内外経済ウォッチ『米国~FRBは期待インフレ重視の利上げ戦略~』(2022年3月号)

桂畑 誠治

目次

FRBは3月利上げを示唆

米国では、インフレの高進、労働市場の改善を受けFRBが金融政策の転換を急いでいる。1月25、26日に開催されたFOMCで、FRBは資産購入を2月に国債200億ドル、政府支援機関保証付きの不動産担保証券100億ドル減額し3月に終了すること、政策金利であるFFレート誘導目標レンジを0.00~0.25%に据え置くことを全会一致で決定した。そのうえで、3月FOMCでの利上げ決定が適切になるとの見方を声明文で示した。同時に、パウエル議長は、FOMC後の記者会見で「経済見通しに非常に不確実性があるような環境のもとで適切な金融政策を実施するために、経済が予期せぬ形で進むことを認識し、起こり得るあらゆる事態に機敏に対応する」と経済情勢の変化に応じて金融政策を柔軟に行っていく方針を強調した。

米景気は21年末から22年初にかけて減速も一時的

経済情勢をみると、米国の実質GDP成長率は21年10-12月期に前期比年率+6.9%と21年7-9月期の同+2.3%から再加速した。ただし、在庫復元の影響が大きく、供給制約、オミクロン変異株による感染拡大もあり個人消費、設備投資など国内最終需要は緩やかな拡大にとどまった。雇用情勢では、21年12月に失業率が3.9%まで低下し、FRBは完全雇用を概ね達成したと判断している。1月は、オミクロン変異株による感染拡大で経済成長、労働市場が鈍化した可能性があるが、感染拡大は既にピークアウトしており、均してみれば22年は巡航速度を上回る経済成長を維持すると予想される。

一方、インフレ環境では、21年12月にPCEデフレーターが前年同月比+5.8%、PCEコアデフレーターが同+4.9%と高進、少なくとも22年前半高止まりすると予想される。

個人消費デフレーター(前年同月比)
個人消費デフレーター(前年同月比)

FRBは経済情勢の変化に合わせ柔軟な政策運営

FRBはインフレの先行指標として期待インフレを重視しており、期待インフレの動きとインフレ統計をみて、利上げペースをコントロールすると考えられる。目先、現在高止まりしている期待インフレが、経済指標が強い景気や労働市場を示しさらに上昇すれば市場の予想する22年に25bpの利上げを4、5回よりも積極的な利上げを示唆する”タカ派”的な情報発信や連続利上げを行うとみられる。一方、期待インフレが現状水準で安定すれば、市場予想通り四半期に一度程度の利上げを実施しよう。経済指標が景気の鈍化、労働市場の悪化、インフレの低下などを示し期待インフレが低下すれば、利上げペースを遅らせるとみられる。FRBは状況の変化に応じて柔軟な利上げ戦略を実施すると予想される。

期待インフレ率(家計)
期待インフレ率(家計)

桂畑 誠治


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桂畑 誠治

かつらはた せいじ

経済調査部 主任エコノミスト
担当: 米国経済

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