米国:労働市場の安定化を示すも微妙なバランス (3月雇用統計)

~政策不確実性が影を落とす中、天候・スト等の反動で雇用が大幅増~

桂畑 誠治

要旨
  • 26年3月の非農業部門雇用者数(事業所調査)は、前月差+17.8万人(前月:同▲13.3万人)と、市場予想中央値(ブルームバーグ集計)の同+6.5万人(筆者予想:同+9.8万人)を大幅に上回った。内訳をみると、政府部門が同▲0.8万人(前月:同▲0.4万人)と減少ペースを加速させた一方、民間部門は同+18.6万人(前月:同▲12.9万人)と力強い増加に転じ、市場予想中央値の同+7.8万人(筆者予想:同+10万人)を大きく上振れた。 この大幅な増加の背景には、前月の下押し要因となったカリフォルニア州での看護師ストライキの終結に加え、暴風雪・寒波の影響で減少していた建設業、外食、輸送・倉庫などの業種が天候の回復とともに反発したことが挙げられる。雇用の基調を示す移動平均をみると、非農業部門雇用者数では3カ月移動平均が前月差+6.8万人(前月:同+0.3万人)に加速したが、6カ月移動平均では同+1.5万人(前月:同▲0.2万人)と微増にとどまった。一方、民間部門に限れば、3カ月移動平均で同+7.9万人(前月:同+1.5万人)、6カ月移動平均で同+5.3万人(前月:同+3.3万人)と緩やかながら、足元で増加ペースが持ち直している。
  • 詳細な内訳では、政府部門において州・地方政府が前月差+1.0万人(前月:同+0.5万人)と増加したものの、連邦政府が同▲1.8万人(前月:同▲0.9万人)と減少幅を拡大したことが、政府全体の減少ペース加速につながった。 民間部門では、需要が強く人手不足の続く医療・社会支援(+8.99万人)がスト終結を受けて増加に転じたほか、建設業(+2.6万人)や飲食店(+2.15万人)も天候改善によりプラスに寄与した。これらに加え、輸送・倉庫(+2.1万人)、製造業(+1.5万人)、芸術・エンターテイメント・余暇(+1.4万人)が高い伸びを示したほか、小売業(+0.97万人)、宿泊(+0.79万人)、派遣業(同+0.44万人)、卸売業(+0.33万人)など幅広い業種で雇用が拡大した。対照的に、生成AIの普及による構造変化に晒されている専門・技術サービス(▲1.35万人)、情報産業(▲0.3万人)が減少した。また、その他サービス(▲0.9万人)、保険(▲0.57万人)、商業銀行(▲0.44万人)、公益(▲0.12万人)なども減少した。
  • 金融市場では、今回の雇用者数の大幅増と失業率の低下を受け、先行きの利下げ期待が後退した。FF金利先物が示す4月FOMCでの据え置きの可能性は、わずかに利上げの可能性を織り込んだことで、前日の100%から99.5%へと低下した。据え置きの可能性は6月が約97%(前日:約94%)、7月が約94%(前日:約90%)へとそれぞれ上昇し、26年末のFF金利水準の着地予想も3.64%(前日:3.58%)へと切り上がっている。
  • こうした労働市場の背景には、トランプ2.0の影響が色濃い。多数の大統領令による制度・政策の早期実行が混乱を招き、25年以降、米労働市場は軟化傾向にある。特に通商政策における関税の賦課・撤回・上乗せの実行、あるいはそれらを示唆する発言の繰り返しが不確実性を高め、企業の採用抑制や人員削減を誘発している。また、移民規制や不法移民の取り締まり強化が労働供給の抑制に繋がったことも無視できない。現在の米労働市場は、低雇用、低解雇が持続する、ある種の均衡状況にあると言える。
  • 賃金動向については、平均時給が前月比+0.2%(前月:+0.4%)と市場予想(+0.3%)を下回った。前年同月比でも+3.5%(前月:+3.8%)となり、市場予想(+3.7%)を下振れた。22年3月の前年同月比+5.9%をピークに低下傾向にある。もっとも、依然としてインフレ率を上回る伸びが個人消費を支える構図に変わりはない。 労働投入量は、前月比▲0.2%(前月:▲0.1%)と縮小したが、3カ月移動平均(3カ月前対比年率)では+1.0%(前月:+0.9%)と上昇しており、労働需要の拡大基調が示唆されている。
  • 家計調査では、3月の失業率(U3)は4.3%(前月:4.4%)と改善し、市場予想中央値4.4%(筆者予想:4.4%)を下回った。労働参加率が61.9%(前月:62.0%)と低下するなか、失業率は依然として低い水準を維持している。一方、「広義の失業率(U6)」は、8.0%(前月:7.9%)へと上昇した。U3、U6ともに緩やかな軟化傾向を示しているものの、歴史的には依然として低い水準にある。また、労働環境の良好さを示す自発的失業率が12.4%(同:11.5%)へと上昇しており、労働者が雇用環境に対してやや楽観的な見方を維持していることが示された。
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桂畑 誠治

かつらはた せいじ

経済調査部 主任エコノミスト
担当: 米国経済

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