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トランプ政権を読む『米国出張で感じた「隠れた物価高」』(2026年4月号)

前田 和馬

円安が進んだ近年、海外に出ると日本との物価差を痛感する。筆者は2月に約1年振りにアメリカへ出張した。朝食のサンドイッチとコーヒーは約3,000円。味は至って普通だった。

もっとも、こうした物価の高さには心の準備ができている。よく聞く話だから。でも、予想外の費用がかかると少し面食らう。例えば、宿泊するNYのホテルに昼に到着し、スーツケースを預けようとすると、6ドル(約900円)を請求された。そういえば、以前に別のホテルで朝食付きプランを選んだ際、「ウェイターへのチップ代は別」と言われ、朝食の度に4ドル支払ったことを思い出した。

このような隠れた費用は米国で「ジャンクフィー(Junk fee)」と呼ばれる。レストラン利用時やコンサートチケット購入時のサービス料の上乗せ、或いはホテル宿泊時のリゾートフィーが代表例だ。名前は色々だが、数ドルから数十ドルの費用が「当初表示されていた金額」に追加される。バイデン前政権はこの総額が、アメリカで年間900億ドル(約14兆円)に達すると試算していた。

ちなみに、ジャンクフィーは日本語で「不当な請求」と訳せる。もちろん、請求時の明細にその内訳は記載されているし、上記のスーツケースの預け入れ手数料も筆者は支払い前に認識していた。消費者が理解して購入しているなら、別に違法ではない。ただ、オンライン決済の直前に料金が跳ね上がったり、想定していない費用を請求されたりすると、納得しにくい気持ちが湧いてくる。

米国民にとってもこうした不満は根強いようだ。米シンクタンクのData for Progressの調査では、米国民の75%がこうした費用に「イライラする」と答えている。バイデン前政権はこの規制に動き、2024年12月にはホテルやチケット業者にこうした料金を事前に開示することを義務付けた。この際のFTC(消費者保護等を担当する米連邦取引委員会)の声明では、価格の透明性が向上することによって、米国民が余分な検索に費やす5,300万時間(年間最大)を節約できると述べている。

一方、こうした規制はいたちごっこの側面がある。企業は総費用をできるだけ安くみせるために、様々な追加料金を設けようと試みる。スーツケースの預け入れ手数料はその一例といえよう。また、こうした行動を制限しようとも、それで消費者の総支払い額が安くなるとは限らない。もし色々な追加料金が難しくなれば、企業は本体価格(ホテルであれば宿泊費)を引き上げるだけだろう。

企業が表面的な値上げを控えようとする試みは、トランプ関税のコスト転嫁を巡ってもみられる。例えば、ネット通販では商品価格を変えずに「関税費用」を明記する、或いは送料無料となる最低金額を引き上げるなどの行動がみられた。他方、新車価格の値上げは緩やかな一方、納車時の輸送費が上昇しているとの報道もある。なお、政府の物価統計は補助的な費用を含まないことがあり、インフレ率は消費者実感よりも低く出ているかもしれない。

また、こうした値上げ行動は一部の企業に厄介な問題を生じさせうる。2月20日、米連邦最高裁は一部のトランプ関税を違憲と判断した。このため、今後トランプ政権は徴収した関税を企業に返還する可能性がある(詳細な手続きや対象は未定)。関税コストを自社で負担した、或いは本体価格を値上げした企業は、訴訟等を通じて返還金をそのまま受け取れる可能性が高い。一方、消費者などに対して「追加関税」を請求した企業は、今回の判決を受けて、関税負担をそのまま顧客に返還する必要があるかもしれない。実際、関税等の通関手数料を顧客に転嫁した大手運送業者は、関税分の返還を求める消費者からの集団訴訟に直面している。広範な範囲への返還は企業と米国社会に新たな混乱を招く懸念がある。

前田 和馬


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前田 和馬

まえだ かずま

経済調査部 主席エコノミスト
担当: 米国経済、世界経済、経済構造分析

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