トルコ中銀、7会合連続の利上げの上、早期の利上げ局面終了を示唆

~先行きの経済、インフレ動向は引き続きすべて「エルドアン氏の胸の内」といった状況が続くであろう~

西濵 徹

要旨
  • 21日、トルコ中銀は7会合連続の利上げの一方、利上げ幅を25bpに縮小して政策金利を42.5%とする決定を行った。同行は6月以降に累計3400bpもの大幅利上げを実施しているが、足下のリラ相場は国民からの信認低下が重石となり、インフレも一段と加速する難しい状況が続く。ただし、中銀は足下のインフレを巡って基調的に低下しているとした上で、先行きの政策運営について利上げ局面を早期に終了させるとの考えをみせる。足下の景気は利上げの累積効果も影響して急ブレーキが掛かるなか、当面はインフレ動向に影響を与え得る統一地方選を意識した来年の最低賃金の動きに注目が集まる。その意味では、トルコ経済の行方については引き続きすべて「エルドアン氏の胸の内」といった状況にあると判断出来よう。

トルコ中銀は、21日に開催した定例の金融政策委員会において7会合連続の利上げを行う一方、利上げ幅を250bpと先月の定例会合時点(500bp)から縮小させており、主要政策金利である1週間物レポ金利は42.50%とする決定を行った。トルコのインフレ動向を巡っては、コロナ禍一巡による経済活動の正常化が進むとともに、商品高や米ドル高、インフレ対策を目的とする最低賃金の大幅引き上げも重なり昨年末にかけて大きく上振れした。しかし、こうした状況にも拘らず『金利の敵』を自任するエルドアン大統領からの圧力を受けて中銀は昨年末にかけて断続利下げに動くなど、経済学の定石では考えられない政策運営に舵を切った。他方、昨年末以降は商品高や米ドル高の動きが一巡したほか、年明け以降のインフレは昨年に加速した反動も重なり一転して頭打ちの動きを強める一方、5月の大統領選で苦戦を強いられたエルドアン氏はその後の内閣改造で一転して金融市場からの信認回復を意図した人事に動いた。結果、中銀はエルカン新体制の下で断続利上げに動くとともに、シムシェキ財務相はリラ相場の実質的な米ドルペッグを企図して導入された保護預金制度(リラ建定期預金を対象に、リラ相場が想定利回りを上回る水準に調整した場合に当該損失分をすべて政府が補填する制度)の解除を進めるなど、政策転換に動いてきた。また、上述のように金利の敵を自任してきたエルドアン大統領も、その後は中銀による利上げ実施や保護預金制度の廃止を後押しする姿勢をみせるなど『変心』をうかがわせる動きをみせた。こうした政策転換の動きは同国に対する主要格付機関などの見方を改善させているものの、足下の通貨リラ相場は依然として調整に歯止めが掛からず最安値を更新するなど、このところの国際金融市場においては米ドル安が強まっているにも拘らず『無関係』な動きが続いている。この背景には、年明け以降のインフレは頭打ちするも6月を境に再び加速の動きを強めており、中銀による断続利上げにも拘らず実質金利(政策金利-インフレ率)は大幅マイナスが続くなど投資妙味に乏しい上、過去数年に亘るリラ安の長期化を受けてトルコに居住するトルコ国民の間でリラに対する信認が失墜して外貨や金などに対する需要が拡大するなどリラに対する実需が低下していることも相場の重石になっている。こうした状況に加え、足下においてはエルニーニョ現象をはじめとする世界的な異常気象の頻発を理由に農作物の生産が低下するなど供給不足懸念を反映して食料品価格に上昇圧力が掛かるなど、生活必需品を中心とする物価上昇の動きも影響してインフレが加速する展開が続いている。なお、中銀は足下のインフレ動向について、会合後に公表した声明文のなかで「直近の見通しに沿った動きであり、足下の経済指標は金融引き締めを反映した動きもみられるなかで基調的に低下している」との見方を示している。その上で、今回の決定について「金融引き締めがディスインフレ基調の確立に必要な水準に近付いており、引き締めペースを引き下げた」とした上で、先行きについて「物価安定の持続に向けて必要な限り引き締め姿勢を維持する」としつつ「引き締めサイクルを可能な限り早期に完了させる予定である」として、前回会合において利上げ局面の終了が近付いているとの見方を示唆した状況が一段と前進した様子がうかがえる(注1)。また、政策運営について「既存のミクロ、マクロプルーデンス政策の枠組簡素化と改善を継続するとともに、政策を後押しすべく利上げに加えて量的引き締めも継続する」としつつ、先行きは「インフレ動向を注視しつつあらゆる手段を断固として行使する」、「データに基づく形で予見可能な枠組で決定を行う」との従来からの考えを改めて強調している。前回会合後の金融市場においては、今回会合での利下げ幅縮小と利上げ局面の終了が近付いているとの見方が強まったが、今回の決定はそうした見方に沿った動きを捉えられる。足下の景気を巡っては、利上げの累積効果が重石となり家計消費が下振れするなど急ブレーキが掛かる動きがみられるなか(注2)、来年3月に統一地方選が予定されるなかでエルドアン政権が何らかの景気下支え策に動く可能性はくすぶる。事実、今年は大統領選を前に最低賃金が55%と大幅に引き上げられたことが足下のインフレ加速の一因となっていることを勘案すれば、来年の最低賃金を巡る動きはインフレ動向を大きく左右することが懸念される。その意味では、すべては『エルドアン氏の胸の内』に掛かっていると捉えることが出来よう。

図表1
図表1

図表2
図表2

以 上

西濵 徹


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

執筆者の最新レポート

関連レポート

関連テーマ