徹底解剖!アメリカ大統領選2024(3)

~世論調査は信頼できる?~

前田 和馬

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Q.大統領選は最多得票の候補が勝利するのか?

A. 必ずしもそうではない。2000年大統領選の全米得票率は民主党・アル・ゴアが48.4%と共和党・ブッシュ(同、47.9%)を上回ったものの、獲得選挙人では266人と僅差でブッシュ(271人)に敗れた。2016年に関しても、民主党・クリントンが全米で48.2%の票を獲得したものの、獲得選挙人は232人に留まり敗れている(共和党・トランプの得票率は46.1%、獲得選挙人は306人)。
こうした逆転現象が生じるのは、大統領選挙が大半の州で「勝者総取り方式」を採用しているためだ(詳細は「徹底解剖!アメリカ大統領選2024(1)」を参照)。いかに多くの州、特に2大政党の支持が拮抗している「激戦州」で勝利できるか否かが重要であり、大統領選の勝敗を決めるうえで全米得票率や州ごとの得票差は重要ではない。例えば、カリフォルニア州の人口は全米の1割に達するため、同州における世論の変化は全米の支持率にも影響を与えるかもしれない。しかし、仮にこうした地域で反トランプ的な有権者が大幅に増える場合においても、そもそも同州では民主党候補の勝利が確実視されているため、これが大統領選挙の勝敗に及ぼす影響はほとんどない。

Q.それでは激戦州における世論調査を見れば、選挙結果が予想できるのか?

A. 世論調査は勝敗を見通すうえでの重要な材料のひとつだが、直近2回の大統領選における精度はあまり芳しくない。2016年選挙では事前の世論調査が民主党・クリントン優勢を予想していたものの、結果的には共和党・トランプが勝利し、世論調査の信頼性が大きく揺らぎはじめた。また、2020年は事前の想定通りバイデン氏が勝利したものの、トランプ前大統領は予想外に善戦した。トランプ氏は予想を覆しフロリダ州で勝利したほか、圧倒的に不利とみられていたウィスコンシン州でも接戦を演じた(図表1)。
2016年大統領選における予想が外れた理由としては、学歴と投票行動に強い相関が生じたこと(学歴が高いほど民主党候補に投票)、及び黒人の投票率が2012年選挙から低下したことなどが指摘されていた(注1)。2016年大統領選後にこうした学歴のバイアスは修正された一方、一部のトランプ支持者は世論調査に回答しない傾向が強かったため、世論調査に基づく事前予想は2020年においてもトランプ氏の得票率を過小評価したと考えられている。

Q.結局、世論調査はどの程度信頼できるのか?

A. 世論調査による支持率の誤差は従来±3%程度と考えられてきたものの、近年では±6%まで倍増しているとの指摘がある。前述の世論調査の回答者バイアスに加えて、有権者は投票する候補を直前に決めたり、支持する候補の圧勝が予想されれば投票に行かなくなったりするため、事前調査の精度には限界がある。米国民の大統領選に対する注目度が高いのは確かだが、2020年選挙の投票率は66.6%に留まっており(注2)、特定の人種グループの得票率が大きく変動し、これが選挙結果を左右することも考えられる。
直近2回の大統領選の結果はトランプ支持を過小評価するバイアスが強く、こうした傾向は2024年も変わらないかもしれない。トランプ前大統領は「ディープステート(米国を陰で操る闇の政府)」の打倒を主張しており、こうした陰謀論を信じるトランプ支持者は伝統的な報道機関による世論調査の参加に消極的な態度を示すだろう。また、同氏が有罪判決を受ける場合にはトランプ支持を表明しない「隠れトランプ」が増加することも考えられる(注3)。このため、2024年選挙がバイデンvs.トランプの再戦でトランプ優勢との事前予想がある場合、バイデン大統領が想定外に勝利する可能性は低いことが想定される。

図表1:2020年大統領選における激戦州の事前世論調査と投票結果
図表1:2020年大統領選における激戦州の事前世論調査と投票結果

【注釈】

1)世論調査の結果は単純集計ではなく、年齢や人種といった属性別の結果を実際の人口構成に応じて加重平均することで算出される。2016年以前はこうしたウェイト調整の際に学歴を考慮しないものが多かった一方、学歴が高いほど世論調査に回答する人が多く、こうした回答者は2016年選挙では民主党・クリントンを支持する傾向が強かったため、世論調査はトランプ支持率を過小評価したとみられている。

2)US Elections Project - 2020g (electproject.org)

3)トランプ支持を世論調査の際に公表しない「隠れトランプ」を巡っては、2016年選挙後にその存在を否定した分析が多い。隠れトランプが存在した場合、こうした人々は調査員を介した電話調査の方がオンライン調査よりもトランプ支持を公言しにくいと考えられるものの、トランプ氏の支持率は調査手法によって有意な差がなかった。

【参考文献】

飯田健(2021)“2016年における予測の失敗と2020年大統領選挙,” 日本国際問題研究所「国際秩序の動揺と米国のグローバル・リーダーシップの行方」, 2021年3月.

Kennedy, Courtney et al. (2018) “An Evaluation of the 2016 Election Polls in the United States,” Public Opinion Quarterly 82(1): 1-33.

Kennedy, Courtney (2020) “Key things to know about election polling in the United States,”Pew Research Centerブログ(2024-3-11参照).

以上

前田 和馬


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前田 和馬

まえだ かずま

経済調査部 主任エコノミスト
担当: 米国経済、世界経済、経済構造分析

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