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2025.10.14
アジア経済
米中関係
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中国経済
トランプ政権
トランプ関税
米中摩擦の再燃が警戒されたが、最後はいつも通りの「TACO」か
~中国は輸出入双方で「米国外し」を強めつつ、米国との協議は強硬姿勢を崩さない展開が続くか~
西濵 徹
- 要旨
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ここ数ヶ月落ちついていた米中関係が、トランプ米大統領による大幅追加関税の表明をきっかけに再び緊張した。トランプ氏は11月1日付で中国からの全ての輸入品に100%の追加関税を課す方針を示し、中国によるレアアース輸出管理規制への対抗措置と位置付けた。他方、中国は無許可の技術協力や貿易関連輸出の制限を発表して正当性を主張する一方、米国との協議継続にも含みを持たせる姿勢をみせた。
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一連の動きは来月10日に迫る関税上乗せ分や輸出規制の一時停止期限を前にした摩擦再燃を想起させた。過去にも両国は協議を通じて一時的な合意を繰り返してきたが、関税や輸出規制に関する交渉は進展せず、一転して対立の激化が懸念された。さらに、中国は対抗措置として米国の船舶に対する特別港湾料の徴収を開始しており、米中協議を巡って強硬姿勢を崩さないなど、一歩も引かない姿勢を維持している。
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一方、中国は輸出入双方で米国への依存を減らしてきた。9月の輸出は前年比+8.3%と半年ぶりの伸びに、輸入も同+7.4%と1年半ぶりの伸びとなるなどともに底入れが進んでいる。EUのほか、ASEAN、インド、中南米、アフリカといったグローバルサウス諸国との関係深化を図っている様子がうかがえる。
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今後はIMF・世銀総会に併せて米中協議が予定されており、妥協点を見出せるかが焦点となる。トランプ氏は過去にもTALO(暴言)とTACO(尻込み)を繰り返しており、短期的な対立激化は回避される可能性はある。しかし、今後も中国の強硬姿勢が続くと見込まれるなか、先行きも不安定な関係は当面続くであろう。
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ここ数ヶ月にわたって落ち着きを取り戻していた米中関係に再び緊張の度合いが増す動きがみられた。トランプ米大統領は10日、中国に対する追加関税を大幅に引き上げることを表明した。具体的には、11月1日付で中国からのすべての輸入品に100%の追加関税を課すほか、中国向けのすべての重要な米国製ソフトウェアに関する輸出規制も併せて導入するとしている。トランプ氏は、今回の決定について、中国政府(商務部)が今月9日にレアアースの輸出管理強化策を発表したことへの対抗策としたほか、航空機や航空機部品に対する新たな輸出規制を課す可能性を警告するなど、一転して態度を硬化させている。中国政府の決定では、レアアースに関連する加工技術に対する規制を拡大し、無許可で海外企業との協力を禁止するほか、海外の防衛・半導体関連企業に対する輸出を制限するとしている。中国政府の発表を受けて、トランプ氏はSNSに反発する考えをみせる一方、中国政府はレアアースの輸出規制が正当なものであると主張し、その理由に先月のマドリード協議以降に米国が貿易制限リストに中国企業を追加したこと、中国船に対する入港手数料を徴収していることを挙げた。その一方で、今回の規制強化について、米国による一連の行動と中国によるレアアースの輸出規制を結びつけることを避けつつ、軍事紛争が頻発するなかでこれらが軍事用途に利用されることへの懸念を理由に挙げた。そして、世界的なサプライチェーンの安全と安定を強化するため、すべての国と輸出規制に関する対話を深める用意があるとして、米国とも協議を継続する姿勢を維持した。
トランプ米政権は、安全保障上の脅威への対応や貿易赤字の是正を目的に関税政策を駆使した上で、相手国との協議による『ディール(取引)』を通じて米国に有利な環境の醸成を図ってきた。しかし、中国はトランプ関税に対する報復措置に動き、そのなかで一部のレアアースと関連素材を輸出規制リストに追加した結果、米中は一時的に互いに高関税を課し合う貿易戦争に発展した。その後、ジュネーブ協議を経て米中は報復関税を撤廃した上で、関税の上乗せ分や輸出規制を90日間停止して追加協議を行うことで合意した。さらに、6月のロンドン協議ではジュネーブ協議での合意事項を確認した上で、追加的な了解事項で合意したことも明らかにされた。そして、90日間の停止期間が迫るなかで行われたストックホルム協議では、停止期限を追加で90日間延長することで合意し、先月のマドリード協議では中国系動画投稿アプリ(TikTok)の米国事業の売却に関する基本的な枠組み合意に至ったことが明らかにされた。その後にトランプ氏は買収計画に関する大統領令に署名するなど大枠が固まる動きがみられたものの、関税や輸出規制などに関する協議には進展がみられず、その後の追加協議に持ち越される展開が続いてきた。こうしたなか、11月10日に延長された停止期限が迫るなかで中国が突如発表したレアアースに対する規制強化をきっかけに米中関係に緊張が高まるなど、その行方に不透明感が高まっている。中国は今日(14日)、米国が所有または運航する船舶や建造した船舶、米国を船籍国とする船舶を対象にした特別港湾料の徴収を開始するなど、米国が強硬姿勢を強めるなかで一歩も引かない姿勢を維持している様子がうかがえる。
中国はこれまでも米中協議でまったく譲歩する気をみせず、その背後では米国との関係悪化を念頭に輸出先の多様化を図る動きをみせてきた(注1)。こうした動きは足元でも一段と活発化しており、9月の輸出額は前年同月比+8.3%と前月(同+4.4%)から加速して6ヶ月ぶりの高い伸びとなるなど、底入れの動きが確認されている。当研究所が試算した季節調整値に基づく前月比も3ヶ月ぶりの拡大に転じるとともに、中期的な基調も拡大傾向で推移するなど堅調な動きが続いている。国・地域別では、米国との関係悪化やトランプ関税の影響も重なる形で米国向け(前年比▲27.0%)は引き続き大幅マイナスで推移する一方、EU向け(同+14.2%)は対照的に堅調に推移しており、米国以外の輸出先を模索する動きが続いている。さらに、ASEAN向け(同+15.6%)やインド向け(同+14.4%)のほか、中南米向け(同+15.2%)、アフリカ向け(同+56.4%)といった新興国への輸出は引き続き高い伸びが続いている。特にアフリカ向けが高い伸びをみせる背景には、中国が主導する外交戦略(一帯一路)の動きが活発化していることがけん引役になっているとみられる。他方、ウクライナ戦争以降に関係深化を図ってきたロシア向け(前年比▲21.1%)は大幅マイナスで推移しており、米国による対ロ制裁強化による決済に関する懸念が足かせとなっている模様である。とはいえ、足元の輸出は全体として堅調な動きが続くなど、内需が力強さを欠くなかで景気は外需への依存を強めている上、米国以外の国や地域に対する中国の影響力が拡大しているとも捉えられる。

さらに、トランプ関税の本格発動を受けて多くの国・地域において米国向け輸出のハードルが高まるなか、中国はその受け入れ先として経済関係の深化を図る動きをみせるとともに、米国への対抗措置として大豆をはじめとする穀物の輸入先の多様化を図ることに注力している。こうした動きを反映して、9月の輸入額は前年同月比+7.4%と前月(同+1.3%)から加速して約1年半ぶりの高い伸びとなるなど、輸出同様に底入れの動きを強めている。当研究所が試算した季節調整値に基づく前月比も2ヶ月ぶりの拡大に転じるなど一進一退の動きをみせるも、中期的な基調は拡大傾向で推移するなど堅調な動きをみせている。国・地域別では、米国(前年比▲16.1%)は引き続き前年を大きく下回る推移が続く一方、輸入先の多様化の動きを反映して中南米(同+18.0%)やアフリカ(同+22.4%)、インド(同+23.4%)は軒並み高い伸びをみせており、いわゆるグローバルサウスの国々に対する影響力を拡大させている様子がうかがえる。さらに、EU(同+9.4%)も同様に堅調な推移をみせており、EUと米国の間にすき間風が吹く動きがみられるなかで、中国が影響力の拡大を目指している可能性もある。なお、ASEAN(前年比▲0.9%)は3ヶ月連続で前年を下回る伸びで推移するなど全体としては力強さを欠くが、シンガポール(同+47.3%)やインドネシア(同+26.4%)は力強い推移をみせる一方、マレーシア(同▲38.5%)やフィリピン(同▲16.4%)、タイ(同▲0.2%)、ベトナム(同+3.5%)は力強さを欠く対照的な動きをみせており、中国企業との競合関係の有無が影響している可能性がある。種類別でも、加工組立関連(前年比+22.1%)や輸出財の生産に向けた加工組立関連(同+14.3%)の高い伸びが足元の輸入をけん引している。さらに、輸入先の多様化の動きを反映して中国国内における需要を前提とする一般輸入(前年比+4.2%)も2ヶ月ぶりのプラスとなるなど、米中関係の悪化を念頭に在庫を積み増している可能性もある。

なお、米中は13日に実務者レベルでの協議を行った模様であり、米国側の窓口を務めるベッセント財務長官が今月末に米中首脳会談が行われる見通しを示している。中国側も引き続き両国が意思疎通を図っている旨を示す一方、米国が新たな制裁措置を示唆しながら同時に協議を求めることはできないと警告するなど、協議を巡って一歩も引く気がない可能性がうかがえる。また、トランプ氏は追加関税について、11月1日までは発動させないと表明するなど、関税の表明を受けて金融市場に動揺が広がった事態の沈静化を図る様子もうかがえる。今後は、ワシントンDCで今秋に開催される世界銀行とIMF(国際通貨基金)の年次総会に併せて米中による事務レベル協議が行われる模様であり、何らかの妥協点を見出すことが出来るかが注目される。これまでも幾度となくトランプ氏によるTALO(暴言)とTACO(尻込み)に翻弄される展開が続いてきたものの、今回についても現時点においては同様の動きが続いている。その意味では、事態が大きく悪化することは避けられる可能性はある一方、中国は引き続き一歩も引く気がない姿勢をみせる上、トランプ氏が最終的に折れるとみている可能性があり、今後も同様の動きに揺さぶられることに引き続き注意が必要であろう。
注1 9月8日付レポート「中国側は米中協議でまったく譲歩する気がないのかもしれない」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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西濵 徹

