状況が続いている。こうした状況ながら、7-9月の実質GDP成長率は前年比+4.9%に伸びが鈍化しているものの、前期比年率ベースでは+5.3%と堅調に推移しており、供給サイドをけん引役に底入れする動きが続いている。なお、党及び政府は1兆元規模の新規国債によるインフラ投資の拡充のほか、地方政府による来年度の債券発行枠の前倒し実施を可能するなど、景気下支えに向けた内需喚起の取り組みが強化される動きがみられる。

中国においては、過去にも「●兆元」と規模を前面に押し出した景気対策が度々実施されてきたものの、足下で1兆元はGDP比で0.8%程度に留まる。さらに、過去に何度もインフラ投資が実施されており、限界的な乗数効果や潜在成長率の押し上げに繋がる効果が低下している可能性を勘案すれば、短期的な景気押し上げを上回る効果を期待することは難しいと見込まれる。さらに、足下では若年層を中心とする雇用環境は改善の見通しが立たず、地方都市を中心とする不動産市況の低迷は地方財政の圧迫要因となるなど、財政出動を通じた景気下支えの足かせとなる懸念もくすぶる。よって、今年については成長率目標(5%前後)の達成は充分可能と見込まれる一方、来年については頭打ちの流れが変わるとは見通しにくく、一段と伸びが鈍化する展開は避けられないと予想される。

アジア新興国も国内・外双方で不透明要因山積

中国以外のアジア新興国については、なかでもASEANやNIEs諸国は中国経済への依存度が高く、外需については中国景気の動向に左右される展開は避けられないであろう。さらに、来年にかけては欧米など主要国景気が一段と頭打ちの様相を強めることで外需に下押し圧力が掛かる展開も予想され、外需をけん引役にした景気拡大の道筋は狭くなる可能性が高くなることが考えられる。

一方、米中摩擦やデリスキングによるサプライチェーン見直しの動きは、地理的に中国に近いこれらの国々への投資誘致の動きが活発化する動きに繋がっており、対内直接投資の堅調さが景気を下支えする展開が期待される。ただし、足下では食料品を中心とするインフレ再燃の動きに加え、中銀の利上げ実施による累積効果も重なり、家計消費をはじめとする内需の重石となる懸念がくすぶるなど、経済成長率が大きく上振れする展開は見通しにくい。なお、アジア新興国では台湾(総統選、総選挙)を皮切りに、インド(総選挙)、インドネシア(大統領選、総選挙、統一地方選挙)、韓国(総選挙)などで選挙が予定されており、これらに伴う関連支出拡大の動きは一時的に景気を押し上げると期待されるが、その後は反動による下振れ圧力がくすぶる展開も予想される。他方、選挙を意識したインフラ関連を中心とした公共投資の拡充が図られる動きもみられ、当面のアジア新興国の景気は公的需要に支えられる展開が続くであろう。

資料1 財新製造業・サービス業PMIの推移
資料1 財新製造業・サービス業PMIの推移

資料2 インドとASEANの製造業PMIの推移
資料2 インドとASEANの製造業PMIの推移

西濵 徹


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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