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2022.04.26
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トルコ、実業家への終身刑判決で対外関係の悪化リスクが再燃
~経済のファンダメンタルズの悪化が続くなか、外交関係の悪化も重なりリラ相場の不安要因は山積~
西濵 徹
- 要旨
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- トルコでは昨年、インフレにも拘らず中銀が利下げを強行して通貨リラが暴落する事態に発展した。中銀はリラ相場の安定を目的にリラ建定期預金の米ドルペッグという奇策に動き、その後の資本規制も重なりリラ相場は落ち着きを取り戻している。ただし、足下ではウクライナ情勢の悪化も追い風に経済のファンダメンタルズは悪化の度合いを強めるなど厳しい材料は山積する。こうしたなか、25日に実業家のオスマン・カバラ氏に対してトルコの裁判所は国家転覆罪による終身刑判決を下した。同氏の逮捕を巡っては、欧米諸国がエルドアン政権による弾圧と批判を強めてきたほか、昨年には大使への追放騒動に発展した経緯がある。ウクライナ問題を巡ってトルコが仲介に動くなか、トルコと欧米諸国との関係悪化が決定的な状況に陥る事態は考えにくいが、経済のファンダメンタルズに加えて外交関係の悪化など、リラ相場への悪材料は山積している。
トルコでは昨年、世界経済の回復による国際商品市況の上昇に加え、過去数年に亘る通貨リラ安に伴う輸入物価の押し上げも重なりインフレが昂進したにも拘らず、中銀は『金利の敵』を自認するエルドアン大統領による圧力に屈する形で計4回の利下げを実施するなど、経済学の定石では考えられない政策運営が行われた(注1)。なお、国際金融市場では商品市況の上昇に伴う全世界的なインフレが警戒されており、米FRB(連邦準備制度理事会)がタカ派姿勢を強めるなど新興国を取り巻く環境変化が予想されたことも重なり、昨年末にかけては資金流出が加速して通貨リラ相場に対する調整圧力が強まった。こうした事態を受けて、中銀は昨年末にリラ相場の安定を目的にトルコ国民によるリラ建定期預金について、ハードカレンシーに対する価値を政府が補償する事実上の米ドルペッグという『奇策』に動いた(注2)。奇策の発表直後のリラ相場は大きく混乱したものの、その後は事実上の資本規制の実施なども影響して落ち着きを取り戻しており、一見すれば混乱は一巡しているとみられる。しかし、足下の国際商品市況はウクライナ情勢の悪化を理由に幅広く一段と上振れしており、インフレは一段と昂進している上、貿易赤字は拡大するなど対外収支の悪化に繋がる動きもみられるなど、経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)は脆弱さを増している。さらに、国際商品市況の上振れを理由に米FRBなど主要国中銀は軒並みタカ派姿勢への傾斜を強めており、経済のファンダメンタルズが脆弱な新興国は資金流出が懸念される難しい状況に直面しており、金融引き締めを余儀なくされる動きもみられる。こうした状況にも拘らず、トルコについては上述のように事実上の資本規制も影響して通貨リラ相場が比較的落ち着いた動きをみせていることを理由に、中銀は今月の定例会合でも4会合連続で政策金利を据え置くなど『どこ吹く風』の様相をみせている(注3)。他方、ウクライナ問題を巡ってトルコはロシアとウクライナの両国の仲介を買って出るなどの動きをみせているものの、現時点においては目立った進展に結び付く状況とはなっておらず、トルコにとっては外国人観光客の減少が景気の足を引っ張るとともに、対外収支の悪化を招くなど経済のファンダメンタルズの改善が見通せない状況が続いている。こうしたなか、トルコでは25日、実業家で慈善事業家、人権活動家でもあるオスマン・カバラ氏に対して、裁判所が2013年に発生した反政府デモに対する資金支援により国家転覆を企てたことを理由に終身刑とする判決を下した。カバラ氏は容疑を全面的に否定する一方、同氏の裁判は4年半以上も事実上のたな晒し状態となってきたにも拘らず当局は身柄を拘束し続けたため、2019年に欧州人権裁判所がカバラ氏に対する逮捕容疑の合理的根拠の不在や司法の独立性を巡る懸念を理由に釈放を命じるなど、欧州諸国もエルドアン政権による『弾圧』を批判してきた。この問題を巡っては、昨年10月にトルコ駐在の10ヶ国(カナダ、デンマーク、フランス、ドイツ、オランダ、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、ニュージーランド、米国)の大使館が共同でカバラ氏の即時釈放を求める声明を発表し、エルドアン大統領が一時10ヶ国の駐トルコ大使に対する「ペルソナ・ノン・グラータ」による国外追放を指示する騒ぎに発展した経緯がある(注4)。その後エルドアン大統領は上述の10ヶ国が内政不干渉を遵守する声明を発表したことで大使に対する国外追放処分を見送る一方、欧州評議会は今年2月に欧州人権裁判所に対して判決の不履行を確認する審理を付託するなど異例の対応をみせてきた。こうしたなかでカバラ氏に対する終身刑判決が下されたことで、欧州諸国がトルコに対する態度を再び硬化させることが懸念される。上述のように、トルコはウクライナ問題を巡って仲介を買って出る動きをみせており、現時点において欧米諸国との関係悪化が決定的な状況に発展する可能性は考えにくいものの、リラ相場にとっては悪材料がもうひとつ重なったと見做すことが可能である。
注1 2021年12月17日付レポート「トルコ中銀の「逆走」はまだまだ続きそうだ...」
注2 2021年12月21日付レポート「トルコ、リラ建預金の「実質的な米ドルペッグ」という奇策を発表」
注3 4月15日付レポート「ウクライナ問題を機に新興国で広がる引き締めドミノも、トルコ中銀は「完全無視」」
注4 2021年10月25日付レポート「トルコ、2018年と同じく金融政策と外交問題の「コンボ成立」」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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