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内外経済ウォッチ『日本~2023年度の経済~』(2023年3月号)

熊野 英生

目次

国内消費には、経済活動を正常化させようとする変化が追い風になる。岸田首相は、5月8日からコロナの感染症法上の分類を5類に変更することを決めた。野外だけではなく、屋内でも原則マスク着用の必要はなくなる。感染したときの待機期間もなくなる。従来は、感染者には7日間、濃厚接触者には5日間の待機期間が設けられていた。2022年中は、約2,700万人の新規感染者がいて、その人数が働けない期間があったのだから、それによる経済活動の押し下げは巨大な損失になっていたと考えられる。その負担が軽減されることは、国内景気にはプラスである。

個人消費でも、ホテル・旅館、飲食店、娯楽サービス、他の生活サービスは感染拡大に対する強い警戒感があった。5月8日以降はそうした強い警戒感が和らぐはずだ。他の個人サービス業並みになることで、消費は回復していくだろう。

内需についてのプラス効果を考えると、賃上げもある。すでに大企業のいくつかは、4月以降の賃上げを表明している。それが春闘にも反映していけば、マクロの賃金上昇率が高まっていくための発射台になる。法人企業統計では、資本金10億円以上の大企業の人件費は、全体の16%であった(2021年度)。だから、大企業の賃上げだけでは限界がある。84%を占めている中堅・中小企業の賃上げが追いついてこなければ、マクロ賃金は高まらない。中堅・中小企業は、値上げを通じて利益を増やせるようになって、やっと賃上げができる。大企業の賃上げは消費を増やし、値上げが通りやすい環境を作っていくだろう。中小企業が価格転嫁できるようになれば、そこで利益が増えていき、さらに中小企業の賃上げを可能にしていく。賃上げが大企業から中小企業へと波及していくことになる。

和らぐ悪材料

多くの人が、海外経済の悪化を心配している。特に、米国の利上げが経済をリセッションに追い込むことが最大の懸念材料となる。インフレ圧力の強さをみて、FRB(連邦準備制度理事会)のパウエル議長は、2月初に少なくとも年内2回の利上げ(5月まで)をして、年内利下げはしないと明言している。この発言を信じるのならば、日本にとっても輸出減少になるので、景気は悪化すると考えた方がよい。現時点で、米経済は消費拡大を維持しながらインフレ圧力を弱めている。この流れは、景気をソフトランディングさせる見通しを強めている。その意味で、悪材料は和らいでいると思える。

また、輸出全体を点検してみると、中国経済がゼロコロナ政策を転換したことで、いずれ中国向けの輸出は上向いていくだろう。日本にとって中国は輸出金額の首位を占めている国である。その回復は、海外経済全体の悪化をかなり和らげるはずである。

日本にとって輸出分野は、企業が値上げをするときに、国内よりも比較的値上げしやすいと聞く。輸出が堅調であることは、値上げを通じて企業収益を拡大させやすい状況をつくる。

海外経済と関連して、訪日外国人の消費回復への期待感も膨らむ。中国は、日本に対してビザの発給を一時的に停止していたが、1月29日から再開することに変更した。コロナ前の2019年は、中国人の訪日客が900万人もいた。政府は、2022年10月から入国者数の制限人数を撤廃してきた。課題は、中国だけがまだ制限されていることだったが、それも修正されていくだろう。中国人観光客は、円安で日本の商品を安いと思うようになっているはずだから、訪日外国人消費の増加は中小企業・非製造業が価格転嫁しやすい環境を生むと期待される。

2023年度の景気を展望すると、以前に見ていたよりも明るい材料が次々に揃ってきている。

熊野 英生


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