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BOEの追加利下げはベイリー総裁の決断次第

~物価ピークアウトの確認と秋季予算を待って判断~

田中 理

要旨
  • 英BOEは11月のMPCで5対4の賛成多数で政策金利を据え置いた。据え置きに投票したベイリー総裁は、近い将来に利下げ支持に回る可能性を示唆している。11月26日に公表される秋季予算では緊縮的な財政運営が確認されるとみられ、物価、労働市場、経済活動に関するデータでインフレ圧力の後退が確認されれば、12月のMPCで利下げ再開を決断する可能性がある。12月が見送られた場合も、来年央までに50bp(0.5%ポイント)の追加利下げが行われると予想する。

英国のイングランド銀行(BOE)は11月の金融政策委員会(MPC)で、賛成5・反対4の賛成多数で政策金利を4%に据え置いた。四半期に1回の金融政策レポート(旧物価レポート)の発表月に合わせての利下げサイクルは崩れた(図表1)。ベイリー総裁、ロンバルデリ副総裁、ピル外部委員(チーフ・エコノミスト)、マン外部委員、グリーン外部委員の5名が据え置きを主張した一方、ブリーデン副総裁、ラムスデン副総裁、ディングラ外部委員、テイラー外部委員の4名が25bp(0.25%ポイント)の利下げを主張した。

2022年後半から2023年前半にかけて前年比で+10%を超える歴史的な高インフレを記録した英国の消費者物価は、2023年を通じて上昇率の鈍化が進み、2024年央にかけて一時的に2%の物価目標に到達したが、その後は上昇率が再び加速し、直近の9月は同+3.8%と高止まりが続いている。BOEは今回公表した金融政策レポートで、2026年前半と後半に各25bp(0.25%ポイント)の追加利下げが行われるとの市場の金利想定に基づき(図表2)、2026年早々には消費者物価が同+3%に近づき、2027年以降は+2%前後で推移すると予測している(図表3)。ベイリー総裁は11月MPC後の記者会見で、「9月が物価のピークと予想しているが、高止まりのリスクもあり、追加利下げを決める前に、更なる証拠を確認する必要がある」と説明した。

11月26日に英国政府が秋季予算の発表を控えており、その内容と物価への影響を見極めたいことも、追加利下げを見送った理由の1つと考えられる。リーブス財務相は4日の演説で、秋季予算で労働党の公約に反する形の増税を盛り込むことを否定しなかった。財政再建には追加の緊縮措置が必要とみられ、景気の下押し圧力となる。この点について、ベイリー総裁は「BOEの政策判断は既に公表された政策に基づいて行われ、予算の中身を推測することはしない」と言及したうえで、予算の中身を確認する必要がある趣旨の発言を繰り返した。

今回のMPCから、各政策委員がどのような根拠で投票を決定したかが議事要旨で公表されるようになった。これまでは、それぞれの政策主張をしたグループの発言要旨という形で掲載され、個別の政策委員による投票決定の背景は明確でなかった。現在の政策金利が引き締め的で、利下げ効果が波及するには時間が掛かることを理由に、従来から利下げを主張してきたハト派のディングラ・テイラー両委員に加えて、ブリーデン・ラムスデンの両副総裁が利下げ支持に回った。ブリーデン副総裁は、インフレの上昇リスクが幾分後退し、需要見通しに起因する下方リスクがより顕著となったほか、労働市場の余剰が今後も継続することで、賃金上昇を抑制するとみられることから、現時点での利下げが正当化されると説明した。ラムスデン副総裁は、経済活動が鈍化し、労働市場が緩み、インフレのピークが概ね予想通りに終息したことを挙げ、政策スタンスが引き締め的であると判断し、利下げを支持した。

据え置きに投票した5名のうち、ピル委員、マン委員、グリーン委員の3名は構造的なインフレ圧力を警戒するタカ派で、追加利下げのキャスティング・ボートを握るのは、ベイリー総裁かロンバルデリ副総裁と考えられる。ロンバルデリ副総裁は、必要があれば政策金利を引き下げる余地は十分にあると指摘するが、労働市場の構造変化で経済の余剰が減少している可能性があり、これが持続的なインフレ圧力につながることを警戒しており、タカ派の3名と見解が近い。ベイリー総裁は、インフレの上方リスクが差し迫ったものでなくなり、デフレ傾向がより明確に定着すれば、更なる金融緩和が行われることを示唆するなど、近い将来に利下げ支持に回る可能性が高い。

秋季予算が大方の事前予想通りに引き締め的な内容となり、インフレ率のピークアウトが確認される場合、次回12月か次の金融政策レポートの発表月である来年2月のMPCで25bp(0.25%ポイント)の利下げが決定される公算が大きい。ベイリー総裁はMPC後の記者会見で、「デフレ傾向が継続していると確信するには1つの数字以上のデータが必要である」と述べた。12月のMPCまでに公表されるインフレ、労働市場、経済活動に関するデータで更なる減速が確認されれば、12月の利下げ再開の蓋然性が高まる。景気や物価の下振れを回避するため、来年5月にも追加利下げが行われると予想する。

以上

田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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