- HOME
- レポート一覧
- 経済分析レポート(Trends)
- パキスタン、総選挙を経てシャバズ・シャリフ政権が2期目入り
- Asia Trends
-
2024.03.04
アジア経済
その他アジア経済
国際的課題・国際問題
パキスタン、総選挙を経てシャバズ・シャリフ政権が2期目入り
~経済も政治も不透明要因が山積するなかで見通しが立ちにくい展開が続く可能性は高い~
西濵 徹
- 要旨
-
- パキスタンで先月実施された総選挙では、いずれの政党も単独で半数を上回る議席を得られず、政党間の合従連衡の動きが活発化した。政権維持を目指す与党のPML-Nは総選挙前に連立を組んだPPPなどと改めて連立を組むことで合意したほか、少数政党とも協議を行った。結果、3日に実施された首班指名選でPML-Nのシャバズ・シャリフ氏が再選出され、シャバズ政権が2期目入りすることが決まった。経済の立て直しが課題となるなかで当面は来月に迫るIMF支援協議の行方に注目が集まるが、前回レビューに時間を要したことを勘案すれば円滑に進むかは見通しが立たない。最悪期こそ過ぎるも経済は困難が続く上、政治面でも不安定要因が山積するなかで、経済、政治両面で見通しが立ちにくい状況が続くであろう。
パキスタンで先月実施された総選挙(議会下院(国民議会)選挙)では、いずれの政党も単独で半数を上回る議席を獲得することが出来ず(注1)、その後は政権樹立に向けて政党間の合従連衡の動きが活発化した。総選挙は議員定数の336議席のうち直接選挙の対象となる264議席を巡って争われたが、カーン元首相が実質的に率いる最大野党のパキスタン正義運動(PTI)に所属するも無所蔵として出馬せざるを得なかった勢力が93議席を獲得して単独勢力として事実上の『第1党』となった。他方、シャバズ前政権を支えた最大与党であり、ナワズ元首相も加わったパキスタン・イスラム教徒連盟シャリフ派(PML-N)は直接選挙枠では75議席の獲得に留まるも、女性議員枠や非ムスリム議員枠を併せると98議席となるなどPTIを上回る形で第1党となった。さらに、シャバズ前政権の下でPML-Nと連立与党を構成したパキスタン人民党(PPP)は直接投票で54議席を獲得したほか、女性議員枠や非ムスリム議員枠を併せると68議席を獲得している。ただし、PML-NとPPPを併せても166議席と単純過半数となる169議席に3議席満たず、両党以外の少数政党との連立協議を模索する必要に迫られた。こうしたなか、3日に議会下院で実施された首班指名選挙にはPML-Nからシャバズ・シャリフ前首相、PTI系無所属からはカーン元政権下で電力相、石油相、経済相を歴任したオマル・アユブ氏が出馬したなか、シャバズ氏は半数を上回る201票を獲得する一方、アユブ氏の得票数は92票に留まり、結果的にシャバズ氏が再選出されることとなった。同国を巡っては、一昨年に発生した一時は国土の3分の1が水没した大洪水により主力産業である農業が壊滅的な打撃を受ける一方、昨年にはIMF(国際通貨基金)との間で総額22.5SDR(約30億ドル)規模の支援プログラムが合意に至るなど経済の立て直しに向けた動きが緒に就くなか、円滑な進捗が図られるかが課題となっている。しかし、支援プログラムの第1次レビューの合意に想定以上に時間を要したことを勘案すれば、来月末に迫る第2次レビューを巡っても相当の時間を要する可能性はくすぶる。さらに、シャバズ政権2期目については1期目以上に連立与党に多数の少数政党が加わることより政策運営を巡る合意形成に時間を要する可能性もあり、結果的に経済の立て直しに向けた動きが大きく遅れることも予想される。足下の外貨準備高はIMFからの支援受け入れを追い風に最悪期こそ過ぎているものの、依然として月平均輸入額の1.2ヶ月分に留まると試算されるなど極めて危うい状況にあることは変わっていない。さらに、足下のインフレは一昨年の洪水被害の影響が一巡しているほか、国際原油価格も頭打ちの動きを強めるとともに、ロシアからの割安な原油輸入を拡大させる動きなども重なり、頭打ちの動きを強めている。ただし、依然として中銀目標を大きく上回る推移が続いているほか、今後は前年に大きく頭打ちの動きを強めた反動による再加速も予想されるなど、若年層を中心に雇用環境が厳しい状況が続くなかで一段と厳しい事態に追い込まれる可能性も残る。そして、隣国アフガニスタンでのタリバン復権以降は治安情勢が不安定化する動きがみられるなか、今回の総選挙前にもテロ行為が散発的に発生するなどの動きもみられた。今回の総選挙を巡っては、カーン元首相の支持者などが反発を強める動きもみられるなか、経済、政治の両面で安定を見出すことは難しく、今後も極めて不安定な展開が続く可能性に留意する必要があろう。
注1 2月13日付レポート「パキスタン総選挙、いずれの勢力も半数に満たず、混迷長期化の懸念も」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
-
経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
執筆者の最新レポート
-
ニュージーランドは10ヶ月ぶりの貿易黒字に(Asia Weekly(4/22~4/26)) ~台湾の3月統計は前年比でプラスだが、前月比はマイナスであるなど内容に注意~
アジア経済
西濵 徹
-
トルコ中銀、物価下落まで引き締め継続の意思も、市場の反応は ~中銀や政府は正統的な政策への意思を強調も、エルドアン大統領の「胸の内」への警戒はくすぶる~
アジア経済
西濵 徹
-
韓国景気、2024年は良好なスタートダッシュも先行きは不透明感山積 ~今年の成長率は昨年から加速する余地は多いが、内・外需ともに不透明要因は山積している~
アジア経済
西濵 徹
-
インドネシア中銀は「安定」を重視して6会合ぶりの利上げを決定 ~ルピア安定へ政策協調の強化を示唆も、外部環境如何で一段と厳しい状況に晒される懸念はある~
アジア経済
西濵 徹
-
オーストラリアのインフレが加速、インフレの粘着度の高さを確認 ~金融市場での利下げ期待の後退不可避、当面の豪ドル相場は堅調な推移をみせる可能性~
アジア経済
西濵 徹
関連レポート
-
ニュージーランドは10ヶ月ぶりの貿易黒字に(Asia Weekly(4/22~4/26)) ~台湾の3月統計は前年比でプラスだが、前月比はマイナスであるなど内容に注意~
アジア経済
西濵 徹
-
モルディブ、いよいよ「親中」へ一気に舵を切る環境が整った ~総選挙はムイズ政権を支える与党が大勝利、親中姿勢加速で中印対立の舞台となる可能性~
アジア経済
西濵 徹
-
インド・インフレ率は鈍化も、インフレ圧力はくすぶる展開(Asia Weekly(4/12~4/19)) ~オーストラリアの雇用環境は大都市と地方、正規雇用と非正規雇用の間に差が生じている模様~
アジア経済
西濵 徹
-
韓国総選挙、与党惨敗で尹政権は「死に体」化必至、日韓関係にも影か ~日韓関係の行方のみならず、地域情勢の行方にも影響を与える可能性に注意する必要がある~
アジア経済
西濵 徹
-
インド総選挙、モディ政権にとっての「ラスボス」は野党ではなく物価か ~中銀は食料インフレを警戒して引き締め姿勢を緩められず、政府はなりふり構わぬ動きに出る懸念も~
アジア経済
西濵 徹