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2022.11.09
アジア経済
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中国の「動態ゼロコロナ」戦略転換への期待は本当か?
~自縄自縛の上、世界経済の減速も景気の足かせとなるなか、感染動向の悪化で選択肢は狭まる展開~
西濵 徹
- 要旨
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- 足下の世界経済は、中国による動態ゼロコロナに加え、世界的なインフレを受けた米FRBなどのタカ派傾斜も重なり全体的に景気減速が意識されている。世界的なマネーフローの変化は新興国からの資金流出を招くなかで物価及び為替の安定を目的に金融引き締めを迫られており、景気の足かせとなる材料は山積する。供給懸念による物価高も続くなか、先行きの世界経済を取り巻く状況は一段と厳しい環境となる懸念もある。
- 世界経済の減速懸念は中国経済にとっての頼みの綱である外需の重石となり、10月の輸出額は前年比▲0.3%と下振れしている。一方、中国当局による動態ゼロコロナ戦略への拘泥は経済活動に悪影響を与えており、雇用悪化は家計消費など内需の足かせとなるなかで10月の輸入額も前年比▲0.7%と輸出同様に下振れしている。中国の動態ゼロコロナへの拘泥は世界経済が「負のスパイラル」に陥るリスクを高めている。
- 商品高の一服は企業部門にとってインフレ圧力の後退に繋がってきたが、足下ではその動きが一巡する一方、企業部門は製品への価格転嫁が難しい状況が続いている。10月の消費者物価は前年比+2.1%と伸びが鈍化したが、生活必需品を中心にインフレ圧力はくすぶり、雇用悪化によりコアインフレ率は低調な推移が続く。家計部門には雇用悪化が続くなかでインフレが続くなど家計消費の足かせとなる状況が続くであろう。
- 金融市場では当局による動態ゼロコロナ戦略の修正を期待する向きがあるが、足下の感染動向は急激に悪化するなかでは対策が強化される可能性が高い。過去には表現振りが修正されるも対策の内容はほぼ変わらなかったことを勘案すれば、金融市場が抱く期待は「期待外れ」に終わる可能性に要注意と言える。
足下の世界経済を巡っては、中国当局による『動態ゼロコロナ(動態清零)』戦略への拘泥が幅広い経済活動に悪影響を与えるとともに、サプライチェーンの混乱を通じて製造業を中心とする生産活動の足かせとなるなど、中国以外の国々にも影響が伝播する動きがみられる。一方、ウクライナ情勢の悪化による商品高を受けた世界的なインフレを理由に米FRB(連邦準備制度理事会)など主要国中銀はタカ派傾斜を強めており、物価高と金利高の共存を受けてコロナ禍からの回復が進んできた欧米など主要国景気も頭打ちの様相を強めている。こうした事態を受けて足下の企業マインドは総じて低下しており、好不況の分かれ目となる水準を下回る推移が続くなど景気減速に陥る可能性が高まっている。また、米FRBなどのタカ派傾斜の動きは世界的なマネーフローに影響を与えるなか、新興国を中心に資金流出の動きが強まることで通貨安を招いており、折からの商品高による物価高に直面するなかで輸入物価を通じて一段のインフレ昂進に繋がる動きがみられる。さらに、各国中銀は物価と為替の安定を目的に金融引き締めを余儀なくされており、物価高と金利高の共存のみならず、通貨安に伴う外貨建て債務の負担増大は金利上昇と相俟って景気の足かせとなることが懸念される事態に直面している。なお、足下の商品高は供給懸念が影響している上、ウクライナ情勢は早期に改善が見通しにくい状況にある上、世界的な肥料不足を理由に農業生産の低迷も予想されるなど事態打開に繋がる可能性は低い。よって、先行きにおいては世界経済に一段と下押し圧力が掛かることも考えられるなど、極めて厳しい状況に直面する可能性が高まっている。

このように世界経済を取り巻く状況は急速に厳しさを増しており、当局による動態ゼロコロナ戦略への拘泥が景気の足かせとなっている中国経済にとって外需が唯一の『頼みの綱』となる状況が続いてきたものの、10月の輸出額は前年同月比▲0.3%と前月(同+5.7%)から約2年半ぶりに前年を下回る伸びに転じるなど下振れしている。当研究所が試算した季節調整値に基づく前月比も2ヶ月ぶりの減少に転じるなど一進一退の動きをみせている上、中期的な基調は減少傾向で推移するなど頭打ちの動きを強めている。なお、通常この時期は欧米など主要国における年末商戦に関連して輸出に押し上げ圧力が掛かりやすい状況にあるものの、当局による動態ゼロコロナ戦略への拘泥を受けて幅広く生産活動に悪影響が出ている上、サプライチェーンの混乱も重なり輸出に下押し圧力が掛かっている。こうした動きは保税地域である香港向け輸出(前年比▲13.4%)がと依然前年を下回る伸びが続いている上、マイナス幅が拡大するなど下振れしていることにも現れている。また、上述のように足下においては欧米など主要国景気の下振れを反映して、米国向け(前年比▲12.6%)やEU(欧州連合)向け(同▲9.0%)もともに前年を下回る伸びとなっている。なお、ASEAN(東南アジア諸国連合)向け(前年比+20.3%)は依然高い伸びが続いているものの、中国国内におけるサプライチェーンの混乱は中国経済との連動性が高いアジア新興国経済の足かせとなるなかで頭打ちしており、アジア以外でもアフリカ向け(同+5.7%)や中南米向け(同+1.4%)も総じて伸びが鈍化するなど新興国経済を巡る不透明感の高まりも輸出の重石となっている。その意味では、中国当局による動態ゼロコロナ戦略への拘泥を受けた世界経済を巡る不透明感の高まりが翻って外需の足かせとなっている様子がうかがえる。他方、ウクライナ情勢の悪化を受けて欧米などはロシアへの経済制裁を強化するなど距離を置く動きを強めているものの、中国はロシアへの態度を明確にしない一方で関係深化を図る動きをみせており、これを反映してロシア向け(前年比+34.6%)は高い伸びが続くなど両国経済の結び付きが強まっている。

また、当局による動態ゼロコロナ戦略への拘泥により幅広く経済活動に悪影響が出ている状況を反映して、10月の輸入額も前年同月比▲0.7%と前月(同+0.3%)から約2年ぶりに前年を下回る伸びに転じるなど輸出同様に下振れしている。前月比も2ヶ月連続で減少するとともに、中期的な基調も減少傾向で推移するなど頭打ちの動きを強めており、10月は商品市況が比較的堅調な推移をみせるなど輸入額を押し上げやすい状況にも拘らず、輸入額は下振れしており需要が弱含んでいることを示唆している。輸出が下振れしていることに加え、当局による行動制限の影響で工場における生産活動に下押し圧力が掛かっていることも重なり、輸出財の生産に必要な素材及び部材(前年比▲5.2%)は引き続き前年を下回る推移が続いているほか、その他の素材及び部材(同▲12.5%)もともに前年を下回る推移が続くなど生産活動が弱含んでいることを示唆する動きがみられる。さらに、生産活動の低迷が続いていることに加え、米中摩擦の激化などに伴い先行きに対する不透明感が高まっていることを反映して装置関連(前年比▲54.8%)の輸入額も大きく下振れしているほか、外資系企業による装置関連(同▲7.4%)の輸入額も弱含む展開が続いており、企業部門による設備投資意欲の後退を示唆する動きもみられる。こうした動きを反映して韓国から(前年比▲13.9%)や台湾から(同▲4.6%)の輸入額は前年を下回る推移が続いているほか、ASEANから(同+4.6%)の輸入額の伸びも鈍化しており、サプライチェーンを通じて玉突き的な悪影響が出ている。また、動態ゼロコロナ戦略による行動制限の長期化は家計消費をはじめとする内需も弱含んでおり、エネルギー関連や穀物などの輸入額に下押し圧力が掛かっていることを反映して、中南米(前年比▲2.7%)やアフリカから(同▲4.1%)の輸入額も総じて弱含んでいるほか、米国から(同▲1.5%)やEUから(同▲5.1%)の輸入額も前年を下回る推移が続くなど世界経済の足を引っ張ることが懸念される。ただし、輸出同様にロシアとの関係深化を反映してロシアからの輸入額(前年比+36.0%)はペースこそ鈍化するも引き続き高い伸びが続いており、中東などに依存してきたエネルギー輸入を代替させている様子がうかがえる。とはいえ、中国の需要が弱含む動きは2000年代以降の世界経済の成長のけん引役の喪失を意味するなか、中国経済にとっても外需が弱含むことにより景気の足かせとなることが避けられず、結果的に世界経済は『負のスパイラル』に陥る可能性が高まっている。

なお、年明け以降の商品市況の上振れの動きは世界的なインフレを招くとともに、中国においても企業部門を中心にインフレに直面する展開が続いてきたものの、ここ数ヶ月の商品市況は頭打ちに転じたことでインフレ圧力が弱まる動きがみられた。しかし、足下では上述のように世界経済の減速懸念が高まっているにも拘らず、供給懸念を理由に商品市況は高止まりする展開が続いており、インフレ懸念がくすぶることでスタグフレーションに陥る可能性が高まっている。商品市況の上昇一服の動きを反映して10月の生産者物価(出荷価格)は前年同月比▲1.3%と前月(同+0.9%)から2020年12月以来となるマイナスとなるなど、一見すれば下振れしている。しかし、前月比は+0.2%と前月(同▲0.1%)から4ヶ月ぶりの上昇に転じており、足下の商品市況が高止まりするなかで一服の動きが一巡している様子がうかがえる。他方、10月の生産者価格(調達価格)は前年同月比+0.3%と前月(同+2.6%)から伸びが鈍化するも引き続き前年を上回る推移が続いている上、前月比も+0.3%と前月(同▲0.5%)から4ヶ月ぶりの上昇に転じるなど、川上の段階では依然として高い伸びが続いている。このように出荷価格が調達価格を下回る推移が続いている背景には、商品市況の上振れによる原材料価格の上昇にも拘らず、当局が景気への影響を懸念して企業部門に対して製品価格への転嫁を事実上禁止してきたことが影響しており、足下においても価格転嫁の動きが中間財など部分的なものに留まっていることがある。なお、川下に当たる10月の消費者物価は前年同月比+2.1%と前月(同+2.8%)から伸びが鈍化するなどインフレ圧力が後退している様子がうかがえるものの、前月比は+0.1%と前月(同+0.3%)から鈍化するも上昇の動きが続いている。食料品価格(前月比+0.1%)の前月(同+1.9%)からの上昇ペースの鈍化がインフレ圧力の後退に繋がっているものの、野菜(同▲4.5%)や水産品(同▲2.3%)、果物(同▲1.6%)の価格下落が物価を下押しする一方、飼料用穀物の高止まりを反映して豚肉(同+9.4%)など肉類の価格は高止まりするなど、食料品を巡るインフレ懸念はくすぶる。一方、食料品とエネルギーを除いたコアインフレ率は前年同月比+0.6%と前月(同+0.6%)から横這いで推移しており、前月比も+0.1%と前月(同+0.0%)からわずかな上昇に留まっている上、引き続きサービス物価は弱含む展開が続くなど当局による動態ゼロコロナ戦略の拘泥による雇用回復の遅れが物価の重石となっている。足下の企業マインド統計を巡っては、製造業、サービス業ともに雇用調整圧力が強まる動きがみられるなど家計部門を取り巻く環境は一段と厳しい状況が見込まれる一方、生活必需品を中心とするインフレは実質購買力を下押しする動きも続いており、家計消費をはじめとする内需は弱含む展開が続くであろう。


当局による動態ゼロコロナ戦略を巡っては、金融市場において戦略が大幅に修正されるとの期待が高まる動きがみられる。そのきっかけは、政府のコロナ対策の前線機関である中国疾病預防控制中心の首席科学家であった曽光氏によるセミナーでの発言とされる。しかし、曽光氏自身は元々コロナ対策を巡って度々修正を求める姿勢をみせてきたほか、曽氏が発言したとされるセミナーは米金融機関が主催したものであり、米金融業界が中国当局に対して戦略転換を要請してきたことを勘案すれば発言自体の『マッチポンプ』的な色彩を疑う必要がある。さらに、ネット上の言論空間では当該セミナーに関する記事は悉く当局の検閲により削除されていることを勘案すれば、党及び政府はこうした考えを是認していないことを意味している。なお、中国当局は元々『ゼロコロナ(零容認、ないし零感染)』戦略を採用したものの、昨年末以降は動態ゼロコロナと表現振りを変更しており、具体的な対応であるロックダウン(都市封鎖)措置も『封城』から『静態管理』に言い換えるなど表現振りを和らげる動きをみせているが、その内実はまったく変わっていないのが実情である。このように強力な対策にも拘らず足下では無症状者による感染拡大の動きが広がり、中国全土31の省・直轄市・自治区すべてで感染が確認されるなど急拡大している。先行きは表現振りの変化などの動きをみせる可能性はあるものの、感染動向が急激に悪化しているなかでは事実上の対策強化による行動制限の動きが広がることが予想され、足下の景気が弱含みする動きをみせるなかで一段と下振れすることは避けられない。その意味では、金融市場が抱いている期待は『期待外れ』に終わる可能性に要注意と言える。

西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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西濵 徹

