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2024.02.28
アジア経済
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ニュージーランド中銀、追加利上げは後退も抑制姿勢をしばらく維持の姿勢
~追加利上げを織り込んだNZドル相場は短期的に調整が不可避も、その後は底堅い展開が続こう~
西濵 徹
- 要旨
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- ニュージーランドでは、インフレ昂進を受けて中銀は累計525bpもの断続利上げに動いた。昨年のインフレは頭打ちしており、中銀は引き締め局面の休止に動く一方、足下の景気が足踏み状態となるなかで難しい舵取りを迫られる展開が続く。雇用の底堅さを追い風にサービスや非貿易財を中心にインフレ圧力がくすぶる上、ラクソン政権が経済重視姿勢をみせていることも、中銀が慎重姿勢を維持する一因になっている。
- 中銀は28日の定例会合において5会合連続で政策金利を5.50%に据え置いた。11月の前回会合では追加利上げを見込む動きをみせたが、その可能性は後退する一方、利下げ開始時期は来年初に据え置かれている。金融市場では追加利上げの可能性が後退したことでタカ派姿勢の後退とみる向きがある。一方、相当期間に亘って現行の抑制的なスタンスを維持する姿勢を改めて示したことを勘案すれば、NZドル相場は短期的に調整が避けられないものの、その後は比較的底堅い展開が続く可能性は高いと見込まれる。
ニュージーランドでは、コロナ禍一巡による経済活動の正常化の進展に加え、一昨年来の商品高や米ドル高などを追い風にインフレ率は30年ぶりの高水準となったことを受けて、中銀(NZ準備銀行)は物価と為替の安定を目的に累計525bpもの断続利上げを迫られた。他方、一昨年末以降は商品高や米ドル高の動きが一巡し、高止まりしたインフレも頭打ちに転じており、中銀は昨年7月に約2年に及んだ利上げ局面を休止させている。さらに、昨年10-12月のインフレ率は前年同期比+4.66%と依然として中銀目標(1~3%)を上回るも2年強ぶりの水準に鈍化している(注1)。しかし、中銀は利上げ局面を休止させた後もインフレを警戒する一方、景気に配慮せざるを得ない状況に直面してきた。この背景には、中銀の断続利上げを受けて不動産価格は2021年末を境に頭打ちに転じており、足下では底打ちの兆しがうかがえるもピークから15%程度下回るなど逆資産効果を招く懸念がくすぶる。そして、物価高と金利高の共存が内需の足かせとなる上、最大の輸出相手である中国景気を巡る不透明感が外需の重石となる動きもみられるなか、昨年7-9月の実質GDP成長率は前期比年率▲1.01%と2四半期ぶりのマイナス成長となるなど足下の景気は足踏みしている(注2)。他方、景気は足踏み状態にあるものの、足下の雇用は改善が続いている上、賃金に上昇圧力が掛かる動きがみられるなか、上述のように足下のインフレ率は頭打ちの動きを強めているものの、雇用の堅調さを反映してサービス物価を中心に上昇圧力がくすぶるほか、非貿易財を中心にインフレが高止まりするなど鎮静化にはほど遠い状況にある。また、昨年10月の総選挙を経て発足したラクソン政権の下では労働党政権時代からの政策転換を目指すとともに(注3)、ラクソン氏が長らく企業経営者であったことも影響して経済重視路線に舵が切られる動きもみられる。こうしたことも中銀が慎重姿勢を堅持するとともに、抑制的なスタンスを維持することが重要との考えを示す一因になっていると捉えられる。
こうしたなか、中銀は28日に開催した定例会合において政策金利であるオフィシャル・キャッシュ・レート(OCR)を5会合連続で5.50%に据え置く決定を行っている。会合後に公表した声明文では、足下の物価動向について「想定通りに頭打ちの動きを強めており、リスクやインフレ期待も沈静化する動きがみられるものの、依然として目標を上回る推移が続くなど中銀の許容範囲を超えている」との見方を示している。その上で、足下の景気動向について「抑制的な金融政策や世界経済の減速を追い風に、供給能力に見合う形で総需要が鈍化している」とした上で「移民拡大と需要鈍化を受けて労働市場の生産能力の制約状態は緩和が続いている」としつつ、「人口増を受けて家賃の上昇が続いている」との見方を示す。その一方、世界経済について「今年は一段の減速が見込まれ、輸入インフレの緩和に資する」としつつ、「地政学リスクや異常気象が依然としてインフレを招くリスクになり得る」とした上で「その影響を注視する」との認識を示す。そして、政策運営について「現在の金利水準は需要を抑制していると確信する」としつつ、「インフレを確実に目標域に戻すには生産能力への圧力が持続的に低下する必要がある」とした上で「しばらくは抑制的な水準に維持する必要がある」との見方を示している。さらに、議事要旨においては足下のインフレ鈍化の動きについて「足下のコアインフレの鈍化の動きや企業部門を中心とするインフレ期待の低下の動きは望ましい」としつつ、「依然として中銀目標の中央値である2%を上回っている」として、物価抑制を主眼に置いた政策運営を行う姿勢を示した格好である。この背景には、ラクソン政権が公約に中銀の付託権限の縮小(労働党政権下では物価安定と雇用最大化の両立に変更されたものを、再び物価安定のみに戻すもの)を掲げるとともに、政権交代後の昨年12月に中銀法改正により中銀は物価抑制にのみ注力することが可能になったことが影響していると考えられる。事実、会合後に公表した先行きの政策金利見通しについては、昨年11月の前回会合時点と比較してピークは低下するも依然として追加利上げに含みを持たせる姿勢が維持されるとともに、利下げ開始時期(2025年1-3月)も維持されるなどタカ派姿勢を堅持したと捉えられる。会合後に記者会見に臨んだ同行のオア総裁は、今回の決定について「追加利上げが議論されたものの、現行の金利水準で十分であるとの力強いコンセンサスを得た」と述べるなど追加利上げの可能性が取り沙汰されたことを明らかにしている。その上で、「多くの変数は金融政策が機能していることを示唆している」としつつ「基調的なインフレへの懸念は依然払しょく出来ていない」とした上で、「低生産性が問題な上、住宅の賃料の動きを注視している」との考えを示している。そして、「インフレリスクに対する非対称的な反応があるものの、11月の前回会合時点に比べてインフレ見通しに対する自信を有する」、「足下はディスインフレ基調にある上、経済もソフトランディング可能」との見方を示している。金融市場においては、11月の前回会合に比べて追加利上げの可能性が後退したことを理由にNZドルの対米ドル相場に下押し圧力が掛かる動きがみられるものの、先行きについては利下げ開始時期が維持されたことで下値が支えられる展開が予想される。日本円についても米ドルに対する動きが影響して調整する動きがみられるものの、先行きについては相対的に底堅い展開が続く可能性は高いと見込まれる。
注1 1月24日付レポート「ニュージーランド、インフレ鈍化確認も中銀の利下げ前倒しは見通しにくい」
注2 2023年12月14日付レポート「ニュージーランド、内・外需ともに下振れして2四半期ぶりのマイナス成長」
注3 2023年11月27日付レポート「ニュージーランド・ラクソン政権発足、「アーダーン路線」は大転換へ」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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