パキスタン、総選挙を経てシャバズ・シャリフ政権が2期目入り

~経済も政治も不透明要因が山積するなかで見通しが立ちにくい展開が続く可能性は高い~

西濵 徹

要旨
  • パキスタンで先月実施された総選挙では、いずれの政党も単独で半数を上回る議席を得られず、政党間の合従連衡の動きが活発化した。政権維持を目指す与党のPML-Nは総選挙前に連立を組んだPPPなどと改めて連立を組むことで合意したほか、少数政党とも協議を行った。結果、3日に実施された首班指名選でPML-Nのシャバズ・シャリフ氏が再選出され、シャバズ政権が2期目入りすることが決まった。経済の立て直しが課題となるなかで当面は来月に迫るIMF支援協議の行方に注目が集まるが、前回レビューに時間を要したことを勘案すれば円滑に進むかは見通しが立たない。最悪期こそ過ぎるも経済は困難が続く上、政治面でも不安定要因が山積するなかで、経済、政治両面で見通しが立ちにくい状況が続くであろう。

パキスタンで先月実施された総選挙(議会下院(国民議会)選挙)では、いずれの政党も単独で半数を上回る議席を獲得することが出来ず(注1)、その後は政権樹立に向けて政党間の合従連衡の動きが活発化した。総選挙は議員定数の336議席のうち直接選挙の対象となる264議席を巡って争われたが、カーン元首相が実質的に率いる最大野党のパキスタン正義運動(PTI)に所属するも無所蔵として出馬せざるを得なかった勢力が93議席を獲得して単独勢力として事実上の『第1党』となった。他方、シャバズ前政権を支えた最大与党であり、ナワズ元首相も加わったパキスタン・イスラム教徒連盟シャリフ派(PML-N)は直接選挙枠では75議席の獲得に留まるも、女性議員枠や非ムスリム議員枠を併せると98議席となるなどPTIを上回る形で第1党となった。さらに、シャバズ前政権の下でPML-Nと連立与党を構成したパキスタン人民党(PPP)は直接投票で54議席を獲得したほか、女性議員枠や非ムスリム議員枠を併せると68議席を獲得している。ただし、PML-NとPPPを併せても166議席と単純過半数となる169議席に3議席満たず、両党以外の少数政党との連立協議を模索する必要に迫られた。こうしたなか、3日に議会下院で実施された首班指名選挙にはPML-Nからシャバズ・シャリフ前首相、PTI系無所属からはカーン元政権下で電力相、石油相、経済相を歴任したオマル・アユブ氏が出馬したなか、シャバズ氏は半数を上回る201票を獲得する一方、アユブ氏の得票数は92票に留まり、結果的にシャバズ氏が再選出されることとなった。同国を巡っては、一昨年に発生した一時は国土の3分の1が水没した大洪水により主力産業である農業が壊滅的な打撃を受ける一方、昨年にはIMF(国際通貨基金)との間で総額22.5SDR(約30億ドル)規模の支援プログラムが合意に至るなど経済の立て直しに向けた動きが緒に就くなか、円滑な進捗が図られるかが課題となっている。しかし、支援プログラムの第1次レビューの合意に想定以上に時間を要したことを勘案すれば、来月末に迫る第2次レビューを巡っても相当の時間を要する可能性はくすぶる。さらに、シャバズ政権2期目については1期目以上に連立与党に多数の少数政党が加わることより政策運営を巡る合意形成に時間を要する可能性もあり、結果的に経済の立て直しに向けた動きが大きく遅れることも予想される。足下の外貨準備高はIMFからの支援受け入れを追い風に最悪期こそ過ぎているものの、依然として月平均輸入額の1.2ヶ月分に留まると試算されるなど極めて危うい状況にあることは変わっていない。さらに、足下のインフレは一昨年の洪水被害の影響が一巡しているほか、国際原油価格も頭打ちの動きを強めるとともに、ロシアからの割安な原油輸入を拡大させる動きなども重なり、頭打ちの動きを強めている。ただし、依然として中銀目標を大きく上回る推移が続いているほか、今後は前年に大きく頭打ちの動きを強めた反動による再加速も予想されるなど、若年層を中心に雇用環境が厳しい状況が続くなかで一段と厳しい事態に追い込まれる可能性も残る。そして、隣国アフガニスタンでのタリバン復権以降は治安情勢が不安定化する動きがみられるなか、今回の総選挙前にもテロ行為が散発的に発生するなどの動きもみられた。今回の総選挙を巡っては、カーン元首相の支持者などが反発を強める動きもみられるなか、経済、政治の両面で安定を見出すことは難しく、今後も極めて不安定な展開が続く可能性に留意する必要があろう。

図表1
図表1

図表2
図表2

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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