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- イラン情勢がユーロ圏経済に与える影響
- 要旨
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- イラン情勢を巡る混乱が長期化した場合、不確実性の高まりによる経済活動の手控え、企業収益や家計購買力の圧迫、金融市場の動揺を通じた景気への下押し圧力が働く一方、エネルギー価格の上昇を通じた物価の押し上げが予想され、ECBの利上げ開始時期を早める可能性がある。エネルギー価格の上昇が他の物価に波及するか否かが、利上げ判断の決め手となろう。
米国によるイラン攻撃を受け、金融市場の動揺や商品市況の上昇が続いている。事態は流動的だが、イランや中東情勢を巡る混乱が長期化した場合、財政拡張を転機に回復基調にあるユーロ圏の景気を下押しするとともに、エネルギー価格の上昇を通じて物価を押し上げる。原油や液化天然ガス(LNG)の主要な海上輸送ルートであるホルムズ海峡が封鎖されたことを受け、欧州の代表的な市況価格であるブレント原油先物価格は、それまでの70ドル/バレル前後から80ドル近くに、オランダTTF天然ガス先物価格は30ユーロ/MwH台前半から45ユーロ前後に上昇している(図表1)。欧州では冬場のガス需要期が終盤に差し掛かり、ガス在庫が増加に転じる春が近づいている。だが、昨年は十分な在庫を積み増さないまま需要期に入ったため、例年に比べてガス在庫の水準が低い(図表2)。このままホルムズ海峡の封鎖が長期化すると、欧州のガス価格に更なる上昇圧力が及びやすい。


多くのユーロ圏諸国は、原油や天然ガスなどのエネルギー資源を域外からの輸入に頼っており、エネルギー価格の上昇は域外への所得移転につながる。その一部は企業部門が吸収し、企業収益の悪化を通じて設備投資の抑制や採用の手控えにつながり、消費者に価格転嫁された分は、家計の実質購買力の目減りを通じて消費を抑制する。また、中東情勢を巡る不確実性が高まることで、経済活動が手控えられる恐れもある。欧米の主要紙に掲載された地政学事象に関連した記事数を集計した地政学リスク指数は、イラン攻撃後に急増し、2022年3月のロシアによるウクライナ侵攻時、2023~24年のイスラエルとガザの紛争激化時、2025年6月の米国によるイラン核施設の空爆時を上回る水準にある(図表3)。紛争激化が金融環境の引き締まり、貿易活動の停滞、サプライチェーンの混乱につながれば、景気への悪影響が一段と増幅する。

原油や天然ガスなど商品価格の上昇は、消費者物価のエネルギー価格に概ね連動している(図表4)。エネルギー調達価格の一部は長期契約で決まり、電力・ガス料金の価格改定のタイミングもあり、消費者物価のエネルギー価格は、原油や天然ガス価格の上昇からやや遅れて上昇する。両者の関係は比例的(線形)ではなく、原油・天然ガス価格の上昇が長期化し、大きくなると、指数関数的(非線形)に増える傾向がある。単純計算すると、原油価格が90ドル/バレル、天然ガス価格が50ユーロ/MwHに上昇し、その水準が続いた場合、1月に前年比で▲4.0%だったユーロ圏の消費者物価のエネルギー価格は、同+4~8%程度に上昇が加速し、直接的な影響だけで消費者物価を同+0.3~0.7%ポイント程度押し上げる。現在2%をやや下回るユーロ圏の消費者物価の上昇率は、3月に2%台を回復し、その後2%台半ばに再加速する計算となる。エネルギー価格以外の物価に波及すれば、影響は更に大きくなる(図表4)。

昨年6月を最後に利下げを休止し、様子見姿勢を続ける欧州中央銀行(ECB)にとっては、エネルギー価格の上昇が他の物価に波及するか否かが、今後の金融政策判断の決め手となるだろう。原油・先物価格の上昇が一時的なものにとどまるのであれば、エネルギー価格の上昇を通じた消費者物価の上振れを問題視することはなく、様子見を続ける公算が大きい。逆に原油・先物価格の上昇が長期化し、他の物価に波及する兆しが広がれば、景気の下振れリスクよりも物価の上振れリスクを警戒し、利上げを開始する可能性が高まる。有事のドル買いでユーロ高が一服すれば、輸入物価の上昇や景気の下支えにつながり、この点からも利上げ開始のハードルが下がる。なお、3月18・19日のECB理事会に合わせて発表される四半期毎のスタッフ見通しでは、予測の前提に利用する経済・金融指標のカットオフ日の関係で、今回のイラン攻撃後のエネルギー価格の上昇が反映されない可能性が高い。イラン情勢の早期沈静化が見通せない場合、エネルギー以外の物価指標の推移、期待インフレ率などを点検し、今後の金融政策への影響を見極める必要がある。
田中 理
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