ニュージーランドはテクニカル・リセッションで景気に急ブレーキ

~利下げ前倒し観測が強まる一方、当面のNZドル相場は中銀の動きに揺さぶられる展開が続こう~

西濵 徹

要旨
  • ニュージーランドでは物価高と金利高の共存に加え、中国の景気減速懸念も重なり内・外需双方に不透明要因を抱える。こうしたなか、昨年10-12月の実質GDP成長率は前期比年率▲0.37%と2四半期連続のマイナス成長となるテクニカル・リセッションに陥っている。外需は堅調さを維持するも、内需は幅広く下振れして景気に急ブレーキが掛かっている。前期は在庫の積み上がりが確認される一方、当期は在庫調整が景気の足を引っ張る対象的な動きがみられる。ただし、全般的に生産活動は弱含んでいる様子がうかがえる。
  • 中銀は先月の定例会合で追加利上げ観測を後退させる一方、タカ派姿勢を維持する姿勢をみせたが、景気低迷が確認されたことで金融市場では利下げの前倒し観測が強まると予想される。他方、足下のインフレは頭打ちの動きを強めるも、サービスや非貿易財を中心にインフレ圧力がくすぶるなか、仮に利下げ前倒しを織り込みNZドル安が進めば輸入インフレ圧力が強まる懸念が高まる。実体経済は厳しい状況が長期化する可能性があるほか、NZドル相場は中銀の対応に揺さぶられやすい展開が続くことが予想される。

ニュージーランドでは過去3年近くインフレが中銀目標を上回る推移が続くなか、中銀は物価と為替の安定を目的に累計525bpもの断続利上げを迫られてきた。なお、インフレは一時30年ぶりの高水準となったものの、昨年は頭打ちの動きを強める展開をみせているものの、物価高と金利高は共存する展開が続いて景気の足を引っ張る懸念が高まっている。さらに、中銀が引き締めを強める一因となった不動産市況は金利高が長期化するなかでピークから2割近く下回る推移が続いており、家計部門にとっては逆資産効果となる懸念もくすぶるなど内需を取り巻く環境は厳しさを増している。また、同国にとって最大の輸出相手である中国は景気を巡る不透明感に加え、デフレ懸念が高まるなど外需を取り巻く環境も厳しさを増している。こうしたなか、昨年10-12月の実質GDP成長率は前期比年率▲0.37%と前期(同▲1.36%:改定値)から2四半期連続のマイナス成長となるテクニカル・リセッションに陥るとともに、中期的な基調を示す前年同期比ベースの成長率も▲0.3%と前期(同▲0.6%)からマイナスで推移するなど、足下の景気に一段とブレーキが掛かっている様子がうかがえる。外需を巡っては、底入れが続いた外国人来訪者数の動きに一服感が出たことを反映してサービス輸出は下振れする一方、食料品や鉱物資源関連を中心とする財輸出の堅調さを反映して輸出は堅調に推移している。また、インフレ鈍化により実質購買力が押し上げられたことで家計消費に底打ち感が出ているほか、昨年10月に実施された総選挙に関連して政府消費が底堅く推移する動きもみられる一方、金利高が長期化するなかで企業部門の設備投資需要は弱含んでいるほか、不動産投資も力強さを欠くなど固定資本投資は景気の足を引っ張る展開が続いている。結果、幅広く内需が力強さを欠く動きをみせるなかで輸入は下振れしており、純輸出(輸出-輸入)の成長率寄与度は前期比年率ベースで+3.17ptとプラス寄与となるなど内容は数字以上に厳しいものと捉えることが出来る。他方、景気に対する不透明感が高まるなかで企業部門を中心に在庫調整の動きを強めている模様であり、在庫投資による成長率寄与度は前期比年率ベースで▲11.46ptと大幅マイナスとなるなど景気の足かせとなったと捉えられる。前期については在庫の積み上がりが確認されたにも拘らずマイナス成長となるなど数字以上に厳しい内容がうかがわれたものの(注1)、当期については逆の状況にあると判断出来る。分野別の生産動向を巡っても、公的部門に堅調さがうかがえるほか、農林漁業関連に底堅い動きがみられるものの、鉱業や製造業、建設業の生産は総じて弱含むとともに、サービス業も金融や不動産関連で堅調な動きがみられるもこれら以外の幅広い分野で生産は弱含んでおり、幅広い分野で生産活動が低迷している。

図表1
図表1

図表2
図表2

インフレが中銀目標を上回る推移をみせていることを受け、中銀は昨年末にかけてインフレ圧力の根強さを警戒して追加利上げに含みを持たせてきたものの、先月の定例会合では追加利上げ観測を後退させるなどタカ派姿勢を幾分後退させた(注2)。ただし、先行きの政策運営については抑制的な姿勢を長期に亘って維持する考えをあらためて強調する考えをみせたほか、最新の政策見通しにおいて利下げに転じる時期を来年1-3月とする方針を維持するなどタカ派姿勢を堅持したものの、上述のように足下の景気に急ブレーキが掛かる動きが確認されたで方向性の修正を迫られる可能性が高まっている。他方、昨年の総選挙を経て発足したラクソン政権は公約に中銀に対する付託権限の縮小(前労働党政権下で物価安定と雇用最大化の両立に変更されるも、物価安定のみに再変更するもの)を掲げたほか、昨年12月の中銀法改正により中銀は物価抑制により注力することが可能になっている。足下のインフレは前年に大きく加速した反動で頭打ちの動きを強めているものの、依然として雇用環境の底堅さを反映してサービス物価や非貿易財を中心にインフレ圧力がくすぶる動きが確認されるなどインフレが鎮静化していると判断するのは些か早計と捉えられる(注3)。さらに、金融市場においては中銀による利下げ前倒しを織り込む形で通貨NZドル相場が調整の動きを強める可能性が高まると予想されるものの、NZドル安の進展は輸入インフレを通じたインフレ圧力を増幅させることが懸念されることを勘案すれば、中銀が早期に利下げに動く可能性は高くないのが実情であろう。その意味では、中銀は米FRB(連邦準備制度理事会)の動きを睨みながら政策判断を下す対応を迫られる展開が続くと予想されるほか、結果的に実体経済にとっては厳しい状況が長期化することも考えられる。よって、NZドル相場の動向についてはしばらく中銀の対応に揺さぶられる可能性を頭に入れておく必要があると捉えられる。

図表3
図表3

図表4
図表4

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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