トランプ関税で米労働市場の軟化は継続(6月雇用統計)

~ヘッドラインは上振れも民間雇用の増加ペースは大幅減速~

桂畑 誠治

要旨
  • 25年6月の非農業部門雇用者数(事業所調査)は、前月差+14.7万人(前月同+14.4万人)と市場予想中央値(ブルームバーグ集計)の同+10.6万人(筆者予想同+12.8万人)への減速に反して加速した(4、5月合計1.6万人上方修正)。6月の非農業部門雇用者数が市場予想を上回った他、失業率が4.1%と予想に反して低下したことを受け、FF金利先物は7月利下げの可能性が約5%(前日約24%)に低下したことを示し、年末の水準は3.875%と前日の3.745%から上昇した(P4)。また、2年国債金利、10年国債金利は上昇し、ドルは主要通貨に対して強含んだ(P5)。
  • もっとも、6月雇用統計はヘッドラインが示すほど堅調な内容ではない。政府部門が同+7.3万人(前月同+0.7万人)と加速したことで全体が押し上げられた一方、民間部門は同+7.4万人(同+13.7万人)と市場予想中央値(ブルームバーグ集計)の同+10.0万人(筆者予想同+14.2万人)を下回ったうえ、4、5月合計で1.6万人下方修正されるなど、民間雇用の増加ペースは大幅に鈍化した。
  • トランプ2.0では、制度や政策の大幅な変更を多数の大統領令によって早期に実行しているため、混乱を招き、米経済は減速している。特に通商政策では、関税の賦課・撤回・上乗せの実行や、大幅な追加関税賦課などの発言を繰り返すことで不確実性を高めており、企業が採用抑制や人員削減の動きを強めている。
  • 今後、25%の自動車・同部品への追加関税、10%の相互関税、30%の対中関税、50%の鉄鋼・アルミニウム関税発動の影響が大きくなる中で、通商協議で合意できなかった国・地域への相互関税の上乗せ、対中国での関税の再引き上げなどが行われる可能性がある。更なるコストの増加やサプライチェーンの再構築を背景に、民間での採用抑制や人員削減の動きが強まり、民間雇用の増加ペースは低い伸びにとどまると見込まれる。
  • 政府部門では、連邦政府が政府効率化省(DOGE)による政府支出削減のための職員解雇によって前月差▲0.7万人と減少を続けたものの、州・地方政府が教員の増加によって同+8.0万人と大幅に拡大したことで、政府全体で同+7.3万人(前月同+0.7万人)と加速した。
  • 民間部門では、医療・社会支援が強い需要や人手不足を背景に、同+5.86万人と引き続き最大の増加となったほか、堅調な需要等を背景に、芸術・エンターテイメント・余暇が同+1.51万人、建設業が同+1.5万人と高い伸びとなった。さらに、輸送・倉庫(同+0.75万人)、飲食店(同+0.65万人)、情報産業(同+0.3万人)、小売業(同+0.24万人)、不動産・リース(同+0.21万人)、商業銀行(同+0.15万人)等が増加した。一方、教育サービス(同▲0.75万人)、専門・技術サービス(同▲0.74万人)、製造業(同▲0.7万人)、卸売業(同▲0.66万人)、その他サービス(同▲0.5万人)、派遣業(同▲0.26万人)、保険(同▲0.16万人)、宿泊(同▲0.13万人)と減少した業種が増加した。
  • 6月の失業率(U3、家計調査)は、4.1%(前月4.2%)と市場予想中央値4.3%(筆者予想4.3%)への上昇に反して低下した。ただし、労働参加率が62.3%(前月62.4%)と低下していなければ、失業率は4.3%に上昇していたと推測され、労働市場の軟化を示唆していると判断される。これを考慮しても、失業率は、依然低い水準にとどまっており、労働市場の良好な状態を示唆している。
  • また、「広義の失業率(U6)」は、7.7%(前月7.8%)と低下した。これは、上述の失業率(U3)に“現在は職探しをしていないが過去1年間に求職活動を行った人“と”正規雇用を探しているがパートタイムで働いている人“を失業者に加えた数値。U6は、U3と同様に過去と比較して低い水準にとどまっているが徐々に上昇しており、労働市場の緩やかな軟化を示している。以上より、家計調査は労働市場の緩やかな軟化を示していると判断される。
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桂畑 誠治

かつらはた せいじ

経済調査部 主任エコノミスト
担当: 米国経済

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