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RBNZオア前総裁辞任の理由判明、事業予算を巡る確執が背景に

~NZドル相場は底堅いが、金融政策の動向や難航する次期総裁人事の行方に注意を払う必要がある~

西濵 徹

要旨
  • ニュージーランド準備銀行(RBNZ)では、オア前総裁が今年3月に突然辞任した。総裁任期を約3年残したなかでの突然の辞任であり、その理由に注目が集まったが、その際には明示されなかった。ラクソン政権発足を経て、政府はRBNZの権限縮小を進める一方で金融市場の懸念を考慮してオア氏を総裁に留任させるも、政権との関係に緊張が高まっていたなかでの突然の辞任は様々な憶測を呼んだ。
  • オア氏の突然の辞任により人事は混乱したが、後任にはホークスビー副総裁が代行に就任し、その後は期限付で総裁に就任した。他方、情報公開により辞任の背景が明らかになり、ラクソン政権の事業予算削減の方針がオア氏の辞任を決定づけたことが明らかになった。一方、足元のNZドル相場は米ドル安の動きも追い風に安定している。RBNZの政策見通しには不透明感が残る一方、政府内では金融政策委員会の頻度を増やすべきとの議論もあり、難航する次期総裁の選定を合わせて注視していく必要性は高いと言える。

ニュージーランド準備銀行(RBNZ)では、今年3月にオア前総裁が突如辞任した(注1)。総裁の任期は1期5年であり、オア氏は2018年に労働党のアーダーン政権下で総裁に就任し、2023年には労働党のヒプキンス政権が再任されたため、任期を約3年残したなかで突然の辞任劇となった。なお、同国では、2023年の総選挙で右派の国民党が第1党となり、その後に国民党を中心とするラクソン政権が発足した。その結果、ラクソン政権の下では労働党政権において採られた政策の大転換が図られた。なかでも、国民党は野党時代、オア氏の『失策』がその後のインフレを招く一因になったとして批判し、RBNZの権限付託の縮小を公約に掲げるなど強硬姿勢をみせてきた。よって、政権交代直後に同政権はRBNZの政策目標を『物価安定のみ』とする法改正に動いた。一方、RBNZの独立性に対する金融市場の懸念を回避すべく、オア氏を総裁に留任させた。しかし、こうした経緯から、ラクソン政権とオア総裁の間には『すき間風』が吹くことが警戒される展開が続いてきた。

さらに、オア氏は総裁を3月5日付で退任するも、3月末までは形式的に総裁職に留まり、その間はホークスビー副総裁が総裁代行を務めるという不可解な人事が採られた。そして、4月1日以降についても、ウィリス財務相が理事会の推薦に基づき最長で6ヶ月の任期で臨時総裁を任命し、その間に次期総裁を選定するとされるなど、オア氏の退任劇が唐突であったことがうかがわれた。こうしたことから、オア氏が突如辞任するに至った理由が注目されたものの、RBNZが公表した声明文ではその具体的な理由が示されず、こうした事情も様々な憶測を呼ぶ結果となった。なお、ラクソン政権は4月8日付で総裁代行を務めたホークスビー氏を6ヶ月の任期で総裁に任命し、任期を最大で3ヶ月延長する可能性に言及するなど、後任総裁の人選が難航している様子がうかがわれた。

こうしたなか、情報公開法に基づきRBNZが公開した文書によって、オア氏の突然の辞任劇の背景が明らかになった。具体的には、ラクソン政権が来年度から向こう5ヶ年にわたってRBNZの事業予算を大幅に削減する提案を行うとともに、理事会との間で合意する方向で議論が進められた。一方、オア氏はその内容を合意する直前まで知らされておらず、その内容を巡ってもオア氏の希望(2025年度から5ヶ年の事業予算を10.31億NZドルと想定)に対して、政府案は単年度1.5億NZドル(5ヶ年で7.5億NZドル)と大幅に下回る内容であった模様である。こうしたことを理由に、オア氏は「適切と想定される水準を大幅に下回る予算では職務継続が困難」と判断した上で、「総裁として可能な限り職責を果たした」との個人的な考えから辞任を決断したとされている。そして、弁護士を交える形で即日の辞任と『特別休暇』の取得を申し出た結果、上述したような不可解な人事が採られたとされる。

なお、こうした人事を巡るドタバタ劇にもかかわらず、足元のNZドル相場は国際金融市場において米ドル安の動きが強まっていることも追い風に、底堅い動きをみせている。RBNZは先月の定例会合で6会合連続の利下げに動く一方、今回の決定に際して6人の政策委員のうち1人が据え置きを主張するなど『ハト派』姿勢の後退がうかがわれた。その一方、先行きの金利見通しについて一段の利下げを見込むなど、ちぐはぐな見方が示された(注2)。また、その後もRBNZ内から足元の金利水準について「中立水準の域内にある」(シルク総裁補)といった見方が示され、追加利下げの可能性後退を示唆する動きもNZドル相場の底堅さを支えている可能性がある。その一方、政府内からは金融政策委員会の頻度を現行の年7回から年8回に戻すべき(ウィリス財務相)との意見が示されるなど、RBNZに対して新たに圧力が掛かる動きもみられる。こうした事態も次期総裁人事選びを難航させるとともに、その行方は少なからずNZドル相場に影響する可能性に留意する必要があろう。

図表
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以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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