内外経済ウォッチ『米国~雇用回復が鈍くテーパリング議論できず~』(2021年6月号)

桂畑 誠治

目次

GDPは4‐6月期にコロナ危機前を上回る見込み

米国では、昨年12月に成立した9,000億ドル規模の経済支援策、21年3月に成立した1.9兆ドル規模の経済支援策のほか、新型コロナウイルス感染拡大ペースの抑制を受けた行動制限の緩和、ワクチン接種による人の移動の活発化等を背景に、1-3月期に個人消費が前期比年率+10.7%(20年10-12月期:同+2.3%)と急拡大し、実質GDP成長率は同+6.4%(20年10-12月期:同+4.3%)と加速した。

4月も感染拡大ペースの抑制や規制緩和が続き、景気は堅調さを維持した。企業の景況感を示すISM景気指数は、4月に製造業が60.7、非製造業が62.7と、ともに1-3月期から上昇し高い水準を維持した。7月4日までに成人70%の1回のワクチン接種と約62%のワクチン接種完了を目標として掲げており、それまでに多くの国民がワクチン接種を終えるとみられる(5月10日時点で人口の35.0%が接種完了)。それにより、行動規制の大幅な緩和が見込まれるほか、経済支援策の効果などもあり4-6月期に個人消費主導で経済成長が加速し、実質GDPの水準はコロナ危機前のピークを上回る可能性が高い。

資料1
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労働市場の回復に遅れ

一方、4月の非農業部門雇用者数は前月差+26.6万人(3月:同+77.0万人)と大幅鈍化し、前月差100万人増の市場期待は裏切られた。また、失業率は4月に6.1%(3月:6.0%)と上昇するなど、労働市場の回復ペースは鈍い。行動制限の緩和を背景に飲食店、芸術・エンターテイメント・余暇、宿泊などが高い伸びとなった一方、半導体不足による自動車の生産調整で製造業や派遣業が減少したほか、労働力不足、規制緩和に伴う需要見通しの下方シフトで運輸・倉庫、食品・飲料品店などが減少に転じた。また、連邦政府の失業保険の上乗せによる就業意欲の後退を背景に、賃金の低い職種の雇用が抑制された。

米労働市場は回復を続けているが、その勢いは金融市場、米政権、FRBが期待するほど強くない。また、非農業部門雇用者数はコロナ危機前の水準を大幅に下回ったままであるほか、失業率の水準は労働参加率の大幅な低下にもかかわらず依然高い。FRBの多くのメンバーは、大幅な雇用増加が予想されていた4月雇用統計の公表前でさえ、雇用目標に向けて一段と顕著な進展を確認するまでしばらく時間がかかるとみられ、テーパリングについてまだ対話を始める時期ではないと慎重な見方を示していた。半導体不足は年内継続すると予想されているほか、失業保険の拡充は9月初まで続くため、労働市場の回復ペースは秋口にかけて抑制されるとみられる。FRBは、出口戦略の議論を市場予想よりも遅い年末頃まで行わない可能性が高まっている。

資料2
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桂畑 誠治

桂畑 誠治

かつらはた せいじ

経済調査部 主任エコノミスト
担当: 米国経済

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