トランプ関税ウォッチング トランプ関税ウォッチング

トランプ政権が相互関税から一部食料品を除外

~26年中間選挙を見据えた食料インフレ対策~

前田 和馬

要旨

11月14日、トランプ政権は関税政策を巡り、①相互関税の対象から一部の農産品や食料品を除外、②スイス(及びリヒテンシュタイン)との貿易交渉における枠組み合意、③アルゼンチン・エクアドル・エルサルバドル・グアテマラの4カ国との貿易交渉における枠組み合意、を発表した。

① 相互関税から一部食料品を除外

トランプ政権は13日にエクアドルなどからの特定品目の関税を引き下げると発表していた一方、実際には全世界からの一部の食料品輸入に対して関税を引き下げた(相互関税の対象品目からの除外)。同措置は11月13日より遡って適用される。なお、大統領令では「各種貿易相手国との交渉状況、特定製品に対する国内の需要、及び国内生産能力の現状」等を勘案し、今回の決定に至ったと述べている。

トランプ政権の支持率はインフレ高止まりを背景に低迷しており、2026年11月の中間選挙に向けて、生活費(affordability)対策に取り組む姿勢をアピールする狙いがあるとみられる。11月4日に実施された2つの州知事選挙(ニュージャージーとバージニア)では民主党候補が共に勝利した。同選挙は中間選挙の前哨戦と位置づけられており、この結果は「中間選挙は与党が苦戦する」との見方を支持する内容であった(詳細は2025年11月11日付け「米国:2026年中間選挙の展望」)。また、自身の支持基盤であるMAGA(Make America Great Again)派の一部が、トランプ大統領のエプスタイン(少女買春などの罪で起訴された富豪)問題への情報公開姿勢を批判している。一方、食料品やガソリンの価格は消費者の関心が強く、これらの価格押し下げを実現すれば、関税インフレに対する民主党の批判をかわしながら、経済政策手腕のアピールとなる。

相互関税の除外対象となったのは、価格高騰が続く牛肉、中南米からの輸入に依存するバナナやコーヒーのほか、トマト、紅茶・緑茶、マンゴー、パイナップル、アボカド、ナッツ、香辛料など多岐にわたる。2025年9月の消費者物価指数において、バナナは前年比+6.9%、コーヒーは+18.9%、牛肉等は+14.7%と、食料品価格全体(+2.7%)と比べても特に価格上昇が目立つ。ただし、今回の関税引き下げがどの程度の価格押し下げ効果を持つのか不透明感が残る。コーヒーは世界的な天候不順の影響で2024年より価格が上昇傾向にあるほか、牛肉は中西部の干ばつによる飼育頭数の減少が影響するなど、関税以外の要因も価格高騰に結びついている。

なお、今回の対象品目が輸入全体に占める割合は1.6%(2024年時点)である。一方、このうちカナダとメキシコからの輸入(32.3%)に関しては、USMCAの免除措置により追加関税が課されない輸入が多いとみられる。2か国以外の対象品目の関税率が10%引き下がると仮定すると、実効関税率は従来の13.9%から13.8%へ僅かに低下する(-0.1%pt)と試算される。

② スイスとの関税合意

米国は4月時点でスイスに対して31%の関税を課すと発表した一方、その後は交渉が停滞したことを背景に8月7日には関税率を39%へと引き上げた。今回、米国はスイスに対する関税率を15%へと引き下げるほか(実施時期は未定)、今後発動される予定の半導体と医薬品関税も15%を超えないようにするなど、日欧を含む主要先進国グループと同等の関税率で合意に達した。一方、スイスは輸入拡大措置として、魚介類や果物、化学薬品などの幅広い農業・工業製品に対する関税を引き下げるほか、通関手続き簡素化を含む市場開放、鶏肉・牛肉などの無関税輸入枠の創設などに取り組む。加えて、2028年までに総額2,000億ドルの民間対米投資を奨励・促進する。対象分野は医薬品、一般機械、医療機器、航空宇宙、建設、金の製造・加工などであり、同金額には既にスイス医薬品大手などが確約している投資額が含まれる。こうした取り組みにより、米国は2028年までにスイスに対する貿易赤字が解消されると主張する。

米国の輸入に占めるスイスの割合は1.9%であり、今回の措置は米国の実行関税率を-0.3%pt押し下げると試算される。

③ アルゼンチン・エクアドル・グアテマラ・エルサルバドルとの貿易合意

中南米4カ国は農産品などの関税引き下げを通じて対米輸入を拡大するほか、米ビックテックに対するデジタル課税を実施しないことを約束する。なお、米国によるエクアドルに対する相互関税率は15%、それ以外の3か国は10%の関税が適用されており、こうした税率は合意後も維持される。また、米国の輸入に占める4か国のシェアは0.7%に留まるため、今回の合意によって衣料品などの一部品目の関税率が引き下がる場合においても、米国の実行関税率に与える影響は限定的とみられる。

以上

前田 和馬


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

前田 和馬

まえだ かずま

経済調査部 主任エコノミスト
担当: 米国経済、世界経済、経済構造分析

執筆者の最近のレポート

関連テーマのレポート

関連テーマ