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Well-being LDの視点『母子家庭に不足する2つの資源(時間とお金)』

福澤 涼子

目次

増える母子世帯とその資源不足

昨今の物価高を受けて、より厳しい生活を強いられている日本の母子家庭。少子化のなか、母子世帯の割合は増え続けており、今や子どものいる世帯の1割が母子世帯である。その母親のうちおよそ9割は就業しているのにもかかわらず、母子世帯のおよそ半数は貧困世帯である。

そして、貧困なのは経済面だけではない。「時間の貧困」という言葉もあるように、稼ぎ手として働くシングルマザーは時間的な資源もふたり親世帯と比較して大きな差がある。

資料1 6歳未満の子どもを育てる親(有業)の世帯別 育児・家事の平均時間(平日)
資料1 6歳未満の子どもを育てる親(有業)の世帯別 育児・家事の平均時間(平日)

母子世帯の時間資源の格差

まず、そのような時間資源の格差を詳しく見ていく。資料1は、6歳未満の子どものいる有業の親の育児時間の比較である。これをみると、ふたり親(共働き)の平日の育児時間が242分であるのに対し、母子世帯では87分と約3分の1に止まる。

その背景として、長時間の就業が挙げられる。主な稼ぎ手である母子世帯の母親は、ふたり親世帯の母親と比較して長時間の就業となる傾向にある。それでも、経済的な余裕がない場合が多く、家事代行などの外部サービスを利用したり、時短家電を購入して家事時間を削減するのは難しい。仕事と家事の時間のために、育児時間を削らざるを得ない状況だと考えられる。

こうした育児時間の不足は、子どもの教育や生活習慣にも影響を及ぼす可能性がある。内閣府「令和3年子供の生活状況調査」によると、「ふだんの勉強の仕方」について、家の人に教えてもらうと回答した中学生は、ふたり親世帯で26.0%なのに対し、母子世帯では15.1%となっている。「朝食や夕食などを毎日食べる」や「ふだん、ほぼ同じ時間に寝ている」と回答した中学生も母子世帯の方が少ない。また、中学生の子供を育てる世帯のうち、「子供に本や新聞を読むように勧めている」、「テレビ・ゲーム・インターネット等の視聴時間等のルールを決めている」と回答した世帯も、ふたり親世帯より母子世帯の方が少ない。

これらの結果には、経済的な問題、親自身の教育への関心の影響もあろうが、親が子どもに関わることのできる時間のゆとりが不足することで、教育や生活に関する声掛けの機会が減ったり、食事の提供が日によっては難しかったりするなどの状況があることは想像に難くない。

母子世帯の経済的資源の格差

次いで、経済的資源を見てみよう。「国民生活基礎調査」によると、母子世帯と児童のいる世帯の間には、児童扶養手当などを含めた平均所得、平均可処分所得ともに2倍以上の開きがある(資料2)。また同調査によれば、母子世帯のうち生活意識について苦しいと回答する割合(「大変苦しい」39.4%、「やや苦しい」35.9%の合計)は、75%を超えている。

資料2 母子世帯と児童のいる世帯の平均所得の差
資料2 母子世帯と児童のいる世帯の平均所得の差

さらに、母子世帯の中でも母親の雇用形態によって大きな差が生じている。資料3は働くシングルマザーの就業上の地位別平均年間就労収入の分布である。「正規の職員・従業員」の場合、半数以上が自身の就労で年収300万円以上を得ているが、「パート・アルバイト等」の場合には、75%が就労年収200万円未満となっている。そのため、「パート・アルバイト等」の平均年間就労収入は「正規の職員・従業員」の半分以下(平均150万円)だ。母子世帯のなかでも、非正規雇用で働く母子世帯が特に貧困に陥りやすいといえる。

資料3 シングルマザーの就業上の地位別平均年間就労収入
資料3 シングルマザーの就業上の地位別平均年間就労収入

実際、母子世帯の母親の約4割が非正規雇用で働いている。その理由として、正規雇用で就業したくても、採用されない点がある。厚生労働省「令和3年度 全国ひとり親世帯等調査」によると、母子世帯になる前に「正規の職員・従業員」として就業していた割合は、35.2%に止まる。正社員の中途採用は即戦力が求められることが多いため、ブランクがある場合、再就職の難易度は高い。子育て中だと、残業や出張に制約があるため、さらに不利になる。

一方、シングルマザーの中には、育児時間の確保のために、あえてパートで働く人も多いことが先行研究(注1)でも報告されている。先の育児時間の不足という問題に対して、育児時間を取るか、収入を取るか、シングルマザーは2択を迫られている様子がうかがえる。

子育て・仕事を天秤にかけずに生きられるように

収入や安定面でいえば、正規雇用の方が望ましい。一方で、子育てや柔軟な働き方への理解が乏しい職場だと、正規での就業継続は難しいことがある。たとえば、短時間勤務などの両立支援制度は、入社1年目は使えない企業も多い。育児時間を確保できるよう対象を広げれば、正規雇用を望むシングルマザーも増えるだろう。

また、子どもが安心して過ごせる施設や居場所を、地域社会が整えていくことも重要だ。たとえば、ふたり親世帯に比べひとり親世帯の方が、子どもが不登校になる割合が高い(注2)。フリースクールなど子どもが安心して過ごせる学校以外の場所の提供は、シングルマザーの就労を安定させることにもつながるだろう。

子育てには、時間とお金、どちらも欠くことはできない。子育てに必要なそれらの資源を、家庭環境にかかわらず確保できる社会を目指すべきであろう。

注1:周燕飛『母子世帯のワーク・ライフと経済的自立』労働政策研究・研修機構2014年

注2:独立行政法人 労働政策研究・研修機構「子どものいる世帯の生活状況および保護者の就業に関する調査2018」2019年

福澤 涼子


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

福澤 涼子

ふくざわ りょうこ

ライフデザイン研究部 研究員
専⾨分野: 育児、家族、住まい(特にシェアハウス)、ワーキングマザーの雇用

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