実質賃金は10ヵ月連続の減少 (2025年10月毎月勤労統計)

~実質賃金プラス転化が見えてきたが、円安による物価上振れリスクに注意~

新家 義貴

要旨
  • 25年10月の毎月勤労統計では実質賃金が10ヵ月連続で減少。賃金の伸びが物価上昇に追い付かない状況が継続。

  • 所定内給与(共通事業所ベース)は前年比+2.3%(9月:同+2.2%)、一般労働者の所定内給与でも前年比+2.2%(9月:同+2.3%)と、いずれも前月とほぼ変わらなかった。25年春闘の影響はほぼ出尽くしており、この先の所定内給与は前年比+2%台前半~半ば程度で推移する可能性が高い。なお、最低賃金大幅引き上げの影響については10月分では明確には観察できなかった。

  • 実質賃金の先行きについては、11月まで減少が続いた後、25年12月、26年1月はゼロ近傍、2~3月はプラス転化を予想。食料品価格で前年の高い伸びの裏が出ることに加え、電気・ガス代補助金による押し下げ等により物価上昇率が鈍化することが主因。一方、懸念されるのが円安による物価上振れリスク。この先も円安が止まらないようであれば、企業の値上げ意欲が再び積極化し、物価上昇率が高止まる可能性は相応にある。実質賃金には下押しとなるため注意が必要。

実質賃金の減少が続く

本日厚生労働省から公表された25年10月の毎月勤労統計では、現金給与総額が前年比+2.6%となった。前月の同+2.1%から伸びは拡大したが、物価の伸びには届いておらず、名目賃金から物価変動の影響を除いた実質賃金は同▲0.7%(25年9月:同▲1.3%)と10ヵ月連続で減少している1

なお、報道等で言及されることが多いこの数字(本系列)は、調査対象事業所の部分入れ替えやベンチマーク更新等の影響により攪乱されることが多く、月次の賃金変化の動向を把握することには適さない。そのため、1年前と当月の両方で回答している調査対象のみに限定して集計された「共通事業所」の前年比データを見る方が望ましい。

この共通事業所ベースでも25年10月は前年比+2.4%と、9月の同+2.5%からほぼ変わらず、実質賃金は前年比▲1.0%(9月:同▲0.9%)と10ヶ月連続で減少した。名目賃金は上昇しているものの、食料品価格の高騰などで物価がそれ以上に上振れていることから、賃金の上昇が物価上昇に追い付かない状況が続いている。

図表
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所定内給与はこの先前年比+2%台前半~半ばでの推移か

所定内給与(共通事業所ベース、以下同じ)は前年比+2.3%(9月:同+2.2%)、一般労働者の所定内給与でも前年比+2.2%(9月:同+2.3%)と、いずれも前月とほぼ変わらなかった。25年春闘で決まった賃上げの反映についてはほぼ終わっていることから、先行きここから一段の上振れは難しく、一般労働者の所定内給与上昇率は当面前年比+2%台前半~半ば程度で推移することが見込まれる。

図表
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なお、10月から最低賃金が大きく引き上げられたことで賃金が押し上げられる可能性も事前に指摘されていたが、今月の毎月勤労統計では影響が明確には観察できなかった。パート労働者の所定内給与は前年比+3.4%(9月:同+3.3%)となった。高い伸びではあるが、これまでの前年比+3%台前半の伸びから大きく上振れているわけではなく、最低賃金上昇によるものかどうかははっきりしない。また、仮に最低賃金引上げの影響でパート労働者の賃金の伸びが高まったのだとしても、一般労働者とパート労働者を合わせた全体の所定内給与は9月からほとんど変わっておらず、影響は限定的だ。最低賃金引上げの具体的な反映時期は都道府県によって異なり、11月以降に実施するところも多いため、今後の数字も確認する必要はあるが、現時点では最低賃金引き上げによって全体としての賃金上昇率が大きく押し上げられる可能性は低いとみておくのが自然だろう。

名目賃金は、ボーナスの支給時期である6、7、12月にボーナス動向の影響を大きく受けるが、その他の月については所定内給与の動きに概ね連動することが多い。そう考えると、名目賃金は当面、12月のボーナス月を除けば概ね前年比+2%台前半~半ばで推移することが想定される。

実質賃金は26年1~3月期にプラス圏に浮上か

実質賃金の先行きについては、11月まで減少が続いた後、25年12月、26年1月はゼロ近傍、2~3月はプラスを予想している。

前述のとおり、当面の名目賃金は、ボーナス支給月である12月を除けば、所定内給与に近い伸び(前年比+2%台前半~半ば)になる可能性が高いと思われる。一方、賃金の実質化に用いられる消費者物価指数の「持家の帰属家賃を除く総合」は直近10月分で前年比+3.4%と高い伸びとなっているが、先行きは食料品において昨年の上昇率が高かったことの裏が出ることや、旧暫定税率廃止に向けてのガソリン補助金拡大が下押し要因となることで、12月には前年比+2%台半ば~後半程度まで鈍化することが予想される。微妙なところではあるが、冬のボーナスの伸び次第では賃金の伸びが物価を上回る可能性もあるだろう。

その先は、政府による電気・ガス代補助金の実施が物価の押し下げ要因となる。今回の補助額はかなり大きく、これによりCPIコアは2、3月に▲0.6~▲0.7%Pt、4月に▲0.2%Pt程度押し下げられるとみられる。この結果、26年2~3月のCPIコアは前年比+2%割れ、「持家の帰属家賃を除く総合」も前年比+2%強程度まで鈍化するとみられる。実質賃金も小幅プラスとなる可能性が高いだろう。このように、ボーナス増加や物価の鈍化を主因として、25年12月以降には実質賃金がプラスになる月も出てくるとみられる。

一方、懸念されるのが円安による物価上振れリスクだ。先行きの物価は、食料品価格を中心として前年の高い伸びの裏が出ることで、電気・ガス代補助を抜きにしても鈍化する可能性が高いと予想しているが、足元の為替レートを踏まえると上振れも意識しておく必要がある。為替レートの動向次第では、企業が価格転嫁を積極化させ、値上げが再び加速する可能性も否定はできない。その場合、食料品価格の鈍化ペースが想定よりも緩やかなものにとどまり、CPIも思うように鈍化しないという展開も十分ありうる。電気・ガス代補助の額が予想以上に大きかったこともあり、26年2、3月の実質賃金はプラスになる可能性が高いが、補助が縮小・終了に向かう4月以降については不透明感が残る状況である。


1 CPIの「持家の帰属家賃を除く総合」で実質化した値。「総合」で実質化した値は前年比▲0.4%(9月:同▲0.7%)。「二つの実質賃金」についての雑感 ~追加系列では0.6%ポイント程度高く算出される見込み~ | 新家 義貴 | 第一生命経済研究所を参照。

新家 義貴


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新家 義貴

しんけ よしき

経済調査部・シニアエグゼクティブエコノミスト
担当: 日本経済短期予測

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