トルコ中銀は利上げ打ち止めへ、難しい舵取りを迫られる局面は続く

~インフレは中銀想定から上振れする懸念もくすぶり、エルドアン大統領の動きも気になる~

西濵 徹

要旨
  • トルコ中銀は25日の定例会合で8会合連続の利上げにより政策金利を45.00%とする決定を行った。同行は利上げ局面の終了を示唆して利上げ幅の縮小に動いてきたが、今回の決定により利上げ局面の「打ち止め」を示唆する考えをみせている。なお、エルカン総裁の下で中銀は金融引き締めを、シムシェキ財務相の下で政策の「正常化」が図られてきたが、トルコ国民の信認失墜を反映してリラ相場は最安値を更新する展開が続いている上、最低賃金の大幅引き上げも重なりインフレは高止まりする懸念がくすぶる。エルカン総裁は今月初めの投資家説明会で必要に応じた行動を示唆する考えをみせるが、エルドアン大統領の思惑は見通せないなか、再び混乱の様相を強めるリスクを頭の片隅に入れておく必要があると考える。

トルコ中銀は、25日に開催した定例会合において主要政策金利である1週間物レポ金利を250bp引き上げて45.00%とする決定を行った。同行による利上げ実施は8会合連続であり、昨年実施された総選挙の後に就任したエルカン総裁の下では一貫して引き締め姿勢を強化し続けている。同行は過去数回の定例会合において利上げ局面の終了が近付いているとの見解を示すとともに、段階的に利上げ幅を縮小させてきたなか(注1)、会合後に公表した声明文では今回の決定を受けて「引き締め効果の発現が遅行することを勘案すれば、ディスインフレ基調の確立に必要な金融引き締めが達成されており、現行水準が必要な限り維持されると評価する」、「インフレ基調の大幅な低下が確認されるか、インフレ期待が予想域に収束するまで現行の金利水準が維持されると評価する」として利上げ局面の終了を示唆する姿勢が示された。その上で、「インフレ見通しへの顕著、且つ持続的なリスクが顕在化した際に金融政策のスタンスを見直す」としつつ、足下のインフレ動向について「見通しに沿った動きが続いており、インフレ期待と価格決定行動が改善の兆しをみせるなかでインフレ基調の低下が続いている」と評価するなど、現時点における利上げ局面の終了を後押しする考えを示した。また、政策運営についても「市場メカニズムの機能向上とマクロ環境の安定に向けて既存のミクロ、マクロプルーデンス政策の簡素化と改善を継続する」とした上で、「金融引き締めプロセスを支援すべく量的引き締めも継続する」と引き締め姿勢の継続をあらためて強調している。そして、先行きも「インフレ動向を注視しつつあらゆる手段を断固として行使する」、「データに基づく形で予見可能な枠組で決定を行う」との従来からの考えもあらためて示している。なお、足下のインフレは前年の同時期に頭打ちの動きを強めた反動も影響して加速する動きが確認されている上、上述のようにエルカン体制下の中銀は金融引き締めを継続しているほか、シムシェキ財務相の下で政策の『正常化』が図られているにも拘らず、トルコ国民の間でリラに対する信認が失墜していることを反映してリラ相場の下落に歯止めが掛からず最安値を更新する展開が続いている。さらに、エルドアン政権はインフレによる国民生活への悪影響を緩和させるべく、今年も最低賃金を49%と昨年(55%)からわずかに上昇幅を縮小させるも引き続き大幅に引き上げる決定を行っており、先行きのインフレが高止まりする可能性はくすぶる(注2)。中銀は最新のインフレ動向に関するレポートにおいて、先行きのインフレは今年5月に70~75%程度に上振れした後に今年末時点には36%、来年末時点には14%まで鈍化するとの見通しを示しているものの、足下のインフレ基調が続けば今年末時点に40%強と見通しから上振れするほか、サービス物価の粘着度の高さやリラ安による輸入インフレを勘案すればその蓋然性は高まっている。報道によれば中銀のエルカン総裁はニューヨークで今月初めに開催した投資家説明会において、先行きの政策運営について「引き続きインフレリスクを警戒しており、必要に応じて行動する用意がある」と述べた模様であるが、物価高と金利高の共存状態が長期化すれば足下で頭打ちの様相を強める景気が一段と下振れすることは避けられない。エルドアン大統領が3月末の統一地方選を意識する動きをみせるなか、インフレ鎮静化の見通しが立たない状況が続けば『堪忍袋の緒』が再び切れることも予想されるなど、再び混乱の様相を強める可能性も頭の片隅に入れておく必要があると考える。

図1 インフレ率の推移
図1 インフレ率の推移

図2 リラ相場(対ドル)の推移
図2 リラ相場(対ドル)の推移

以 上

西濵 徹


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

執筆者の最新レポート

関連レポート

関連テーマ