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2025.05.12
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韓国大統領選・候補者出揃う、革新系野党優位の情勢は変わらず
~与党・国民の力は候補者調整で混乱深刻化、米国との協議の行方に影響を与える可能性も~
西濵 徹
- 要旨
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韓国では、憲法裁による尹前大統領への罷免決定に伴い、6月3日に次期大統領選が実施される。選挙管理委員会への立候補届け出が終了し、正式な選挙戦がスタートした。立候補者は計7名に上るが、実質的には保守系与党・国民の力と革新系野党・共に民主党の争いとなっている。
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共に民主党の李在明氏は世論調査で優位に立ち、尹氏の罷免直後に立候補を表明した。裁判の影響が懸念されたが、現状は出馬可能な状況にある。他方、国民の力では党内混乱が続いた。一旦は金文洙氏を候補者とするも、大統領代行を務めた韓悳洙氏が無所属で出馬を表明し、党内で韓氏への一本化が模索されたが、党員投票で否決された。最終的に金氏を候補者としたが、世論調査では劣勢が続いている。
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世論調査では、李氏の支持率が50%前後と金氏を大きく引き離しており、与党内の結束の乱れも選挙戦に影響を与える可能性がある。他方、大統領選の結果は米国との貿易協議の行方にも影響を与えるとみられ、外部環境の動向にも要注意である。選挙戦の行方はウォン相場の動向を左右する可能性もくすぶる。
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韓国では、4月に憲法裁判所が尹錫悦(ユン・ソンニョル)前大統領に対する罷免を決定したことを受け、次期大統領選挙が6月3日に行われる。こうしたなか、今月10~11日の日程で選挙管理委員会への立候補の届け出が行われ、本日(12日)から正式な選挙戦がスタートした。選挙管理委員に届け出た立候補者は計7人に上るものの、実質的には二大政党(国民の力・共に民主党)間の争いとなっている。
尹氏に対する罷免決定直後から、各党では候補者擁立に向けた動きが加速するなど、すでに事実上の選挙戦はスタートしている。なかでも革新系の最大野党・共に民主党では、2022年の前回大統領選で尹氏に敗れた李在明(イ・ジェミョン)氏が事前の世論調査において一貫してトップを維持してきた。李氏は尹氏の失職直後に次期大統領選への立候補を表明し、党代表を辞任した上で自身の選挙対策組織に保守派のみならず、党内反主流派からも人材を登用して『中道路線』を打ち出すなど、支持率のさらなる拡大を図った。他方、李氏を巡っては、前回大統領選に際して虚偽申告を理由とする公職選挙法違反を問われ、昨年の一審判決で懲役1年、執行猶予2年の有罪判決を受けたため、次期大統領選出馬への影響が懸念された。しかし、3月末の控訴審判決で一転無罪判決が下されたことで出馬のハードルが下がり、結果的にその後も優位に選挙戦を進めてきた。ただし、今月1日に最高裁は控訴審での無罪判決を破棄して審理を高裁に差し戻したため(注1)、李氏への支持に如何なる影響を与えるかが注目されている。一方、公選法では、実刑判決、ないし100万ウォン以上の罰金刑確定が大統領選立候補の『ボーダー』となるが、高裁は差し戻し審の初公判を大統領選後となる6月18日としており、現時点で李氏は大統領選に出馬可能な状態となっている。
一方、保守系の与党・国民の力では、尹氏への弾劾の是非を巡って党内の意見が割れたことで、当初は立候補予定者が多数乱立するなど、党内の混乱が露呈した。その後、党員投票や世論調査を元にした予備選を経て、弾劾に反対した前雇用労働相の金文洙(キム・ムンス)氏と、弾劾に賛成した前代表の韓東勲(ハン・ドンフン)氏の2名に絞り込まれた後、今月3日に実施した最終予備選を経て金氏を正式な立候補者に決定した。しかし、世論調査では金氏の支持率は李氏に大きく水を開けられるなど厳しい選挙戦が予想されるなか、尹氏の停職や失職を受けて大統領代行を担った韓悳洙(ハン・ドクス)氏の出馬が取り沙汰されてきた。今月1日に韓氏は首相を辞した上で、次期大統領選への無所属での立候補を表明したことを受け、党内では執行部を中心に世論調査で金氏より支持が高い韓氏への一本化を模索する動きがみられた。しかし、その後に行われた党員投票で党執行部が主導した韓氏への一本化案が否決され、金氏がようやく正式な候補者として復活するなど、最終盤であらためて党内の足並みの乱れが露呈した。さらに、一連の混乱の責任を取る形で党トップ(非常対策委員長)の権寧世氏は辞意を表明しており、混乱の深刻化が選挙戦にも影響を与えることは避けられない。なお、党内では依然、保守系の少数野党・改革新党から立候補した李俊錫(イ・ジュンソク)氏との一本化を模索する動きもみられるが、李氏はこれに否定的な考えを示しており、最後まで候補者を巡る混乱が尾を引く可能性は高いと見込まれる。
直近の世論調査においても、李在明氏(共に民主党)の支持率は50%近く、一部では50%を上回る一方、金文洙氏(国民の力)の支持率は20%台に留まるなど、李氏に大きく水を開けられている状況は変わらない。2候補に限った世論調査においても、李氏の支持率はおおむね50%を上回る数字が確認されており、李氏が優位に選挙戦を戦っているとみられる。さらに、上述した国民の力における混乱も金氏とっては逆風となる可能性に留意する必要がある。その意味では、約3週間の選挙戦は極めて激しいものとなることが予想される。他方、同国は米トランプ政権との貿易協議を比較的円滑に進めてきたとされ、その背景には大統領代行を務めた韓氏が米国留学経験に加え、総理代行や総理として米韓FTA(自由貿易協定)の交渉に関わった経緯も影響しているとされる。仮に野党が優位に大統領選を進める展開が続けば、早期の交渉妥結のハードルとなることが予想されるほか、早期の交渉妥結観測を好感して底入れの動きを強めるウォン相場を取り巻く環境が一変する可能性もある。今後は外部環境が大統領選に与え得る影響についても注意を払う必要がある。

注1 5月1日付レポート「韓国大統領選へ残り1ヶ月、与野党ともに候補者に大きな動き」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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