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- もう手遅れか? 少子化対策
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2024年の出生数は70万人を切るかもしれない。岸田政権が残した宿題として少子化対策がある。人口動態を調べると、過去に出生数が急減している時期がある。それから30年前後の年数が経つと、今度は出産する女性の人数が減るから、出生数も急減するという局面に移行する。おそらく、2009年頃から現在まではそうした厳しい局面に移行しているのだろう。
人口減少の急加速
岸田政権がやり残した宿題として人口問題が挙げられる。異次元の少子化対策を打ち出したものの、現実には出生数は約10年前から加速度的に急減している(図表1)。出生数は2016年に100万人を初めて割って97.7万人になり、2024年は遂に70万人を切る可能性もある。少子化の加速を止めることに成功していないのが実情だ。

直近までのデータがわかる総人口の月次推移では、コロナ禍で過去からのトレンドが下方屈折していることが明確にわかる(図表2)。消費市場は、賃上げ効果もあって名目値では膨らんでいるように見えるが、消費者の人数=人口は減少しているから、それによって消費縮小圧力が働いている側面もある。コロナ初期(2020年1-3月平均)の総人口は12,598万人で、直近の2024年8月の概数は12,385万人と約4年半で▲1.7%の縮減という結果になる。

経済界からは、なるべく首相は長く継続して政策運営をしてほしいという要望があるようだ。人口対策もその典型例で、内閣が継続して対応することが望まれる。
筆者は、この少子化対策に関して、「もう手遅れだ」という意見をよく聞かされる。直感的にはそうかもしれないと思いつつ、今までそれを具体的に考えることはしてこなかった。そこで本稿では、本当にもう手遅れなのかどうかを、できるだけ簡単な手法で検討してみることにした。
年齢別の人口推移
図表2では、総人口の推移をプロットしてみた。総人口は、日本人+外国人の居住者で構成される。コロナ禍では、外国人の居住者が海外に流出したことが知られている。2020~2024年までの総人口の下方屈折には、外国人の流出要因が強く影響している。しかし、2023年以降は外国人の居住者も一定のペースで回復してきている。問題は、それ以外に2020年以降について、日本人の自然増減のペースが出生数の減少によって強まっていることだ。
筆者は、問題意識として女性が出産することの多い年齢層(27~36歳)の人口が減少して、彼女らが一定の割合で子供を産んだとしても、出生数全体を増やせなくなっているのではないかと考えた。それを確認するために、1歳ごとの年齢推移を調べて、どのくらいの年齢層から女性が急減したのかを確認した(図表3)。すると、女性人口が増加していたのは、51~62歳の年齢層だった(年齢は基礎資料の調査時点が2023年10月)。1961~1972年生まれの人々である。この後の33~50歳(1973~1990年生まれ)の年齢層は、年々その人数が減っている。この年齢層が27~36歳だったのは、2000年から現在(おそらく2026年まで)の期間である。つまり、2000年頃から最近までは、出産の年齢を迎える年齢層の人数が少なくなってきた効果が強く表れているのであろう。

「もう手遅れ」にしないためには、本来はボリュームゾーンだった1961~1972年生まれの人々が27~36歳だった時期に、少子化対策が効果を上げていなくてはいけなかった。つまり、1988~2008年の期間である。
しかし、現実はそれとは逆で、この時期は最初の3-4年以外不況期と重なった。当初はバブル経済だったが、その後はデフレ経済が深刻な時期になった。少子化の現象は、長期不況が若年世代の結婚環境や子育て環境を悪化させたために、その後遺症として起こったと考えられる。不幸なことは、その時期を過ぎた2009年以降に、今度は子供を産む年齢層の女性の人数が年々減ってきて、少子化が進んだことだ。
「もう手遅れだ」という意味を、子供を産む年齢層が減っている時期に移行したという風に捉えると、2009年以降は1人当たりの女性の出生数を増やす努力が実りにくい局面になってしまったということが言える。
最後のチャンス
しかし、筆者はまだ絶望的な局面には至っていないと考える。なぜならば、2023年時点で24~32歳の人口は若干ながら増えているからだ(前掲図表3)。23歳よりも若い年齢層(18~23歳)からはさらに人口減が加速する。つまり、24~32歳(1991~2000年生まれ)の年齢層がもっと多くの子供を産んでくれれば、多少少子化に歯止めをかけられる。最後のチャンスは、彼女らが27~36歳を迎える2018~2036年までになるだろう。厳密に言えば、2023年時点で23歳以下の人達は2030年以降に27~36歳になるから、次の下押し圧力を2027年以降に強める。それを加味すると、2018~2026年が最後の勝負どころだ(2018~2023年はもう過ぎているが)。この期間に27~36歳(もちろん36歳以降でも十分出産可能性はある)の世代が出生数を増やせなければ、人口減少は絶望的に進むだろう。2024~2026年に政権運営を担うわが国の首相の責任は重い。
何をすればよいのか?
岸田政権の異次元の少子化対策は、2024・25年度から本格的に始まる。子育て世帯の経済支援が軸である。筆者はこれだけでは不十分だと思う。いろいろと問題があると思うが、子育ての手前のライフステージである結婚の事情を視野に入れていないところは致命的だと思える。若者の結婚を早期化させて、婚姻数を増やすことが必要だ。婚姻数は、2023年は48.9万組だ(人口動態速報)。平均初婚年齢は、男性31.1歳、女性29.7歳だ(2022年)。
筆者が最近の流れで好ましいと思うのは、大手企業を中心に初任給を引き上げていることだ。これは、若者の結婚年齢を前倒しさせるのにプラスである。もっと裾野を広げて、中堅・中小企業まで初任給が上がればよい。
もう1つ、文化的な課題もある。企業や組織の中で、個人の結婚に関して言及するのはNGであるという風潮である。しかし、従業員などで結婚の意志がある人を支援することは、もっと社会的に行われるべきだと筆者は思う。結婚を促進することは、企業や組織がもっと前向きに取り組めば、いくらか成果が上がるはずだ。筆者はしばしば社会の優先順位がおかしくなっていることがあると感じている。あえて乱暴な言い方をすれば、過剰にプライバシーを守ることで国家が衰退しても、それは仕方がないことなのだろうか。それは順序が何かおかしい気がする。バランスを少し見直した方がよい。
熊野 英生
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