トルコ中銀、6会合連続の利上げで利上げ局面の終了が近いとの見方を示す

~米ドル高一服にも拘らずリラ安に歯止めが掛からず、失墜した信頼の回復の難しさを示す状況が続く~

西濵 徹

要旨
  • トルコ中銀は23日の定例会合において6会合連続の利上げに加え、3会合連続の500bpの大幅利上げを決定し、これに伴い政策金利は40.00%となる。現体制の下では正統的な政策運営に舵を切られたが、足下の実質金利は依然マイナスで推移しており、国民の間のリラへの不信を反映してリラ安に歯止めの掛からない状況が続く。今回の決定では利上げ局面の終了が近付いているとの認識を示しており、金融市場もそうした見方を織り込むと見込まれる。ただし、足下の国際金融市場では米ドル高が一服しているにも拘らずリラ安が続いていることは、一度失われた信頼を取り戻すことの難しさを示していると捉えられる。

トルコ中銀は23日に開催した定例会合において、6会合連続となる利上げ実施を決定するとともに、利上げ幅を3会合連続で500bpとする大幅利上げを継続しており、これにより主要政策金利である1週間物レポ金利は40.00%となっている。エルドアン政権を巡っては、5月の大統領選後に実施された内閣改造において、財務相に金融市場からの信認が厚いシムシェキ氏、中銀総裁に金融業界での経験が長いエルカン氏を据えることにより、長らく経済学の定石では考えられない政策運営が採られたことで失墜した国際金融市場からの信認回復を強く意識した人事配置が行われた。中銀は新体制の下で6月以降断続的な利上げを実施するとともに、過去にリラ相場が大幅に調整した際にリラ相場の実質的な米ドルペッグ制を目指して導入された保護預金制度(リラ建て定期預金を対象に、リラ相場が想定利回りを上回る水準で調整した際に当該損失分をすべて政府が補填する制度)の解除を進めるなど、政策転換を進める動きをみせてきた。さらに、その後はエルドアン大統領自身が緊縮的な金融政策を通じてインフレ率を一けた台に抑えると述べるなど、従来の考え(高金利がインフレを招くという倒錯した理論)からの転換を示唆する考えをみせたほか、保護預金制度の解除を後押しする姿勢をみせるなど『変心』を窺わせる動きもみられる。このように経済チームを中心とする政策転換に向けた努力も追い風に、主要格付機関を中心に同国に対する見方は改善しているものの、足下においてもリラ相場は調整に歯止めが掛からず最安値を更新する展開が続くなど、必ずしも国際金融市場からの信認改善には繋がっていない様子がうかがえる。この背景には、足下のインフレ率は依然として中銀目標を大きく上回る水準で推移している上、リラ安に歯止めが掛からない状況が続いていることに加え、最低賃金の大幅引き上げ策などの影響でコアインフレ率はインフレ率を上回る伸びで推移している。足下においては世界経済の減速懸念を理由に原油相場は頭打ちの動きを強めており、物価や対外収支への悪影響が緩和することが期待されるものの、仮に現状のペースでインフレが鈍化した場合においても1年後のインフレ率は50%程度までしか収束出来ない見通しとなるなど、これまでの大幅利上げにも拘らず実質金利(政策金利-インフレ率)がマイナスを脱却出来ていないことになる。世界的には多くの国において昨年来の金融引き締めにより政策金利が上昇する一方、年明け以降はインフレが鈍化して実質金利がプラスに転じる動きがみられるにも拘らず、トルコについては実質金利がマイナスに留まるなど投資妙味が乏しく、結果的にリラ安の動きに歯止めが掛かりにくい一因になっていると捉えられる。そして、保護預金制度の廃止そのものは政策の正常化に繋がると期待されるものの、トルコ国内ではリラそのものへの信認低下を受けて外貨預金や金預金が拡大する動きが続いており、リラに対する実需が低下していることも相場の重石となる展開が続いている。中銀は今回の決定について、会合後に公表した声明文において「金利水準はディスインフレ軌道の確立に必要な水準にかなり近いと評価され、引き締めペースは減速するとともに、引き締めサイクルは短期間で終了する」としつつ「金融引き締めは持続的な物価安定の確保に向けて必要な限り維持される」との見方を示すなど、利上げ局面の終了が近付いていることを示唆している。また、物価動向について「金融引き締めが内需に影響を与える動きが示唆されるなか、インフレの基調的な低下がうかがわれる」との見方を示すとともに、政策運営を巡っても「既存のマクロプルーデンス政策の枠組の簡素化と改善を継続している上、政策スタンスを下支えする観点から利上げに加えて量的引き締めも継続する」との考えをみせている。その上で、先行きの政策運営については「インフレ動向を注視しつつあらゆる手段を断固として行使する」、「データに基づく形で予見可能な枠組で決定を行う」との従来からの考えを改めて強調している。金融市場においては、今回の決定が事前予想を上回ったことに加え、声明文において利上げ局面の終了が近付いていることを示唆する向きが示されたため、利上げ幅の縮小と終了が規定路線となるとみられる。一方、足下では米ドル高に一服感が出ているにも拘らずリラ安に歯止めが掛からない状況が続いており、こうした動きはこれまで長期に亘って無茶苦茶な政策が採られてきた影響で国民の間におけるリラへの信認が著しく失墜していることを反映したものと捉えられる。一度失われた信頼を取り戻すことの難しさを示唆していると言えよう。

図表1
図表1

図表2
図表2

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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