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- 四半期見通し『米国~景気後退回避もインフレとの闘いは長期化~』(2023年7月号)
米景気は減速傾向も労働市場は依然好調
米国では、インフレ高進を受けたFRBの積極的な利上げ、米中堅銀行破綻による信用の引き締まり等を背景に、リセッションが懸念されている。
23年1-3月期の実質GDP成長率(2次推計)が前期比年率+1.3%(10-12月期同+2.6%)と減速した。良好な雇用・所得環境が持続するもと、暖冬によって個人消費が急拡大したため、国内最終需要が前期比年率+3.2%と加速、米国内需要の堅調さが示された。しかし、景気の先行き懸念の強まりや需要の鈍化を受けた在庫投資の大幅な押し下げによって、GDP成長率は鈍化した。
4-6月期に入っても、5月に企業の景況感を示すISM景気指数で、製造業が46.9と調整を続けたほか、非製造業が50.3まで低下し50割れに近づいた。このようなもと、5月の非農業部門雇用者数は、前月差+33.9万人(4月同+29.4万人)と加速し堅調さを維持した。民間部門が前月差+28.3万人(4月同+25.3万人)と幅広い業種で増加したため、増加ペースを速めた。民間では、強い需要で人手不足の続く医療・社会援助が大幅に増加したほか、専門・技術サービス、飲食店、建設業、輸送・倉庫、教育サービス、芸術・エンターテイメント・余暇、小売業、その他サービスが高い伸びとなった。また、派遣業、保険、不動産・リース、宿泊、卸売業が増加した。一方、減少した業種は、大手でリストラの増加した情報産業のほか、内外需要が鈍化した製造業など。米中堅銀行破綻の影響で商業銀行は前月差▲0.58万人減少した。
基調をみても、非農業部門雇用者数は3カ月移動平均で前月差+28.3万人(4月同+25.3万人)、6ヵ月移動平均で同+30.2万人(同+29.3万人)と21年8~11月をピークに減速傾向を辿っているものの、堅調な増加ペースを維持している。また、失業率は、失業者の増加により5月に3.7%(前月3.4%)と大幅に上昇したものの、自然失業率と推測される4.0%を下回っている。さらに、自発的失業率は12.5%(4月14.0%)と低下し労働市場の逼迫度合いの緩和を示唆しているが、高い水準にとどまっており、労働環境が引き続き良好なことを示している。
インフレ環境(前年同月比)では、4月のPCEデフレーターが+4.4%(3月+4.2%)、PCEコアデフレーターが+4.7%(3月+4.6%)と上昇した。FRBが賃金インフレとの関係で注目している住居、医療、金融・保険を除いたサービスが低下した一方、賃貸料、帰属家賃が上昇した。PCEは、22年6月の+7.0%をピークに低下傾向を辿っているが依然高い上昇率にとどまっているほか、PCEコアは、22年3月の+5.4%をピークに低下しているものの低下ペースが鈍く、FRBの目標である前年比+2%から依然かなりの距離がある。

23年に成長鈍化も深刻な景気後退は回避
3月10日に総資産規模で米商業銀行第16位のシリコンバレー銀行(SVB)は、資産運用の失敗に起因する預金の急激な流出によって経営破綻した。12日には、シグネチャー銀行が経営破綻するなど、金融リスクが台頭した。中小商業銀行の連鎖破綻を回避するために、米政府は対応策として、2行を連邦預金保険公社(FDIC)の管理下に置いたうえ、全預金の保護を決めた(通常25万ドルが上限)。また、SVBなどと似た状況にあるいくつかの中小商業銀行が無理な資産売却を回避し、預金流出を招かないために、FRBによる融資の担保価値を額面で評価する「バンク・ターム・ファンディング・プログラム」を設定した。これらの措置により、資産価格の急落や、信用不安の広がりを抑制できた。ただし、銀行は融資基準を厳格化しており、需要の押し下げ要因となろう。
また、債務上限問題に関して、今後2年間の非国防裁量的歳出への上限設定や、2025年1月1日までの債務上限の適用停止などを含む「2023年財政責任法」が超党派の支持を得て6月3日に成立した。史上初のデフォルトは回避されたが、23年10月以降の非国防裁量的歳出が抑制されるため、若干ではあるが経済成長を押し下げに働こう。
23年の米国経済成長率は、高いインフレ、FRBの大幅利上げのほか、一部の歳出抑制、中堅銀行の破綻などを受けた信用状況の引締まりによって、押し下げられよう。一方、21年インフラ投資・雇用法、22年インフレ抑制法による関連需要の拡大が予想されるほか、これらの政策の優遇措置を企業が受けるには、米国内での生産比率、米国製品の調達比率などアメリカファーストの条件を達成しなければならないため、米国でのインフラ、環境、半導体関連の投資や生産の拡大が見込まれる。また、地政学的なリスクの高まりが世界的な軍拡に繋がっており、軍需関連製品の需要拡大が予想される。以上を勘案すると、23年の実質GDP成長率は前年比+1.2%と22年の同+2.1%から減速し潜在成長率(+1.8%)を下回るものの、深刻な景気後退は回避される可能性が高い。

FRBは物価目標達成のため忍耐強く据え置き
FRBは、5月のFOMCでFFレート誘導目標を5.00~5.25%に引き上げたうえ、声明文から次回会合での追加利上げを予想する文言を削除、6月の次回会合での利上げ休止の可能性を示した。6月以降、信用状況の引き締まりの影響など毎会合データで追加の利上げが必要か否か判断を行う方針を明確化した。
FRBは、6月のFOMCでこれまでの利上げや信用の引締まりの影響を見極めるため利上げを休止するとみられるが、7月以降、インフレの鈍い低下を背景に小幅の追加利上げを決定する可能性がある。ただし、FOMC参加者の予想中央値に近いインフレの低下、銀行破綻をきっかけとした銀行の融資基準の厳格化、経済成長の鈍化が続けば、FRBは利上げを終了すると見込まれる。一方、市場が予想する早期利下げの可能性は低いと考えられる。緩やかながらも経済成長が続くことで、失業率は4%台の低い水準で推移するとみられるほか、PCEコアデフレーターは、粘着性の高いサービス価格の上昇によって、23年末でも前年比+3%台後半への低下にとどまるとみられる。このようなインフレ圧力が残存するなか、FRBは様子見に転じても、政策金利の据え置きを忍耐強く長期間続ける公算が大きい。

桂畑 誠治
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 桂畑 誠治
かつらはた せいじ
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経済調査部 主任エコノミスト
担当: 米国経済
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