中国のゼロコロナ、物価高と金利高で韓国は2年半ぶりのマイナス成長に

~中国のゼロコロナ終了は追い風となる一方、外部環境に不透明要因が山積する展開は変わらず~

西濵 徹

要旨
  • 韓国経済を巡っては、中国依存度の高さが影響して中国のゼロコロナ戦略に景気の足を引っ張られてきた。さらに、商品高に伴うインフレに加え、国際金融市場での米ドル高によるウォン安も輸入インフレを招き、中銀は断続利上げを余儀なくされたため、物価高と金利高の共存が幅広く内需の足かせとなる状況に直面した。
  • 内・外需の下振れを受けて10-12月の実質GDP成長率は前期比年率▲1.49%と2年半ぶりのマイナス成長となるなど、景気は頭打ちの動きを強めている。国境再開により外国人観光客数は底入れする一方、世界経済の減速は財輸出の重石となるなど外需は下振れしている。内需も家計消費のみならず、企業部門の設備投資も弱含むなど幅広く鈍化している。昨年通年の経済成長率は+2.6%に留まるなど鈍化したが、今年はゲタのプラス幅が大きく縮小しており、経済成長率は一段と下振れしやすい環境にあると判断出来る。
  • 中国によるゼロコロナ終了は景気の追い風となることが期待される一方、欧米など主要国の景気減速懸念はその効果を幾分相殺することは避けられない。また、米ドル高の一服によりウォン相場は底入れしており、中銀は今月の利上げでターミナルレートに達したとみられるが、中国景気の底入れは商品高によるインフレ再燃を招く可能性もくすぶる。先行きの韓国経済は外部環境に揺さぶられる展開が続くものと予想される。

韓国経済を巡っては、アジア新興国のなかでも構造面で外需依存度が相対的に高い上、財輸出、及び外国人観光客の両面で中国の割合が比較的高く、ここ数年は中国による『ゼロコロナ戦略』に足を引っ張られる展開が続いてきた。さらに、昨年以降のウクライナ情勢の悪化をきっかけとする商品市況の上振れの動きは、同国においても食料品やエネルギーなど生活必需品を中心とするインフレを招いており、家計部門にとっては実質購買力を下押ししてきた。また、世界的なインフレを受けて米FRB(連邦準備制度理事会)など主要国中銀がタカ派傾斜を強めたため、国際金融市場では多くの新興国が資金流出に直面するとともに米ドル高がウォン安を招き、ウォン相場は一時世界金融危機以来の安値を更新する事態に見舞われた。同国経済にとってウォン安は輸出競争力の向上を通じて外需を押し上げることが期待されるものの、上述のように中国のゼロコロナ戦略が外需自体の足かせとなる状況となる一方、輸入物価の押し上げは商品高と重なりインフレ圧力を増幅させるなど悪影響が上回る事態に直面した。そして、コロナ禍に際して同国は政府、及び中銀が政策総動員による景気下支えに動いたが、その後に金融市場はカネ余りの様相を強めるとともに、感染一服による経済活動の正常化が進む背後で不動産市況がバブル的に上昇したほか、この動きに呼応する形で家計債務も膨張する事態を招いた。よって、中銀は一昨年8月に一転して利上げ実施による金融政策の正常化に舵を切るとともに、その後も断続利上げに動いたほか、昨年以降は物価、及び為替の安定の観点から引き締めペースの加速を余儀なくされるなど、景気の不透明感が高まるなかで難しい対応を迫られた。このように、韓国経済については外需に足かせが掛かる展開が続いている上、物価高と金利高の共存を受けて家計部門のみならず、企業部門にとっても債務負担の増大を通じて消費、及び投資の重石となることが懸念されるなど、内・外需双方に下押し圧力が掛かりやすい状況に直面してきた。

図表1
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図表2
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このように、国内外で景気に下押し圧力が掛かりやすい状況を反映して、昨年10-12月の実質GDP成長率(速報値)は前期比年率▲1.49%と前期(同+1.30%)から一段と減速するとともに、コロナ禍の影響が最も色濃く現われた2020年4-6月以来となるマイナス成長に転じている。中期的な基調を示す前年同期比ベースの成長率も+1.4%と前期(同+3.1%)から鈍化しており、2020年10-12月以来の伸びとなるなど頭打ちの動きを強めている。感染一服を受けた国境再開の動きも追い風に外国人観光客が底入れしているものの、中国によるゼロコロナ戦略への拘泥に加え、昨年末にかけては戦略転換に動くも中国国内の感染動向が急激に悪化したことを受けてサプライチェーンの混乱が深刻化している上、欧米など主要国の景気減速懸念も重なり財輸出は下振れするなど、外需を取り巻く状況は一段と悪化している。また、上述のように物価高と金利高が共存するなど家計部門を取り巻く状況は厳しさを増すなか、足下では若年層を中心に雇用環境も厳しさを増しており、コロナ禍からの回復に伴うペントアップ・ディマンド(繰り越し需要)一巡の動きも重なり家計消費は下振れしている。さらに、断続利上げを受けて一時はバブル的に上昇した不動産市況は一転して調整の動きを強めており、家計部門の不動産需要が低迷するとともに、逆資産効果は財布の紐を固くしている。そして、世界経済の減速懸念による外需に対する警戒感が強まるなか、金利高も重なり企業部門の設備投資意欲も後退しており、住宅需要の低迷も相俟って固定資本投資を下押しするなど、総じて内需は下振れしている。なお、幅広く内需が弱含んでいることを反映して輸入も下振れしていることを受けて、純輸出の成長率寄与度は前期比年率ベースでマイナス幅が前期に比べて大きく縮小していることを勘案すれば、足下の景気は見た目以上に厳しい状況にあると判断出来る。また、2022年通年の経済成長率は+2.6%となり、コロナ禍の影響で下振れした前年の反動で大きく上振れした21年(+4.1%)からの鈍化を余儀なくされたものの、統計上のプラスのゲタが+1.3pt生じていたことを勘案すれば(21年もゲタは+1.3pt)、昨年の韓国経済は力強さを欠く展開が続いたと捉えられる。さらに、今年についてはゲタが+0.1ptと大幅にプラス幅が縮小しており、その意味では経済成長率が下振れしやすいことに留意する必要がある。

図表3
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図表4
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なお、昨年末以降に中国はゼロコロナ戦略の転換に動いているほか、今月には事実上終了させており、ゼロコロナ戦略が中国経済の足かせとなってきた状況は大きく変化することが期待される。足下では春節(旧正月)連休に伴う大規模な移動により感染動向が急速に悪化する懸念がくすぶるものの、そうした動きが一巡した後には経済活動の正常化が進むとともに、混乱したサプライチェーンの修復の動きも広がると見込まれる。こうした中国経済の正常化の動きは、コロナ禍前においては財輸出の3分の1強、外国人観光客の約4割を中国(含、香港・マカオ)が占めるなど、財・サービスの両面で外需の中国依存度が極めて高い韓国経済の追い風となることは間違いないと捉えられる。他方、欧米など主要国の景気に不透明感が高まることは、中国向け輸出の一部が中国国内における生産活動に掛かる素材、及び部材が占めることを勘案すれば、玉突き的に悪影響が伝播することも予想されることから、中国経済の再開による好影響を相殺することは避けられない。また、足下の国際金融市場では米FRBなどのタカ派姿勢の後退を反映して米ドル高の動きが一巡しており、ウォン相場もその動きに呼応する形で底入れするなどウォン安懸念は大きく後退している。さらに、商品市況の上振れの動きに一服感が出ていることを反映してインフレ率は昨年7月をピークに伸びが鈍化している一方、先行きの景気に対する不透明感が高まっていることを受けて、中銀は今月の定例会合で7会合連続の利上げを決定するとともに、ターミナルレートに達したと見込まれるなど金融政策を巡る状況も変化しつつある(注1)。他方、中国によるゼロコロナ戦略の転換の動きは中国経済の底入れを促すと期待され、低迷が続いた中国の需要が拡大に転じる一方でウクライナ情勢の長期化など供給不安を受けて商品市況が押し上げられることで世界的なインフレが再燃することも考えられる(注2)。金融市場においては年内にも一転して中銀が利下げに動くとの見方が出ているものの、米FRBが物価抑制を目的に今後も小幅ながら利上げを継続するとともに、高金利を維持する展開が続けば、中銀にとってはウォン安を惹起しかねない利下げ実施を躊躇する事態に追い込まれることも予想される。政府は景気下支えに向けて税制や資金繰り支援などを通じた取り組みを強化する考えをみせているが、外部環境を巡っては、中国のゼロコロナ転換を除けば景気の足を引っ張る要因が山積する展開が続くであろう。

図表5
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以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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