フィリピン中銀、インフレ加速が続くなかでも米FRBに追随して利上げ幅縮小

~追加利上げに含みも利上げ幅の縮小を示唆するなど、難しい対応が求められる局面が続くであろう~

西濵 徹

要旨
  • フィリピン経済は国内外に不透明要因が山積するも、足下の景気は堅調に底入れする展開が続く。他方、生活必需品を中心とするインフレに加え、国際金融市場での米ドル高を受けたペソ安による輸入インフレ、景気回復も追い風に広範にインフレが加速している。よって、中銀は物価及び為替の安定を目的に米FRBのタカ派傾斜に歩を併せる形でタカ派姿勢を強めてきた。足下ではインフレ率、コアインフレ率ともに大幅に加速しているものの、中銀は15日の定例会合で7会合連続の利上げを決定するも、米FRBに歩を併せて利上げ幅を50bpに縮小させた。先行きの政策運営を巡っては追加利上げに含みを持たせるも、利上げ幅の縮小を示唆したほか、同行のメダリャ総裁はターミナルレートの明言を避けるなど難しい対応が続くであろう。

フィリピン経済を巡っては、世界経済の減速懸念の高まりに加え、商品高による世界的なインフレは同国においても食料品やエネルギーなど生活必需品を中心とするインフレに直面するなか、国際金融市場では米FRB(連邦準備制度理事会)など主要国中銀のタカ派傾斜を受けて通貨ペソ相場の調整が進むなど輸入物価を通じたインフレ昂進が懸念されるなど、国内外双方において景気の足かせとなる動きが顕在化している。こうした状況ながら、足下の同国景気を巡っては、国境再開を受けた外国人観光客数の押し上げに加え、ペソ安による価格競争力の向上は財輸出を押し上げている上、GDPの1割に相当する移民送金の堅調さも重なり、堅調に底入れの動きを強める展開が続いている(注1)。他方、生活必需品を中心とするインフレに加え、ペソ安による輸入物価の押し上げが一段のインフレ昂進を招き、景気底入れも相俟ってインフレ圧力が強まるなか、中銀は物価と為替の安定を目的に今年5月に3年半ぶりとなる利上げに動き、翌6月にも追加利上げを実施するも大統領選前という時期も影響して小幅利上げに留めたため、結果的にペソ安に歯止めが掛からない状況に直面した。こうした事態を受けて、中銀は政権交代直後の7月に緊急で大幅利上げ(75bp)に動いたほか(注2)、その後も8月、9月と立て続けに大幅利上げ(50bp)を実施するなど一転してタカ派姿勢を強める動きをみせた。しかし、中銀のこうした対応にも拘らずその後もペソ安圧力がくすぶる展開が続いたため、中銀のメダリャ総裁は米FRBに追随して追加での大幅利上げに含みを持たせるとともに、物価や為替の安定を目的とする積極利上げの必要性や内外金利差の維持を図る姿勢を示し、ペソ相場は今年9月末に過去最安値を更新するも一段のペソ安は喰い止められた。事実、中銀は先月の定例会合において米FRBに歩を併せる形で75bpの大幅利上げを決定するとともに、先行きも米FRBに追走する形で追加利上げに含みを持たせる考えを示した(注3)。なお、足下の国際金融市場においては米国のインフレ鈍化を受けて米FRBがタカ派傾斜を後退させるとの見方を反映して米ドル高の動きに一服感が出ており、最安値圏で推移してきたペソ相場は一転底入れの動きを強めており、輸入物価を通じたインフレ昂進の懸念は幾分後退している。他方、直近11月のインフレ率は前年比+8.0%と前月(同+7.7%)から一段と加速して丸14年ぶりの高い伸びとなっているほか、コアインフレ率も同+8.0%と前月(同+5.9%)から大幅に加速して現行基準の下で最も高い伸びとなるなど、全般的にインフレ圧力が強まっている様子がうかがえる。こうした状況ではあるものの、中銀は15日に開催した定例会合において7会合連続の利上げを決定するも、利上げ幅を直近のFOMC(連邦公開市場委員会)において米FRBが利上げ幅を50bpに縮小したことに追随して50bpに縮小する決定を行った。この結果、主要政策金利である翌日物リバースレポ金利は5.50%と丸14年ぶりの水準となる。会合後に公表した声明文では、物価見通しについて「原油相場やペソ相場、利上げの効果を反映して今年は+5.8%、来年は+4.5%」になると従来見通し(今年は+5.8%、来年は+4.3%)から来年を上方修正する一方、「再来年は+2.8%に鈍化する」と従来見通し(+3.1%)から下方修正している。また、物価を巡るリスクについて「主に肥料価格の上昇とサプライチェーンの混乱に伴う食品価格が影響しており、来年にかけては一段と押し上げられる可能性がある一方、世界経済の減速感が強まれば下振れする可能性がある」としている。その上で、今回の結果について「広範なインフレ圧力、上振れリスク及びインフレ期待が高止まりするなかで早期にインフレ率を目標域に回復させるために積極的な対応を取る必要がある」と追加利上げに含みを持たせる一方、「金利幅については世界的に金融環境がタイト化するなかで外部環境の動向に応じて調整する」と利上げ幅の縮小を示唆する姿勢をみせている。なお、会合後に記者会見に臨んだ同行のメダリャ総裁はターミナルレートの水準について「現時点において明言は難しい」と述べるなど、インフレの加速が続くなかで政策対応の困難さを滲ませており、先行きは景気動向を睨みながらの難しい対応を迫られる局面が続くであろう。

図表1
図表1

図表2
図表2

以 上

西濵 徹


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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