トランプ関税ウォッチング トランプ関税ウォッチング

米国経済マンスリー:2025年7月

~4~6月期は堅調。真価が問われる7~9月期~

前田 和馬

要旨
  • マインド指標(ソフトデータ)の軟調な推移が続く一方、引き続きトランプ関税による影響は雇用統計や消費者物価指数などのハードデータでは限定的にしか顕在化していない。4~6月期実質GDP成長率は個人消費の底堅い推移等を背景にプラス成長へと回帰する見通しだ。

  • 企業は夏ごろにかけて本格的に関税分の価格転嫁に踏み切ると見込まれ、7~9月期は個人消費を中心に景気の減速感が強まる可能性が高い。一方、こうした景気減速下の労働市場を巡っては、移民流入の鈍化が失業率の上昇を相対的に抑制する可能性がある。

  • 7月4日に成立した税制法案は、2028年度までは新たな減税により景気刺激的、29年度以降は歳出削減を背景に景気抑制的な予算となっている。なお、同法案には関税の影響はほぼ含まれず、関税負担が米国内に転嫁される場合、28年度までにおいても景気刺激効果は限定的に留まる。

図表1
図表1

経済指標

6月全米供給管理協会(ISM)景況感指数

6月ISM製造業PMIは49.0(5月:48.5)と5か月振りに上昇したものの、4か月連続で好不況の節目となる50を下回った。企業コメントでは「関税を巡る不確実性が高まるなか、顧客は契約締結をためらっている(金属加工)」や「地政学的環境が依然として不安定(その他製造)」と言及されるなど、製造業マインドは先行き不透明感を背景に低調に推移している。内訳をみると、生産は50.3(45.4)、在庫が49.2(46.7)と共に上昇し、全体を押し上げた。一方、雇用は45.0(46.8)、生産活動に先行する新規受注は46.4(47.6)とそれぞれ前月水準を下回るなど、依然停滞の域を脱していない。他方、6月ISM非製造業PMIは50.8(49.9)と上昇した。2か月振りに節目となる50を上回るなど、サービス業活動の底堅い推移が続いている。内訳をみると、事業活動が54.2(50.0)と大幅に上昇したほか、新規受注は51.3(46.4)と前月水準を上回った。企業のコメントでは「価格は個別徴収の関税コストで上昇したが、サプライチェーン・配送・在庫は初期の混乱を経てほぼ安定している(医療・社会福祉)」や「高金利が依然として問題である。供給は現在のビジネスレベルに対して十分(卸売)」と関税を中心とした懸念要因はあるものの、その悲観度合いは製造業よりも弱いように見受けられる(詳細は「トランプ関税上乗せを控え駆け込み(6月ISM製造業)」及び「関税上乗せ控え米非製造業は持ち直し(6月ISM非製造)」)。

6月雇用統計

6月雇用統計における非農業部門雇用者数は前月差+14.7万人(5月:+14.4万人)と、前月から小幅に加速した。同時に公表された4月実績は+1.1万人、5月実績は+0.5万人と共に上方修正された結果、3か月移動平均では+15.0万人(+14.1万人)と堅調な水準を保っている。ただし、6月の雇用者数は政府部門の増加に押し上げられており、民間部門では前月差+7.4万人(+13.7万人)、3か月移動平均で+11.5万人(+12.8万人)と、労働市場の軟化傾向が強まっている点に注意が必要だろう。 6月の雇用者数を業種別にみると、医療・社会福祉は+5.86万人(+8.07万人)と人手不足を背景に41か月連続で増加し全体を押し上げた。また、娯楽・飲食・宿泊は+2.0万人(+2.9万人)、建設が+1.5万人(+0.6万人)と前月水準を上回った。一方、製造業は-0.7万人(-0.7万人)と2か月連続で減少するなど、停滞が持続している。他方、政府部門は+7.3万人(+0.7万人)と、州・地方政府の教育部門を中心に大幅に増加した。連邦政府部門(米国郵政公社を除く)に限ってみれば-0.81万人(-1.76万人)と、政府効率化省(DOGE)が主導する職員削減を背景に年初来で-5.98万人の雇用減に達している。なお、7月9日に米連邦最高裁はトランプ政権による政府職員の削減を一時的に容認する判断を下しており(サンフランシスコ地裁による一時差し止め命令の停止)、8月以降の雇用統計では政府職員の減少がより一層顕著になる可能性がある(連邦政府職員のリストラと雇用市場への影響は2024/3/26付け「DOGEの連邦職員カットによる雇用市場への影響」を参照)。

この間、6月の労働参加率は62.3%(62.4%)と2か月連続で低下した一方、失業率は4.1%(4.2%)と小幅に低下した。また、広義失業率を示すU6(過去12か月に求職経験があるものの直近4週間は求職をしなかった者、及び経済的理由によるパートタイム労働者を失業者とカウント)は7.7%(7.8%)と、緩やかに低下しているものの高止まりしている。この間、週平均労働時間は前年比-0.3%(0.0%)と3か月振りに低下した一方、平均時給は+3.7%(+3.8%)と高水準で推移した。この結果、労働所得(=民間雇用者数×平均労働時間×平均時給)は+4.5%(+4.9%)と、賃金上昇を背景に増加基調で推移している。他方、CPI上昇率を控除した実質賃金は時間当たりで+1.0%(+1.4%)と26か月連続、週当たりでは+0.7%(+1.4%)と17か月連続でそれぞれ増加するなど、減速しながらも堅調な雇用所得環境が持続している(詳細は「トランプ関税で米労働市場の軟化は継続(6月雇用統計)」)。

6月消費者物価指数(CPI)

6月消費者物価指数(CPI)は前月比+0.3%(5月:+0.1%)と前月から加速した。この結果、足下のトレンドを示す3か月前比年率でみると、総合指数が+2.4%(+1.0%)、コア指数は+2.4%(+1.7%)と再びその水準が+2%を上回った。トランプ政権による一連の関税引き上げを背景に一部の財価格が加速しているものの、その影響は依然緩やかに留まっている。6月の内訳を見ると、食品は前月比+0.3%(+0.3%)と果物・野菜や外食で加速した一方、エネルギーは+0.9%(-1.0%)と中東情勢の混乱による原油高を背景に上昇した。この間、食品・エネルギーを除くコアベース指数は+0.2%(+0.1%)と加速した。コアCPIの内訳を見ると、住居費は+0.2%(+0.3%)とホテル等の宿泊費低下を背景に減速した一方、住居費を除くコアCPIは0.3%(+0.0%)と加速し全体を押し上げた。特にコア財は+0.2%(-0.0%)と、関税引き上げを背景に家電が+1.9%(+0.8%)、衣服が+0.4%(-0.4%)、玩具が+1.8%(+1.3%)と幅広い品目で価格上昇がみられた。他方、サービスでは医療ケアサービスや娯楽サービスで上昇した一方、航空運賃の低下が続いた。この間前年比でみると、CPI総合は前年比+2.7%(+2.4%)、食品・エネルギーを除くコアCPIは+2.9%(+2.8%)と共に前月から加速した。

先行きのCPIを巡っては、サービス価格は労働需給緩和による賃金鈍化や家賃の鈍化を背景に減速が続く可能性が高い。一方、財価格は追加関税による輸入物価上昇の影響が時間をかけて波及するとみられる。NY連銀が5月2~9日に管轄地区で実施した企業調査に基づくと、製造業における関税分の価格転嫁は1週間以内が36%(サービス業:39%)、3か月以内が52%(同、43%)と、4月導入の一律10%関税を中心とした価格転嫁が夏頃には本格化する可能性を示唆している(詳細は「米国 トランプ関税の影響が徐々に顕在化(6月CPI) 」)。

6月鉱工業生産

6月鉱工業生産は前月比+0.3%(5月:0.0%)と4か月振りに上昇した。6月の内訳を見ると、鉱業が-0.3%(+0.1%)と同月の原油安を背景に低下した一方、公益は+2.8%(-2.5%)と6月下旬の熱波を背景に上昇した。一方、製造業は+0.1%(+0.3%)と2か月連続で上昇したものの、均してみれば横ばい圏で推移している。製造業の内訳を見ると、航空機・その他輸送機器が+1.6%(+0.3%)、コンピュータ・電子機器が+0.2%(+0.7%)と共に7か月連続で上昇し、全体を押し上げた。また、一次金属が+3.1%(+0.1%)と上昇した一方、自動車・同部品は-2.6%(+4.6%)と前月の反動もあり低下した。先行きに関して、追加関税によるサプライチェーンの混乱、及び価格上昇を背景とした需要減少による生産下押しに警戒が必要だろう(詳細は「トランプ関税懸念続くも米製造業生産増(6月鉱工業生産)」)。

6月小売売上高

6月小売売上高は前月比+0.6%(5月:-0.9%)と増加し、市場予想(+0.1%)を大幅に上回った。6月の内訳をみると、自動車・同部品が+1.2%(5月:-3.8%)と、前月の反動もあり3か月振りに増加した。6月の消費者物価指数では新車と中古車の価格が共に低下するなど、4月以降の関税引き上げによる値上げが限定的に留まるなか、自動車販売は底堅さを保っている。また、無店舗小売は+0.4%(+0.6%)、衣料品は+0.9%(+0.3%)と関税転嫁前の駆け込み需要などを背景に堅調さを保った。一方、家電は-0.1%(-0.3%)、家具は-0.1%(-0.6%)と共に2か月連続で減少するなど、耐久財は軟調に推移した。この結果、GDP算出に用いられるコア小売売上高(自動車・ガソリン・建設材・飲食サービスを除くコントロール・グループ)は+0.5%(+0.2%)と2か月連続で増加、4~6月期でみても前期比+0.8%(1~3月期:+0.9%)と堅調に推移した。先行きに関して、関税分の小売価格への転嫁が徐々に進行するに伴い、足下の駆け込み需要による反動減が小売売上を下押しする可能性が高い(詳細は「トランプ関税駆け込みの反動収束で6月米小売は増加」)。

6月住宅着工件数

6月住宅着工件数は年率132.1万戸(5月:126.3戸)と2か月振りに増加した(前月比+4.6%;5月:同-9.7%)。とはいえ、住宅着工が依然低水準で推移している点に変化はない。6月の内訳を見ると、戸建住宅が前月比-4.6%(5月:-2.3%)と2か月連続で減少した一方、集合住宅は+30.0%(-25.1%)と前月の反動もあり大幅に増加した。地域別にみると、北東部における集合住宅の大幅な増加が全体を押し上げた。先行きに関して、住宅ローン金利の高止まりが需要を下押しするほか、追加関税による資材価格の上昇や移民抑制による労働力不足が供給を抑制する懸念がある。この間、住宅着工に先行する住宅建設許可件数は年率139.7万戸(139.4万戸)と小幅な増加に留まるなど、依然停滞の域を脱していない(詳細は「米国 6月住宅着工件数は増加も一戸建ての減少持続」)。

経済見通し

2025年4~6月期実質GDP成長率(2025年7月30日公表)を巡っては、7月18日時点のアトランタ連銀によるGDPナウキャストが前期比年率+2.4%(1~3月期実績:-0.5%)とプラス成長に再び回帰すると予想している。個人消費が価格上昇前の駆け込み需要を背景に高水準で推移する可能性が高いほか、控除項目である輸入は前期の反動減が現れ表面上の成長率を押し上げる見通しだ。

7~9月期GDPに関しては高関税による小売価格への転嫁が徐々に進行することを背景に、個人消費を中心に減速する可能性が高い。この間、7月のミシガン大学消費者信頼感指数は61.8(6月:60.7)と2か月連続で改善した一方、6月のコンファレンスボード消費者信頼感指数は93.0(5月:98.4)と低下した。消費マインドは高関税への懸念を背景に、トランプ大統領就任前の水準を大幅に下回っている。一方、こうした消費の減速懸念が景気後退へと転じるか否かは、関税の価格転嫁スピードに大きく依存するだろう。貿易相手国の輸出業者や米国の輸入業者が関税負担を従来以上に吸収する場合、個人消費への影響は限定的に留まり、景気後退は回避されると見込まれる。また、労働市場を巡っては、関税による個人消費の減速、トランプ政権による不法移民抑制、及び連邦政府職員の削減が非農業部門雇用者数の増加を抑制するだろう。とはいえ、移民抑制は労働供給の減少要因でもあるため、GDP成長率の鈍化に対して、失業率の上昇は抑制される可能性がある。

金融政策

7月地区連銀経済報告(7月16日公表)

7月地区連銀経済報告(ベージュブック;7月7日までの情報に基づく)では「経済活動は5月下旬から7月上旬にかけて小幅に拡大した」とまとめられた。ボストン地区ではカナダからの観光客数減少が指摘された一方、アトランタやリッチモンドの地区ではレジャー消費の増加が指摘された。また、先行きの見通しは「中立からやや悲観的」であり、関税政策等の不確実性の高さが引き続き企業の慎重な姿勢に繋がっているとみられる。例えば、雇用動向では「不透明感が薄れるまで主要な雇用や解雇の決定は先送りする」企業が多いと述べられた。他方、物価動向を巡っては、企業が関税等の一部のコスト上昇を消費者に転嫁しており、「夏の終わりまでに、消費者物価がより急速に上昇し始める可能性が高まっている」と指摘された。

図表2
図表2

トランプ新政権

関税政策

7月7日、トランプ政権は日本を含む14の貿易相手国に書簡を送り、8月1日から適用される新たな関税率を通知した(現状は中国や一部品目を除き一律10%)。日本の関税率は25%と4月公表時点の24%から小幅に上昇した一方、韓国は25%(4月時点:25%)、南アフリカは30%(同、30%)、タイが36%(36%)と多くの国の関税率は概ね据え置かれた。また、その後数日間にわたって複数の国に対する新たな関税率を公表し、トランプ氏がボルソナロ前大統領の起訴を問題視しているブラジルは50%、交渉が難航しているとみられるEUは30%(20%)、メキシコが30%(現状ではUSMCA準拠品目を除き25%)と、一部の国で大幅に関税率を引き上げる方針を示した。

また、7月8日には通商法232条(安全保障上への対処)に基づき8月1日から銅輸入に50%の関税を課す方針を表明した。なお、米国の全輸入に占める銅の割合は0.5%であり、実効関税率やインフレへの影響は限定的に留まるとみられる。このほか、半導体や医薬品への関税に関しても調査を進めており、トランプ大統領は品目別関税の対象を近日中に拡大する方針を示している。

他方、7月15日、米国とインドネシアは貿易交渉で合意した。(中国との合意を除けば)5月8日の英国、7月2日のベトナムに次ぐ、3か国目の合意となる。米国はインドネシアに対する関税率を19%(当初公表の相互関税率は32%)へと引き下げる。一方、インドネシアは原則的に対米関税を撤廃するほか、米国から150億ドルのエネルギー製品、45億ドルの農産品、50機の航空機を購入する見込みだ(詳細は「トランプ関税ウォッチング」)。

減税法案の成立

7月4日、各種減税策等を盛り込んだ税制法案(One Big Beautiful Bill Act)が成立した。同法案では、2025年末に失効予定であった個人所得減税等(TCJA)の多くが恒久化されるほか、トランプ大統領の選挙公約であったチップ収入やチップや残業代への免税が2025~28年の時限措置で実施される。また、SALT(州・地方税)の控除上限を2029年まで4万ドル程度(従来:1万ドル)へと一時的に引き上げる。一方、歳出面を巡っては、ミサイル防衛システムなどの軍事関連、人員増強を中心とした国境・税関対策に対する予算増額を実施する。他方、歳出削減策としては、学生ローン返済プランの見直しのほか、メディケイド(低所得者向け公的医療保険)を中心としたヘルスケア支出の削減を段階的に拡大する予定となっている。なお、こうした歳出削減は2026年の中間選挙後に影響が本格化するため、少なくとも2026年において家計は各種減税の恩恵を受けやすい。

米議会予算局による試算に基づくと、同法案は今後10年間(2025~34年度)のプライマリー財政収支を現行から0.5兆ドル(GDP比:0.1%)改善させる(同試算には既存の個人所得減税の延長等に必要な3.8兆ドル[1.1%]の財政悪化要因を含んでいない)。一方、同法案ではトランプ大統領任期中が財政拡張、退任後に財政緊縮を前提としているものの、2028年に当選した新大統領がこうした財政スタンスを受け入れるかは不透明である。仮に2026~28年度と同程度の家計・企業向け減税が持続し、社会保障支出等の削減も先送りされる場合、2025~34年度における財政収支は1.4兆ドル(GDP比:0.4%)の拡張となり、景気刺激効果が長期にわたって持続する。他方、同法案には関税収入がほぼ含まれていない。現行関税が維持される場合には今後10年間で2.2兆ドルの歳入増が見込まれ、これを含めた最終的な財政収支への影響は0.8兆ドル(0.2%)の改善となる。このため、関税負担が米国内の家計や企業に概ね転嫁される場合、これによる負の影響は減税法案によるプラスの影響を上回り、経済政策のネットでの影響は景気抑制的な効果を持つ(上院修正前の同法案の詳細は2025/6/18付け「米国:減税法案は景気刺激的?」を参照)。

図表3
図表3

図表4
図表4

以上

前田 和馬


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

前田 和馬

まえだ かずま

経済調査部 主席エコノミスト
担当: 米国経済、世界経済、経済構造分析

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