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2025.08.12
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RBAが全会一致で利下げ、ブロック総裁は会見で追加緩和に言及
~追加利下げに言及も慎重姿勢を維持する姿勢、豪ドル相場は引き続き上値の重い展開も~
西濵 徹
- 要旨
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- オーストラリア準備銀行(RBA)は、8月12日の定例会合で政策金利(OCR)を25bp引き下げ3.60%とする決定を行った。これは年初以降3回目の利下げで、累計75bpとなるなど金融緩和を進めている。この背景には、インフレ率が鈍化している一方、同国景気に対する不透明感が高まっていることがある。
- 足元のインフレ率はRBAの目標(2~3%)内に収まっている。さらに、6月のインフレ率は+1.9%と約4年ぶりに目標を下回った。一方、雇用環境には悪化の兆しがみられ、景気の先行きに懸念が広がっている。ただし、利下げの影響で不動産価格は上昇しており、家計消費などに影響を与える動きもみられる。RBAは先月の会合では金利を据え置いたが、今回はインフレ鈍化と雇用の変調を理由に追加利下げに踏み切った。
- 会合後の声明文では、物価は緩和傾向にあるが、景気の見通しは依然不透明であるとして、今後も慎重な政策運営を続ける方針を示した。ブロック総裁も、さらなる利下げの可能性を認めつつも、大幅利下げに慎重な姿勢を維持している。足元の豪ドルはRBAの利下げ観測を受けて対ドルで上値が抑えられており、今後も慎重な金融政策の下で上値の重い展開が続き、日本円に対しても同様の展開が予想される。
オーストラリア準備銀行(RBA)は、12日に開催した定例の金融政策委員会において、政策金利であるオフィシャル・キャッシュ・レート(OCR)を25bp引き下げて3.60%とすることを決定した。RBAは年明け以降に2月と5月の2回利下げを実施して累計の利下げ幅は75bpになるとともに、OCRも2023年4月以来の水準となるなど金融緩和を進めている。
ここ数年のオーストラリアにおいては、インフレが高止まりしてきたものの、一昨年初めを境に鈍化に転じている。さらに、足元においてはアルバニージー政権が実施した物価抑制策の効果も重なり、すべてのインフレ指標はRBAが定める目標(2~3%)の域内に収まるなど、落ち着きを取り戻している。RBAが重視する四半期ベースのインフレ率は、4-6月は前年同期比+2.1%と約4年ぶりの水準まで鈍化し、目標の下限付近に達している。さらに、単月ベースでは6月に前年同月比+1.9%となり、4年3ヶ月ぶりに目標を下回る伸びとなった(注1 )。したがって、金融市場においてはRBAが早晩利下げに動くとの観測が強まっていた。

この背景には、このところのオーストラリア景気に不透明感が高まっていることも影響している。なお、世界経済や金融市場はいわゆる『トランプ関税』に翻弄されているが、オーストラリアは米国にとって貿易黒字国であるなか、トランプ米政権は同国に対する相互関税を一律分と同じ10%としている。さらに、対米輸出額は名目GDP比で1%未満に留まるため、相互関税によるマクロ経済への直接的な影響は限定的と捉えられる。その一方、同国は中国を最大の輸出相手としており、米中摩擦の行方や中国景気の動向の影響を受けやすい特徴を有する。足元の米中関係を巡っては、上乗せ関税や輸出規制の一時停止措置が追加で90日間延期することが決定するなど、最悪期を過ぎている様子がうかがえる。こうしたなか、1-3月の実質GDP成長率は前期比年率+0.85%とプラス成長が続くも頭打ちの様相を強めるとともに、堅調な推移をみせてきた雇用環境は悪化しており(注2 )、景気の不透明感が高まる兆しがうかがえる。その一方、足元の企業マインドを巡っては、トランプ関税や米中関係を巡る不透明感が懸念される状況ではあるものの、製造業で底堅さがうかがえるほか、インフレ鈍化による実質購買力の押し上げを好感してサービス業で大きく改善する動きが確認できる。

この背景には、RBAによる利下げ実施を受けて、昨年末にかけて頭打ちした不動産価格は年明け以降に再び上昇に転じるとともに、足元では上昇ペースを加速させて最高値を更新していることも影響している。オーストラリアにおいては、家計債務がGDP比110%超とアジア太平洋地域のなかでも突出している上、その大宗を住宅ローンが占めており、不動産価格の上昇は資産効果を通じて家計部門の消費行動に影響を与えやすい。さらに、銀行セクターは資産の3分の2以上を住宅ローンが占めており、不動産価格の動向は貸し出し態度を通じて幅広く経済活動を左右する傾向もある。また、足元の不動産価格が大都市部を中心に上昇ペースを加速させる背後には、金融市場においてRBAが一段の利下げに動くとの観測が強まっているとの見方も影響しているとされる。よって、RBAは先月の定例会合において、金融市場では事前に利下げを織り込む動きが強まっていたなかで金利を据え置くとともに、慎重な政策運営を強調する姿勢をみせた(注3 )。

ただし、上述したように足元のインフレ指標がいずれもRBAが定める目標域に収まる一方、堅調な推移が続いた雇用環境に変調の兆しが出ていることを受けて、金融市場ではRBAが今回の会合で追加利下げに動くとの見方が強まるなか、今回はそうした見方に沿う判断を下した格好である。会合後に公表した声明文では、今回の決定は「全会一致であった」ことを明らかにしている。そして、足元の物価動向について「引き続き緩和している」とする一方、景気動向について「依然として見通しは不透明」との見方を示している。その上で、足元の実体経済について「実質家計所得の改善や金融環境の緩和も追い風に民間需要に緩やかな回復の兆しが出ている」一方、「雇用環境のひっ迫度合いはやや緩和するも依然としてやや引き締まっている」としている。その一方、先行きについて「景気や物価見通しに不確実性が残る」として、「実質所得の上昇による家計消費の回復が見込まれる」としつつ、「需要の弱さが価格転嫁を困難にするなかで労働市場の悪化を招く可能性がある」ほか、「金融緩和の効果発現に向けたタイムラグや企業の価格決定行動、賃金動向などに不確実性が高い」との見方を示す。そして、政策運営については「物価安定と完全雇用の実現が最優先」とする従来からの考え方を示した上で、「今回はさらなる緩和が適切」としつつ「需給双方の不確実性の高まりを踏まえて見通しに慎重な姿勢を維持する」とした。そして、「今後もデータとリスク評価の変化を注視しつつ判断し、世界経済や金融市場の動向、内需の動向、物価と労働市場の見通しに細心の注意を払う」、「物価安定と完全雇用の実現に向けて必要な措置を講じる」と前回会合と同様の考えをあらためて強調した。
なお、会合後に記者会見に臨んだ同行のブロック総裁は、政策運営について「物価安定のためにはOCRをさらに引き下げる必要がある可能性がある」との認識を示す一方、「大幅利下げに関する議論は行われていない」と述べるなど、RBA内では慎重姿勢が共有されていることを明らかにした。その上で、市場が注目する中立金利について「外的なショックが無い場合の長期的な概念」とした上で、「過度に重点を置く必要はない」との見方をあらためて示している。そして、「会合ごとに状況を判断する」とした上で、「米国の状況が急変した場合に市場の変動リスクが高まる」している。また、「住宅価格の動向を注視している」、「現時点における住宅価格の回復は緩やか」とするなど、現時点において過度な警戒感は有していないとの見方を示している。また、先行きの政策運営について「さらなる利下げが見込まれる」としつつ、「利下げの可能性は否定しないが市場予想に届かない可能性がある」、「会合ごとに検討する」と市場が早期の追加利下げを織り込む状況を諫める考えをみせる。そして、「米FRB(連邦準備制度理事会)が予想外に早く利下げに動けば世界的に影響を及ぼす」とした上で、「変動相場制によって米国は自国のニーズに合わせた政策決定を行う」、「政策は将来を見据えたものであり、利下げを続けることが出来ると仮定している」と述べるなど、慎重姿勢を維持しつつも追加利下げを意識させる考えをみせた。金融市場では、トランプ米政権の政策運営の不透明感などを反映して米ドル安が進む動きがみられるが、RBAの利下げが意識されたことを受けて豪ドルの対米ドル相場は上値が抑えられてきた。先行きもRBAは慎重姿勢を維持するも追加利下げが意識されるなかで上値の重い展開が続くほか、日本円に対しても同様の展開をみせる可能性は考えられる。
注1 7月30日付レポート「オーストラリア・インフレ鈍化確認、RBAの追加利下げ観測が強まる」
注2 7月17日付レポート「オーストラリア、雇用悪化でRBAに風向き悪化の懸念、豪ドルは?」
注3 7月8日付レポート「RBAは物価動向見極めへ金利据え置き、豪ドル相場の行方は?」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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