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植田総裁で何かが変わる?

~Q&Aで答える~

熊野 英生

要旨

日銀の新体制は、4月以降に政策修正に着手する。再点検、共同声明の確認・見直しを実施する。それから見直しの条件を細かく提示する。物価上昇が進むとともに、指値オペ、YCCの見直しを行う。出口のところは、短期金利のマイナス金利をプラス転化することになるだろう。

目次

新体制の論点を逐条解説

日銀が新体制に移行すると、現在の景色が大きく変わるだろう。そこで、将来の金融政策を展望して、どうなっていくのかを筆者の推論をメインにして、わかりやすくQ&Aで逐条解説していきたい。

Q1.政策修正を行うか。いよいよ出口戦略に着手するか?

Yesだろう。その進捗は、経済・物価情勢次第だ。もしも、2023年度の物価見通しが2%を超えていくと予想されれば、YCC(イールドカーブ・コントロール)は見直されるだろう。その先には短期金利▲0.1%を是正する課題がある。出口とはその段階を指すのだろう。

目先、新総裁は、就任直後に新しいコミットメントを提示する見通しだ。月次の物価が予想よりも上振れしていくことを想定した場合の見直しの手順である。展望レポートは、2023年4月、7月、11月に発表される。そこで物価情勢を確認しつつ、黒田体制の枠組みの修正に着手する。ゴールは、短期金利▲0.1%を修正する「出口」だろう。そこに至るまでは、少し先になる公算が高い。出口には、結果的にゆっくりと進んでいく格好になろう。

Q2.YCCの見直しはいつか?

目下の日銀が苦しんでいるのは、長期金利のコントロールの手法だ。YCCを撤廃すると、長期金利が跳ね上がるので、いきなりの撤廃はない。長期金利コントロールを有名無実化するために、上限をさらに0.75%、1.00%と引き上げていき、その先に撤廃がある。

筆者は、手順として、2023年4月以降に間を置かずに、物価・政策効果の再検証、共同声明の再確認、をする。新しいコミットメントの提示はそれを踏まえるだろう。その後でYCCの見直しをすると予想する。そこまでのタイミングは意外に早く来そうだ。

Q3.いつ再検証、共同声明の再確認、を行うのか?

就任後にその日程は示されるだろう。4月27・28日に決定会合がある。物価・政策効果の再検証、または点検がこのタイミングに実施される可能性がある。

もう1つ明らかに定義し直す必要があるのが、物価目標の達成に関するコミットメントだ。消費者物価コア指数の前年比が安定的に2%を超えるまでマネタリーベースの拡大方針を継続するとされる。後段の「マネタリーベースの拡大方針」とは何かが曖昧だ。すでに、消費者物価は2%を超えて、4%にまで達している。オーバーシュートした物価上昇率を新体制がどうみるかは明らかにすべきだろう。多くの人がそう思っている。

さらに言えば、日銀は特殊要因をどうみるのかも明らかにしてほしい。全国旅行支援は、12月の消費者物価を▲0.28%ポイントも置し下げていた。コアCPIはすでに4.3%ということになる。

2月から消費者物価は、電力・都市ガス料金が▲1%程度押し下げに寄与する。政府の対策が9月まで継続するとしても、それを除いたベースでは、コアCPIはやはり4%以上で推移する可能性がある。このオーバーシュートをどう評価するかだ。「一時的」という説明では納得ができない。

Q4.インフレターゲットは中止するか?

しない。消費者物価が4%になっているときに、インフレ目標は中止できない。植田氏は、もっと説明責任を持たせるかたちのインフレ目標を目指すだろう。黒田緩和のインフレ目標とは、日銀が金融引き締めに動かないように、がんじがらめに縛るためのものだった。フェアなものではない。主要中銀のインフレ目標とは似て非なるものだ。植田氏はそれをよく知っている。だから、「本来のインフレ目標とはこうした枠組みです」という流儀で、金融緩和解除へと政策を修正していくだろう。

Q5.国債買い入れ、ETF購入はどうするか?

すでに政策は、金利を中心としたYCCに移行している。ETF購入の扱いは優先順位が高くないだろうから、その方針は曖昧にしたままだろう。問題は、指値オペだ。長期金利の上限を超えた金利水準は容認しない。指値オペをやらないということは、長期金利の上昇を容認するということだ。

新総裁になっても、この課題は残る。内田氏の腕の見せどころだ。選択肢は、0.50%以上の長期金利は容認して、指値オペは打たないというものだ。市場実勢には逆らえないと説明して放任する。金利重視の政策に戻るというシグナルになる。

Q6.黒田路線と何を変えるか?

黒田総裁は、市場をコントロールする発想が強く、しばしば対決姿勢を露わにした。これは、総裁の個性の問題もある。植田氏は、もっと市場実勢を重視するだろう。そう考えると、指値オペは大幅に見直される。植田氏は、従来の議論で、金利と量とはどちらかを重視すると、どちらかは追従する関係になることを理解している。金利を重視する立場であれば、長期金利の上限をさらに引き上げて、指値オペの必要をなくしていく。ただし、それはタカ派のイメージを与える。だから、手順として、指値オペを行わず、長期金利上昇を容認する。そして上限を引き上げるのだろう。

こうした姿勢だけでも、原理主義者ではなく、現実主義者だというメッセージになる。金融政策では無理なこともあると説明するのではないか。

Q7.出口はいつか?

出口の意味は、利上げだと考えられている。実は、定義はあまり明確ではない。植田氏が出口を目指すことは間違いないが、その手前で「出口とは何か」を定義するだろう。そして、出口に至るための経済・物価の条件を明らかにする。これは、「安定的に2%を上回る」という状態を、黒田総裁とは異なる言葉で再定義することも含まれる。課題は、①指値オペの停止、②YCC見直し、③短期金利のマイナス金利の解消、の順番だろう。時間軸で言えば、①と②は2023年内だとしても、③は2024年以降になると予想される。言うまでもないが、インフレ率の上振れが継続することが前提になる。

熊野 英生


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