サービス消費の動向を反映できない景気動向指数

~求められる経済のサービス化への対応~

新家 義貴

要旨
  • 4月25日に公表された2月分の景気動向指数の改訂値では、内閣府によるCI一致指数の基調判断が、速報値段階の「足踏み」から「改善」へと上方修正された。新型コロナウイルスの感染急拡大により1~2月に個人消費が大きく落ち込んでいたなかでの上方修正であり、一般的な景気認識とは乖離が生じた。

  • CI一致指数の採用系列には製造業関連の指標が多く、サービス消費を直接反映できる指標は採用されていない。新型コロナウイルスにより対面型サービスが大きく変動し、景気に影響を与えるなか、景気動向指数ではこうした動きに対応しきれていない。

  • 経済のサービス化が進み、重要度が高まり続けるなか、サービスを景気動向指数にどう取り込んでいくか検討を進める必要がある。

感染拡大下での基調判断上方修正

昨日公表された3月分の景気動向指数よりもさらに前の話になるが、4月25日に2月分の景気動向指数の改訂値が公表されていた。2月のCI一致指数は、速報値段階では前月差▲0.1ポイントとなっていたが、改訂値では同+0.5ポイントへと上方修正されている。たいした違いではないようにも見えるが、符号が変化したことの影響は大きく、この改訂を受けて、内閣府によるCI一致指数の基調判断は、速報値段階の「足踏み」から2月改訂値では「改善」へと上方修正されている。

この基調判断は、予め定められた基準に則って機械的に決められており、恣意性は排除されている。筆者もこの上方修正に異をとなえるつもりはないし、景気が均してみれば回復局面にあることについて異論があるわけでもない。ただ、2月といえば、新型コロナウイルスの感染急拡大が続いており、個人消費が大きく落ち込んでいた月である。1~2月の個人消費の落ち込みを主因として1-3月期のGDPもマイナス成長になったとの見方も多く、このタイミングで基調判断が改善へと上方修正されたことについては、一般的な景気認識とややズレが生じたと言っても良いだろう。

サービス消費が反映されない景気動向指数

こうした乖離の理由として、CI一致指数の採用系列に偏りがあることが挙げられる。CI一致指数は、生産指数(鉱工業)、鉱工業用生産財出荷指数、耐久消費財出荷指数、労働投入量指数、投資財出荷指数(除輸送機械)、商業販売額(小売業)、商業販売額(卸売業)、営業利益、有効求人倍率、輸出数量指数、の10の指標から構成されているが、このうち半分が生産や出荷、輸出といった製造業関連で占められていることに加え、サービス消費を直接反映するものはない1 。個人消費に関連があるものとして耐久消費財出荷指数や小売業販売額はあるが、耐久消費財出荷指数は輸出(特に自動車輸出)の影響を大きく受けるため純粋な消費関連とは言い難く、小売業販売額指数は財のみが対象でサービス消費が含まれていない。

サービス消費は安定的に推移する傾向がある上、消費に景気を牽引するほどの力強さもなかったことから、過去においてはサービス消費の動きが景気循環を引き起こすことはなかった。結果として、日本の景気循環はほぼ製造業で説明できており、CI一致指数が製造業中心であっても特に問題が生じることはなかった。

もっとも、新型コロナウイルスの登場以降、状況は変化している。感染の急拡大と度重なる行動制限、その後の感染の抑制と行動制限の解除により経済活動は大きく変動したが、その影響は対面型サービス業に集中する。実際、22年1~2月のオミクロン株の急拡大局面でも、サービス消費の落ち込みが景気を大きく下押しした一方、製造業の生産活動については、昨年秋の自動車生産の極端な落ち込みからの戻りの過程にあったため、同時期にも緩やかな改善を示していた。GDPにおいては前者(サービス消費)の影響が強く出る一方、CI一致指数には後者(製造業生産)が反映されることから、両者に乖離が出た格好である。

似たことは21年初にも起こった。21年1月も新型コロナウイルスの感染急拡大と緊急事態宣言の発令があり、サービス消費は大きく落ち込んだ(21年1-3月期のGDPもマイナス成長)一方、製造業部門への影響は相対的に小さく、輸出・生産は底堅さを保っていた。その結果、21年1月には緊急事態宣言が出ているなかでCI一致指数の基調判断が上方修正(下げ止まり→上方への局面変化)されていた。

CIがサービス消費を反映できない以上、今後もこうしたことは起こり得る。たとえば、感染状況がこのまま改善を続ければ、抑制されていたサービス消費のリバウンドが生じ、経済活動が大きく押し上げられる可能性がある一方、グローバルな供給制約から製造業の生産活動は落ち込むといったことも十分考えられる。この場合、今回とは逆の形で乖離が生じることになる。

経済のサービス化への対応を

もちろん、GDPと景気動向指数の動きが必ずしも一致している必要はない。景気動向指数は景気変動を的確・迅速に把握するため、景気に敏感に反応する系列を統合して作成されており、GDPとは作成方法も目的も異なる。景気動向を敏感に反映し、景気循環を引き起こす原動力となる製造業に関する指標が景気動向指数の中心となることに違和感はなく、今後も製造業を中心とした景気判断を行うことは妥当だろう。

ただ、それも程度問題だ。実際、コロナ禍が長期化するもとで、サービスが景気動向指数に含まれていない弊害も目立つようになっており、見直しを検討すべき時期がきているのではないだろうか。また、新型コロナウイルスの影響如何に関わらず、経済のサービス化が進み、サービスの重要度が高まり続けるなか、いつまでもサービスが景気動向指数に反映されないという状況が好ましいとは思えない。

景気動向指数の採用系列は、概ねひとつの山もしくは谷が経過するごとに見直しを行うこととされている。サービスは安定的に推移する傾向があるため山谷が判別しにくく、適切な月次指標が見つけにくいという問題があるほか、サービス関連系列を採用することで過去の景気判断との整合性の問題が生じる可能性があることは確かである。もっとも、景気動向指数が正しく景気実態を反映しているものであり続けるためにも、サービスの動向を取り込む努力はすべきだろう。サービスそのものを採用するのではなく、消費関連の指標を、財のみではなくサービスを含めた個人消費全体を表すものに変更するといった取り扱いも考えられる。次回の採用系列見直しにあたっては、サービスに関する系列の採用を前向きに検討すべきと考える。


1 強いて言えば、「営業利益」と「有効求人倍率」のなかにサービス業の動向が一部反映されている。

新家 義貴


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新家 義貴

しんけ よしき

経済調査部・シニアエグゼクティブエコノミスト
担当: 日本経済短期予測

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