Side Mirror(2023年11月号)

佐久間 啓

所謂主要先進国の中央銀行はインフレのターゲットへの回帰を目指し政策金利の引き上げ進め、いずれも10数年ぶりとなるレベルまで到達、インフレもピークは越えたことから利上げ終了は近いと匂わせるものの利上げ打止め宣言は出せない状況が続いている。

一方、アジア諸国もインフレ上昇から2022年には利上げに転じる国が増えたものの、主要先進国で起きたしつこい“サービス”インフレは目立たず“モノ”のインフレも比較的落ち着いていることからインドネシアは2023年1月以降、インドは2023年2月以降利上げを停止している。また南米はインフレ高進からいち早く利上げに転じた地域であるが、ブラジル、チリは2022年中に利上げ停止、2023年には利下げに踏み切っている。

以前、基軸通貨USドルの利上げは新興国通貨、経済を直撃して債務問題を引き起こすと言われてきた。加えて債務問題は利上げ局面の後半、ピークを過ぎてから表面化してくることが多いとも言われていた。しかし今や世界の債務残高はどの時代よりも圧倒的に大きくなっているにもかかわらず足元で大きな問題にはなっていない。今次局面ではソブリンではなく民間企業部門での債務拡大なのでこれまでの“債務危機”とは違うという指摘がある。確かに大きなソブリン危機は想定できないが、債務拡大と金融引き締めは相性が悪い組み合わせであることは変わらない。

債務問題が起きるのは債務の金利負担が増えて返済が滞る、或いは債務で賄った資産サイドが上手く回らなくて返済が滞るからであるが、これだけの債務残高でこれだけのUSドルの大幅な利上げがあっても大きな問題が起きてないということはそれ以上に資産が収益性、健全性を維持しているからなのか。それともUSドルの利上げは始まってからようやく20か月、まだまだ利上げ局面終盤とも言えず、金利負担の増大、資産の傷みが目立つのはこれからということなのか。注意を怠り“灰色のサイ”を暴れさせてはいけない。

(佐久間 啓)

佐久間 啓


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