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日米首脳会談:経済合意に関する考察

~対米投融資の優先順位に日米でズレ?~

前田 和馬

要旨
  • エネルギー安全保障を踏まえると、米国産原油の調達拡大や備蓄積み増しは中長期的に求められる取り組み。一方、日本の短期的な調達対策とはなりにくく、引き続きイラン情勢の安定化が必要。
  • 対米投融資は第二弾を公表。これまでのプロジェクトはほぼ発電関連であり、トランプ政権はデータセンター需要や電気代の高騰を強く意識。一方、金額には「最大」と付記されたほか、事前報道の有力案件が一部含まれないなど、日米両政府で投資案件の優先順位にズレがある可能性。
  • レアアース等の重要鉱物の確保を巡っては、対中依存度の低下に向けて、最低価格等の制度面の整備と具体的な開発案件の支援に重点を置く方針。

3月19日、高市首相はワシントンにてトランプ米大統領と会談し、イラン情勢や日米の戦略投資に関して議論した。経済議題に関する合意や方向性は、①日本による米国産原油の調達拡大、②日本による対米投融資第二弾の公表、③レアアース等の重要鉱物確保に向けたアクションプラン公表、の3点である。なお、①は日本側の提案に留まる一方、②③は日米の合意事項となる。

① エネルギー(石油)

方向性:日本側の公表文書では「日本やアジアにおける原油調達を念頭に、米国産エネルギーの生産拡大に日米で共に取り組んでいくことを確認し、更に日本において米国から調達する原油を備蓄する共同事業を実現したい旨」を伝えたと言及。一方、米ホワイトハウス公表のファクトシートには該当の言及なし。

考察:日本の原油調達は中東に9割を依存しており、その多くが現在は航行の安全が担保されないホルムズ海峡を通過している。こうした深刻な調達懸念に対処するうえで、日本が中長期的に原油調達の中東依存を緩和することは重要となる。また、トランプ大統領は2024年の大統領選の際に米国内における石油の生産拡大や戦略備蓄の積み増しに言及しており、日本側の提案はこうした意向に沿うものとなっている。

しかし、新規投資を通じた原油生産の拡大は一定の期間を要するため、日本における短期的な調達懸念を解消するものではない。比較的早期の増産が可能であるシェールオイルは、日本が主に輸入する中東産との質の違いが指摘され、精製には国内製油所における設備面の対応が必要とみられる。また、アラスカでの大規模な増産はより長期的なプロジェクトになる可能性が高い。短期的な米国からの代替調達は課題が多く、日本の当面の原油調達は引き続きイラン情勢とホルムズ海峡の航行が焦点となるだろう。

なお、本テーマがあくまで日本側の提案に留まった背景として、共同事業の詳細を詰める協議時間が足りなかった可能性がある。また、米国側はガソリン価格が高騰するなか、国外へ石油供給を確約することが国民の反発を招く可能性を懸念したのかもしれない。

図表
図表

② 対米投融資

合意内容:日米間の戦略的投資に関する共同発表として、2月の第一弾に続き、第二弾となる3つのプロジェクトを公表。具体的には小型モジュール炉(SMR)の建設が最大400億ドル、2つの天然ガス発電所の建設が最大330億ドル。

考察:これまでに公表された対米投融資は1,087億ドルに達する一方、このうち97.5%(1,060億ド)ルが発電関連となる(図表3)。この理由として、米国におけるデータセンター建設を背景とした電力需要の拡大、及び許認可が関係する社会インフラという公共性が指摘できる。第一弾を含めた日本の輸出押し上げ効果として、米国における関連製品の輸入シェアを前提にすれば1,700億円、日本製品が同事業に優先的に採用される場合には最大で約1.55兆円と試算できる(試算方法の詳細は2026年2月20日付け「対米投融資1号案件による日本への影響」)。また、SMRに関しては実用化段階であり、収益性等に課題は残りつつも、プロジェクトが円滑に進む際には日系企業のノウハウ獲得に繋がるだろう。

米国の電気料金は物価全体を上回るスピードで上昇しており(図表4)、トランプ政権は11月の中間選挙に向けて、本件を通じて物価高(アフォーダビリティ)対策をアピールしたい意向が強いとみられる。特にガス発電所の建設場所であるペンシルベニアは激戦州として政治的な重要性が大きいほか、もう一つの建設地のテキサス(共和党地盤)では中間選挙にて民主党が上院議席を奪取する可能性が僅かではあるが浮上している。他方、次世代原発であるSMR建設地のテネシー州とアラバマ州(共に共和党地盤)は、原発による発電比率が比較的高く(図表6)、州政府のサポートや関連人材の獲得に利点があるとみられる。

なお、対米投融資は総額5,500億ドルに対して、19.8%の規模に到達するなど、その実行スピードはやや早い印象を受ける。一方、第一弾と異なり、第二弾は金額に「最大」との言葉が追加されており、最終的な規模感に流動的な要素がみられる。加えて、会談前には経済安保に絡む案件候補(ディスプレイ・銅精錬・蓄電池)が企業名を含めて報道されていた一方、実際の決定案件には関与する企業が未公表のガス発電建設が含まれた(翌20日に運営企業が対象案件への関与を表明)。日本は経済安保も含めたい一方、米国は巨額の発電投資を重視したいなど、両政府の間で優先順位にズレがあるのかもしれない。また、今後は本格的な稼働(生産開始)がポストトランプ(次期政権)にずれ込むなど、収益リスクの大きい案件候補が増える可能性もあり、その規模感を含めて、より慎重な案件選定が求められるように思える。

図表
図表

③ 重要鉱物

合意内容:日米両政府のアクションプランとして、重要鉱物に関する最低価格(プライス・フロア)等の制度整備や政策支援に関する協議を行う。加えて、資金供与等の政策支援を見据え、対象候補として銅やリチウムなどに関する具体的な資源開発プロジェクト(関連企業)を公表。

考察:レアアースを含む重要鉱物の調達を巡り、中国が日本等に対する輸出規制を強化するなか、対中依存度の引き下げは喫緊の課題となっている。制度面での整備に関して、今回は日米両政府の協議事項を列挙したのみであり、今後は欧州等を含めて各国協調の合意に向けた具体的な進展が期待される。特に民間企業の設備投資を促進するうえでは、コスト的な課題に対処するための最低価格導入や公的な資金供与の在り方が焦点となるだろう。また、資源開発は一定の期間を要するため、具体的なプロジェクトの支援を同時並行で進めるなど、多面的な経済安全保障対策が求められるとみられる。

以上

前田 和馬


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前田 和馬

まえだ かずま

経済調査部 主任エコノミスト
担当: 米国経済、世界経済、経済構造分析

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