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内外経済ウォッチ『欧州~マクロン勝利も二期目の政権運営への不安~』(2022年6月号)

田中 理

目次

金持ち優遇の批判がつきまとうマクロン大統領

2017年の前回選挙と同じ顔ぶれとなったフランス大統領の決選投票は、現職のマクロン大統領が、極右のルペン候補を破り、再選を決めた。極右大統領の誕生を再び阻止したものの、マクロン大統領がフランス国民から全幅の信頼を勝ち得たと言い切ることはできない。前回の決選投票で32%ポイントあった両候補の得票率の差は、今回は17%ポイント差に縮まった。マクロン大統領の人気が低迷していることや極右アレルギーが薄れてきたことが示唆される。

選挙戦の最大の争点となったのは、資源価格の高騰で厳しさを増す国民生活だった。ルペン候補はフランスのユーロ離脱など極端な主張を封印し、自身を物価高騰から国民を守る「愛国者」、マクロン大統領を富裕層の利益を守る「グローバル化の信奉者」として対比させた。コロナ危機やウクライナ危機対応に追われ、マクロン大統領は選挙戦への本格参戦が遅れた。過去5年間で積み残した年金改革の継続など、公約も新味に欠け、黄色いベスト運動に象徴される「金持ち優遇」のイメージを払拭することが出来なかった。

フランスは長らく経済凋落が続くが、マクロン大統領の就任後の経済パフォーマンスは決して悪くない。就任当時9%を超えていたフランスの失業率は7%台に低下し、コロナ禍からの経済的な打撃からの回復も他のユーロ圏諸国と比べて早い。

マクロン大統領就任後のフランスの失業率
マクロン大統領就任後のフランスの失業率

現状不満層の抵抗で改革の推進力は停滞しよう

経済・雇用情勢の好転にもかかわらず、マクロン大統領が苦戦を強いられたのは、同氏の主張や政策がフランス国民に十分に理解されていないことを意味する。初回投票ではフランス国民の半数以上が極右と極左の候補に投票した。こうした有権者の多くは極端な思想の持ち主ではなく、国民生活の改善に焦点を当てた主張が低所得者層の支持を集めた。マクロン大統領の二期目の政権運営は、こうした現状に不満を持つ有権者からの抵抗が予想され、改革の推進力が停滞する恐れがある。

二期目の政権運営を占ううえで注目されるのが、6月12日(初回投票)と19日(決選投票)の国民議会(下院)選挙の行方だ。世論調査ではマクロン大統領の中道政党・共和国前進が過半数を窺うが、大統領選で対峙したルペン氏が率いる極右政党・国民連合が大幅に議席を上積みし、最大野党となりそうだ。

フランスでは大統領の三選が禁止され、マクロン大統領は2027年の大統領選挙には出馬しない。共和国前進は良くも悪くもマクロン頼みの政党で、党内に有力な政治家やマクロン大統領の後継者と目される人物は余り見当たらない。マクロン大統領の政界進出後、過去に多くの大統領を輩出した伝統的な二大政党の地盤沈下が急速に進んでいる。いささか気が早いが、ポスト・マクロンのフランスの政界勢力図は混沌としている。

フランス大統領選・初回投票の得票率(%)
フランス大統領選・初回投票の得票率(%)

田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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