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2022.07.14
アジア経済
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シンガポール通貨庁、コロナ禍以降2回目の緊急引き締めを決定
~今次局面では4回目の引き締め決定、今後も一段の引き締めに動く可能性は高い~
西濵 徹
- 要旨
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- 世界経済は主要国を中心に回復が続くも、中国の「ゼロ・コロナ」戦略が足かせとなるなか、シンガポール景気の足を引っ張る動きが続く。他方、商品高が世界的にインフレを招くなか、シンガポールにおいても経済活動の正常化も重なり幅広くインフレが加速している。さらに、米FRBのタカ派傾斜に伴う米ドル高はSGドル安を招き、輸入物価を通じたインフレ昂進も懸念される。シンガポールでは通常半期ごとに金融政策の調整が行われており、昨年10月以降すでに3回の引き締めが行われてきた。こうしたなか、MASは14日に緊急会合を開催してNEERの中央値を実勢水準にシフトさせる追加引き締めを決定した。MASは景気の下振れと物価の上振れを意識しており、今後も追加引き締めに動く可能性も予想されるなか、先行きの景気動向は外部環境を巡る不透明感の高まりも重なり、厳しい展開に直面することは避けられないであろう。
このところの世界経済を巡っては、欧米など主要国を中心にコロナ禍からの回復が続く一方、中国当局による『ゼロ・コロナ』戦略への拘泥は中国経済の足を引っ張るとともに、サプライチェーンの混乱を通じて中国経済と関連が深い新興国や資源国経済の足かせとなるなど、好悪双方の材料が混在している。世界有数の都市国家であるなど世界経済、とりわけ世界貿易の動向の影響を受けやすいシンガポールにおいては、中国発のサプライチェーンの混乱が足かせとなる形で4-6月の実質GDP成長率は前期比年率+0.13%とプラス成長を維持するもほぼゼロ成長となるなど勢いを欠いている。一方、世界経済の回復に加え、ウクライナ問題の悪化を受けた供給懸念を理由に幅広く国際商品市況が上振れしており、世界的にインフレ圧力が強まっている上、食料品やエネルギーなど生活必需品を中心とするインフレの動きは新興国において深刻な影響を与える傾向がある。シンガポールにおいても、足下のインフレ率は生活必需品を中心とする物価上昇を受けて10年半ぶりの高水準に加速しているほか、感染一服による経済活動の正常化の動きを反映してコアインフレ率も加速の動きを強めるなど、幅広くインフレが顕在化している。他方、世界的にインフレの動きが広がるなかで米FRB(連邦準備制度理事会)など主要国中銀はタカ派傾斜を強めており、国際金融市場ではコロナ禍対応を目的とする全世界的な金融緩和に伴う『カネ余り』の手仕舞いが進んでいる。また、こうした市場環境の変化に伴う世界的なマネーフローの変化は、経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)が脆弱な新興国を中心に資金流出が強まる傾向がある。こうした市場環境の変化による米ドル高を反映してシンガポールの通貨SGドルの対米ドル相場は調整の動きを強めており、上述のように足下の同国では幅広くインフレ圧力が強まる動きがみられるなか、通貨安による輸入物価の上昇はインフレ圧力を増幅させることが懸念される。なお、シンガポールにおいては通常、MAS(シンガポール通貨庁)が半期(4月及び10月)ごとに開催する定例会合で金融政策の見直しを行うなか、昨年10月の定例会合において金融政策の調節手段である名目実効為替レート(NEER)の政策バンドの幅及び中央値を据え置く一方で傾き(上昇率)を上方シフトさせる形で金融引き締めに舵を切った。しかし、商品高に伴うインフレ昂進のペースが想定以上に進んだことを受けて、MASは今年1月に緊急会合を開催してNEERの傾きを追加で小幅に引き上げる追加引き締めに舵を切る動きをみせた(注1)。さらに、MASは4月の定例会合においてNEERの傾きを小幅に引き上げるとともに、中央値を実勢水準にシフトさせるなど引き締め度合いを一段と強化する決定を行っている(注2)。その後も金融市場環境の変化を受けてSGドル安が進むとともに、インフレも一段と昂進する動きに直面するなか、MASは14日に緊急会合を開催するとともにNEERの政策バンドの幅及び傾きを据え置く一方で中央値を実勢水準にシフトさせる追加引き締めを決定した。会合後に公表された声明文では、今回の決定の目的について「これまでの引き締め措置に続くものであり、インフレの勢いを鈍化させるとともに、中期的な物価安定の確保に資するもの」という考えを示した。その上で、先行きの見通しについて「今年の経済成長率は+3~5%の従来の見通しを据え置くが、物価高と地政学リスクが重石となる形でバンドの下限になる」とする一方、「インフレ率は+5~6%、コアインフレ率も+3~4%になる」として従来見通し(インフレ率+4.5~5.5%、コアインフレ率+2.5~3.5%)から物価見通しを上方修正している。金融市場においては米FRBが一段のタカ派傾斜に動く可能性が指摘されていることを勘案すれば、先行きもMASが定例会合以外のタイミングで追加引き締めに動く可能性があるほか、過去の3ヶ月ごとに行った緊急会合のスパンが短縮されることも考えられる。同国政府は先月、低所得者層を中心とする家計及び中小企業を対象に物価上昇による悪影響の軽減を目的とする追加支援策を公表する一方、金融政策面では一段の引き締めが進むと見込まれるなか、当面の景気動向を巡っては外部環境の不透明さも重なり厳しい展開に直面することは避けられないであろう。



注1 1月25日付レポート「シンガポール通貨庁、定例会合を前に急遽一段の金融引き締めを決定」
注2 4月14日付レポート「シンガポール通貨庁、半年で3度目の引き締め決定、引き締めペースも強化」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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