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英バーミンガム市が財政破綻

~地方自治体の財政難が英国全体の信用力に与える影響は限定的~

田中 理

要旨
  • 男女同一賃金に関する巨額の支払い義務を履行できず、英国第二の都市であるバーミンガム市が財政破綻した。歳出削減は不可避だが、社会的ケア、教育、ごみ収集など、住民生活に直結する行政サービスを大幅に切り詰めることは難しい。予算規模が大きく、行政サービスの提供までのリードタイムが長いインフラ関連予算などが削減対象となりやすい。

  • 男女同一賃金の問題は同市固有の問題だが、他の地方自治体でも同様の訴えが広がったとしても不思議ではない。英国の地方自治体は、地域住民の高齢化による行政サービス需要の高まりや、物価上昇に伴う行政サービスの提供費用の増加から、財政状況が悪化している。

  • 過去の自治体の破綻事例では、中央政府が部分的な財政支援を提供したことがあるが、支援の見返りに地方自治体に対して歳出削減や資産売却などの財政努力を求めてきた。今のところ地方自治体の財政悪化が、英国全体の財政悪化につながる可能性は低い。

人口約110万人の英国第二の都市バーミンガム市が5日、事実上の財政破綻を宣言した。同市の財政難は、約5000人の女性職員が男性との同一賃金を求めた2010年の判決に遡る。この裁判では、教員補助やケータリング業務に従事する職員が、伝統的に男性が従事するごみ収集員や道路清掃員に与えられるボーナスを受け取ってこなかったことが問題視され、職員側が勝訴した。以来、バーミンガム市は該当する職員に対して約11億ポンドを支払ったが、今も6.5~7.6億ポンドの支払い義務が残り、これが毎月500~1400万ポンドずつ増えている。予想される費用は行政サービスに関連するバーミンガム市の年間予算を上回り、同市は支払い義務の履行が困難として、今年の7月に不要不急の歳出を停止することを決定していた。ITシステムの導入費用が当初計画よりも大幅に膨れ上がったことも、同市の財政悪化に拍車を掛けたと言われている。

1988年地方自治財政法は、地方自治体が歳出義務を履行するうえで十分な財政資金がないと判断した場合、それを通知することを求めている(114条通達)。英国の地方自治体に財政破綻の仕組みはないが、同通達の発行は事実上の財政破綻に相当する。既存の歳出は履行されるが、通達を発行した地方自治体は、新たな歳出を承認することが禁じられ、21日以内に次のステップについて話し合う場を設けなければならない。2020年以降に114条通達を行った地方自治体は、今回のバーミンガム市で7番目となる。過去に114条通達を発行した自治体は、予算を見直し、歳出を大幅に削減するとともに、市税を引き上げた。地方自治体には、社会的ケア、教育、ごみ収集、住宅サービス、道路の維持管理、図書館、公園などの公共サービスを住民に提供する法的義務があるが、このうちのどれが優先され、どれが削減されるかについての取り決めやガイドラインはない。地域住民の生活に直結する行政サービスの歳出削減は難しい。予算規模が大きく、行政サービスの提供までのリードタイムが長いインフラ関連予算などが削減対象となりやすい。同市が進めている大規模な都市再生プロジェクトなどに影響が出る可能性がある。

今回のバーミンガム市が直面した男女同一賃金に関する巨額の支払い義務の発生は、同市固有の問題だったが、他の地方自治体でも同様の訴えが提起されたとしても不思議ではない。さらに、英国の地方自治体は、地域住民の高齢化による行政サービス需要の高まりや、物価上昇に伴う行政サービスの提供費用の増加から、財政状況が悪化している。イングランドとウェールズの約340の地方自治体のうち、とりわけ深刻な財政難に陥っているのは20自治体程度とされる。今年7月に地方自治協会がまとめた調査報告書によれば、両地域の地方自治体の来年の財政資金不足は20億ポンドに達する見通しだ。過去の自治体の破綻事例では、中央政府が部分的な財政支援を提供したことがあるが、支援の見返りに地方自治体に対して歳出削減や資産売却などの財政努力を求めてきた。今のところ地方自治体の財政悪化が、英国全体の財政悪化につながる可能性は低いと判断している。  

以上

田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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