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内外経済ウォッチ『日本~輸入インフレの実態~』(2022年7月号)

熊野 英生

目次

輸入デフレーター

日本経済は、デフレからインフレに転換してきている。このインフレの性格は、需要牽引型の物価上昇というよりも、円安・資源高によって引き起こされた輸入インフレである。

こうした説明は、多くのエコノミストの間では常識になっている。しかし、輸入インフレのインパクトが実際にどれくらいなのかは、あまり詳しくは調べられていないように思える。

そこで、代表的なGDP統計を使って、そのインパクトを実数で捉えることにしたい。注目するのは、デフレーターという物価指標である。名目GDPと実質GDPの差分のところを、物価=デフレーターとみなすことも可能だ。ここで、名目輸入-実質輸入の差分は、2021年7~9月の実数0.4兆円から、10~12月11.3兆円、2022年1~3月15.6兆円へと急増している。この15.6兆円は、輸入金額から輸入数量分(実質輸入相当)を差し引いた物価高騰分(円安+資源高騰)を年間換算したものだ。海外に流出してしまう金額と言い換えてもよい。

国内企業は、輸入インフレ分を価格転嫁することで、何とか採算悪化を回避しようとする。川上から川中、川下の企業まで段階的に値上げをする理由は、まさしくコスト高で収益性が食われてしまうのを防ごうとするからだ。

最終段階で残ったGDPデフレーターは、輸入デフレーターに食われなかった部分、つまり値上げによる儲けに相当する。その金額は、2022年1~3月は3.6兆円である。川上から川下の企業は、価格転嫁をすることで、収益圧縮をカバーして、輸入コスト増15.6兆円を吸収し、値上げした部分で手元に残った金額が3.6兆円という訳である。あえて言えば、輸入インフレ以外の部分は、たった3.6兆円(2割弱)という実態がわかる。物価上昇の8割強が輸入インフレなのだ。

輸出という活路

ここまでの説明で、1つだけ省略していたことがある。輸出の存在だ。輸出企業は、輸入原材料を使って、国内で製品を製造したものを海外に売っている。輸出デフレーターはその値上げで増える。輸出分の値上げが、輸入インフレ分を吸収することになっている。また、輸出デフレーターの中にはドル建て輸出が円安で増えた分も含まれている。これは円安メリットと言ってよい。

輸出価格引き上げによる金額は、2022年1~3月で3.0兆円となり、15.6兆円の輸入コスト増の一部を減殺している。今後、もっと輸出を増やせば、円安メリットも増えて、円安によって輸入インフレ分を減殺するバッファーになり得るはずだ。

輸入インフレにどう対処するか

企業が価格転嫁をすると、その分、企業収益は圧縮されずに済む。その代わり、家計は値上げを受け入れて、貯蓄を取り崩すことになる。それでは家計も困るので、企業に賃上げを求める。それを受けて、企業は翌期には賃上げに応じていくことになる。だから、企業の採算は、コストアップと賃上げの両面で削られる運命にあると言える。

ならば、企業はどこに活路を見い出すか。どこで付加価値を稼いでいくか。おそらく、その答えは、生産性上昇となる。同じ労働投入量でより多くの生産物を稼ぐ努力が、輸入コストと賃金増を吸収する原資を生み出す。

しかし、今のところ、生産性上昇はうまく行っていない。過去2年間、実質GDPはコロナ禍でほとんど増えずに、横ばいである。15.6兆円の輸入コストは、日本企業が稼ぎ出した生産物のほとんどを食っているのが実情だ。輸入インフレは、日本の経済成長を足踏みさせている。

熊野 英生


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