内外経済ウォッチ『米国~ウクライナ危機もFRBは連続利上げ実施へ~』(2022年4月号)

桂畑 誠治

目次

ウクライナ危機がインフレを押し上げ

22年2月にロシアがウクライナに侵略を開始した。これを受け西側諸国はロシアに対して経済制裁を実施、ロシアからの供給が滞るとの見方により天然ガス、原油、小麦などの価格が高騰している。エネルギー、食糧、資源価格の上昇が米国のインフレをさらに高進、高止まりさせる可能性が出てきた。

米国は、ロシアとの貿易量が少ないなど経済的な結びつきが比較的弱いことから、制裁によってロシア経済が大幅なマイナス成長に陥っても、その影響は限定的なものにとどまろう。一方、エネルギー価格上昇の影響も、現在の米国の経済状況であれば、吸収可能とみられる。

米国経済は現在過熱気味

景気全体を示すISM景気指数は、2月に製造業、非製造業ともにピークから低下しているものの高い水準を維持、景気の堅調さを示している。

労働市場では、2月の非農業部門雇用者数が前月差+67.8万人(1月:同+48.1万人)と加速した。新型コロナウイルスの感染鈍化、ワクチン接種の進展に伴う規制緩和等を背景に民間部門が前月差+65.4万人(1月:同+44.8万人)と加速した。月次での変動を均してみると、非農業部門雇用者数は3カ月移動平均で前月差+58.2万人(1月:同+57.2万人)、6ヵ月移動平均で同+58.3万人(1月:同+55.6万人)と速いペースの回復基調を維持している。また、労働参加率が62.3%にとどまるもと、2月の失業率は3.8%(1月:4.0%)と一段と低下、労働市場が逼迫している。このような労働市場の逼迫が、給与所得の高い伸びに繋がっている。

米国雇用統計
米国雇用統計

インフレでは、22年1月にPCEデフレーターが前年同月比+6.1%、PCEコアデフレーターが同+5.2%と高進を続けている。しかし、インフレが高進するなかでも、1月の実質個人消費は前年同月比+5.4%と高い伸びを維持しており、需要は強い状況にある。

個人消費デフレーター(前年同月比)
個人消費デフレーター(前年同月比)

今後、ワクチン接種の進展を受けた新型コロナウイルスのパンデミックに対する規制緩和が続くことで、均してみれば22年は巡航速度を上回る経済成長を維持すると予想され、労働市場の逼迫、給与所得の高い伸びが続く可能性が高い。このため、FRBは3月に25bpの利上げを実施した後も連続で利上げを実施すると見込まれる。

ただし、FRBは、経済情勢の変化に応じて金融政策を柔軟に行っていく方針も示している。ロシア・ウクライナ情勢の悪化で原油価格の上昇や株式市場の下落が深刻化すれば、実体経済への悪影響が大きくなる。情勢次第で利上げ停止や金融緩和によって金融市場を安定させ、景気を支えよう。

桂畑 誠治


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桂畑 誠治

かつらはた せいじ

経済調査部 主任エコノミスト
担当: 米国経済

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